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治療とは言ったものの、救世の翼には意外にも聖女の祈りしか回復スキルはない。
スキル構成からして基本的には殺られる前に守るという設計思想なのはなんとなく解るけど、俺のような魔力量じゃそれはちょっと厳しいかな……。
いや、ぐだぐだ言っても仕方ない。とにかく今はできることを探そう。
「エル、毒だけじゃないって言ってたな。じゃあ他はなんの問題があるんだ?」
「キヅナちゃんはさっきの戦いで血を盗ラレすぎたんダヨ」
「盗られた?」
「あくまでも血液カラの情報による僕の予想だけどナ、こう言う事ダヨ」
送られてきた共有情報。
エルの分析としては、グール達が牌谷さんから操血スキルで攻撃を受ける度に、その血液を掠め取っていたんではないか、と考えているようだ。グールは生き血を好むそうだから、あり得ない話ではないらしい。
その証拠に、彼女の血液の総量はかなり減少していたらしい。
そしてそのせいで重度の貧血を起こし、更に追い討ちをかけるよう相対的に血中濃度を上げた毒が暴れだしたことで急速に体調を崩したと言うのが今のところの見解のようだ。
「要するに、血が足りてない上に毒状態って訳か」
「そうダヨ」
毒はどこでもらったんだ……。いやあそこしかないだろうな、魔女ルサーリアとの決闘だ。
魔女がどうやって牌谷さんに毒を与えたのかは解らないけど、思い当たる節があるとしたらあの場面しかない。
幸いにも致死量ではなさそうだけど、こんな状態では安全な場所に移動させることもできないぞ。
考えろ、考えろ。
牌谷さんは血液に所縁の濃い魔族の血縁だと言うことは間違いない。
日本で言えば磯姫、野衾、海外ならヴァンパイアやダンピールと言った存在がよく聞かれるけど、どれも血を食事とする場合が多い。
これらの存在が転移してきた魔族や魔物であり、彼女のルーツであるとするなら、彼女も血液の経口摂取で貧血症状が回復する可能性はある。
毒はどうするか。何かしら抗体を彼女に与えられるものがあるだろうか……。
血液と毒抗体、そのどちらも両立する適材が一つある。
俺の血だ。
毒抗体に関しては、最初のスキル抽出部屋での毒分解や、闘技場の戦いでの毒分解によって、魔女ルサーリアの毒に対する抗体は十分に持っている……はずだ。
飲んだだけでそれが効果があるのかは解らないけど、やるだけやってみる価値はある、多分。
「エル、一つ試してみたい事がある」
「何をするんダ?」
「まあちょっとオカルト的ではあるんだけどな、見ててくれ」
牌谷さんが腰に佩く革のホルダー、そこに納められた自傷用のナイフ。
それを抜き取り、左手で握り締め、刃を手前に一気に引いて自分の掌を切り裂く──と同時に溢れ出る深紅の血。
いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
マジで痛いって!
マンガとかアニメの主人公って、こういうのやるとき顔色一つ変えないけど無理無理無理、マジ無理!
ぐぅぅぅぅ、格好つけてちょっと深くやりすぎた……。
でも平気なふりで……、何事もない顔でいよう。それがこの場面では一番重要なことだと思う。
もしかしたらマンガやアニメの主人公も、こういうのやった時はそうとう我慢していたのかもしれないな……。
そうだ痛くない、痛くない。
やっぱ痛い……。
だけどいつまでも痛みに支配されている場合じゃない、無駄なくこの血を彼女の口に注がなくては。
あ、でも普通に考えたら他人が血液を口に流し込んできたらめっちゃ嫌だよな……。
ま、まあ緊急事態だから勘弁してください……!
申し訳ない感情を抱きながらも、予想より大量に流れ出る血を彼女の半開きの口へ注ぎ込んだ。
すると異変が起こる。
牌谷さんは意識が朦朧としたまま俺の手を掴むと、まるでオアシスを見つけた砂漠の遭難者のように必死に流れ出る血を啜り、喉を鳴らし、嚥下する。
それは一時の間ではあったけど、彼女が満足するまで続いた。
牌谷さんは恍惚の表情を浮かべながら血を飲みつつ、徐々にその意識を覚醒させていったのだろう。
その思考が完全に戻り、俺と目が合うと、恥ずかしそうに頬を赤く染め、気まずそうな色の眼差しで一言吐き出す。
「う、ウチ、なにしてんの……かな?」
えっと……なんでしょうねえ……。




