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祭りとは関係ない施設だからだろうな、やはり向こうと比べると人の気配は全然少ない。というかほとんどいない。
それでも出発した当初は誰もいなかったこのスキル抽出施設にも、今は魔族の警備兵が二人ほど入口に立って侵入者を見張っているのが窺える。
相変わらずやる気は無さそうだけど。
思えば魔王城の周辺も、闘技場へ入る前より今の方が巡回している兵士の数は多かった気がする。
城内全体が物々しさを増しているな、まあどう考えても牌谷さんが闘技場から忽然と姿を消したからだろうけど……。
それに協力者の存在も、未来視で聞いた魔王達の会話からしてある程度は露見していると考えた方がいい。
となると、施設の中へ入るにしても誰にも気づかれる事無く穏便かつ秘密裏に侵入しなくてはならない。
そりゃ兵士を殺して死体を処理すれば簡単に入れるけど、「見張りが消えた」などと言う不審な情報が上に伝われば、俺の能力を看破しかけていたあの魔王達ならすぐに抽出施設に目星を着けて再び調査するくらいの事はやるだろうと簡単に予想できる。
さて、どうするか……。取りあえずベタなやり方でいってみるか。
「牌谷さん、できればでかまいません。血を操って向こうの離れた茂みで物音を立てたりできますか……?」
「オッケー、そのくらいなら全然大丈夫だよ……」
「ちなみに、どの程度の距離まで操れるんですか……?」
「んとね、マックスで五十メートルくらいかな。離れれば離れただけ精度も威力も落ちちゃうけどね……」
「十分です……」
まずは少し離れた茂みを揺らしてもらう。
案の定、見張りのオークとトカゲ人間的な見た目の奴……まあリザードマンでいいか、が反応を示した。
「おい、あそこ。物音してねえか?」
「ああ、なんかいるな」
「お前ちょっと見てこいよ」
「いやお前がいけよ」
「お前、さてはビビってんな?」
「はっ、いやいや、お前だろ」
一人じゃ意味ないからなぁ、頼むから二人で行ってくれ……。
そう軽く念じてみると、どうやらその願いは通じたらしい。
「……例の逃亡者だったらどうするよ?」
「お前もしかしてマジでビビってんのか?」
「馬鹿! 聞いてないのかよ! 逃亡者の女、あの寵姫の魔女を殺して逃げたらしいぞ……」
「魔王様お気に入りのヴェネム大森林の魔女をか!? そりゃやべぇ、応援呼ぶか?」
「いや、はぐれ屍鬼や野良の魔物だったら赤っ恥だ。まずは二人で見てみようぜ」
「…………だな」
二人は入り口を離れ、そろりそろりと茂みに歩み寄る。
それに合わせて牌谷さんは操血球を揺らしながら茂みの奥へと動かす。
物音に連られて、ゆっくりとそれを追う見張りの二人。
今だ……。
静かにドアノブに手を掛けるが、開かない。
マジか、鍵が掛けられてる……!
「どうしたの……?」
「いえ、鍵が……」
「──! まかせて……」
そう言うと牌谷さんは繋いでいない方の傷口のある掌を鍵穴に当てがい、一瞬集中した後に鍵を開けるように手を回す。
カチャン──と錠の外れる音。
「いこうか……」
「は、はい……」
そうか、操血で鍵を型どったのか。
離れれば精度が落ちる、つまり近ければより精密に動かせる訳だもんな。
現代の電子キーならともかく、この程度の旧式の鍵なら簡単にコピーできちゃうと。発想と応用、閃きの早さ、さすがっす。
ちなみに中に誰もいない事は確認済みだ。
鍵が開いた瞬間『未来視』を発動させ、中を軽く探索しておいたからだ。
ふふふ、牌谷さんばかりに良い格好はさせられない。とは言ってもこれは誰が知ることもない仕事なんだけどさ……。
入り口の鍵を内側から閉め直し、抽出部屋まで降り、扉を開けて中へ入る。
相変わらずだだっ広い部屋だ、人を五十人くらい寝転がせてもなお余裕があったのだからそりゃそうか。
しかし、ようやく一息つける場所まで辿り着いた。
と、二人で部屋の隅っこに座り込む。
「なんか、安心したらお腹空いたね、さすがに食べられそうな物は置いてないよね……」
周囲を見回して残念そうに俯く牌谷さんに鞄を開いて見せる。
「ですね。あの、これ、なにか食べられそうな物あったらどうぞ」
晩餐会場でパクってきた食糧だ。
こんな事態だから衛生観念がどうとか言っていられない納め方しちゃったけど、なるべく汁気の無いものにしておいたから大丈夫……だと思う。
そして飲み物も瓶ごと持ってきた。
「すごい、食べ物まで用意してるとか流石だねクロ君!」
「いえいえ……そんな……」
「ごめん、頂きます!」
「お、俺も……!」
余程お腹が空いていたのだろうか、それとも貧血と毒の反動か、牌谷さんは結構な食欲で食べ物にがっつく。
まあ、俺も人の事は言えないくらいがっついていたけども……。
それでも手だけは繋いだままだ。そこは忘れないようにしながら、鞄にあるものをとにかく二人で食べ漁った。




