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異世界召喚されたんだけど、なんか様子がおかしい  作者: よく知らんロボ
第二部 二章 西の魔女

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 余裕の足取りで近づいてくる四本腕の魔族、その恐ろしげな異形を目にしたカオルは逃げ出したくてたまらなかったがそれも難しい。


 森の中へと逃げたところでそちらも危険は多い、暗い森を闇雲に走り回って道に迷えばそれこそ命取りであるからだ。


 だが彼女がこの場に足をとどめていた理由はそれだけではない、この魔族には聞きたいことが幾つもあるのだ。

 カオルは妙なところで好奇心が強く、それは時に痛みや恐怖すら凌駕することもある。


「あ、あなた誰? さっきは何してたの? なんで、ノクス様の声が聴こえたの? ノクス様のことを知ってるの?」


 内心はどうであれ、一見すれば物怖じすることなく質問を飛ばしてくる小娘。


 どうやら魔族もその様子に興味を惹かれたらしく少し離れた位置で足を止め、揚々と喋りだした。


「質問が多いなぁ、まあいいか。殺す前にタネ明かししてやるのも楽しみの一つだからなぁ。一つ目だが俺の名はガウル、お前ら人間が魔族と呼んでる者の一人だ。二つ目は──」


 嘲笑を浮かべるガウルが、言葉を止めて向けてきたその左手の甲には緑色の刻印が刻まれている。


「答えは、これを見せれば解りますか?」


 そう口にする彼の声は紛れもなくノクスの声であった。


 目の前にいるのはガウルだ、それを見ていながらもなおカオルは困惑する。

 その声は酷似していると言うレベルではなく、そこにノクスがいるのではないかと錯覚してしまう程であったからだ。


『スキル:響心操音』

『ランク:レア』

『フォーム:常態パッシブ及び能動アクティブ、強化、特殊』

常態パッシブ、聴覚を強化及び術者の感応力を極限まで高める事により、音からあらゆる情報を汲み取る事が可能となる。能動アクティブ、魔力を消費することで発動。術者は自身の声であらゆる音を自在に再現できる。術者が実際に耳で聴いた音はより忠実に再現可能』


「俺のスキルはその気になりゃ数キロ先の蝶の羽ばたきだって聞きとれるし、どんな音だって再現できる。再現てのはただの物マネじゃねぇ、物質や生物が発する音に混ざってる微量な魔力の波長までそっくりそのまま再現するからよぉ、まるで本物がそこにいるみたいだろ。ちなみにドアの外で出した音は全部実在のダンジョンミミックから拾ってきた音だ。クオリティにはこだわらなくちゃなぁ。しかしよぉ、引っ掛かったマヌケにタネ明かしする時ってのはなんでこんなに楽しいんだろうなぁ」


 得意気に、なんとも楽しげに口数多く語るガウル。


 ミミックと言えば宝箱に扮して獲物を待ち構えるモンスターを思い浮かべるものだが、この異世界島においてはその限りではない。


 ダンジョンでは宝石や金貨に化けるものや、獲物の声を真似て誘き寄せる者、姿を似せて近づくものなど様々な手法が存在するため、何かを模倣したり擬態することで獲物を騙して狩る者達をミミックと総称して呼んでいるからだ。


 ガウルは自慢のスキルでカオルを家から誘き出したが、この手法こそミミックのそれと言える。

 彼は性質、性格からしても分類するならミミックに属する魔族。だが知能の高さと、スキルの力を使い人の感情まで利用するその狡猾さはダンジョン魔物や魔獣のミミックとは危険度が段違いである。


「あとはノクスを知ってるかだったなぁ。この辺の同胞であいつを知らない奴はいねえさ、なんせ魔王の右腕だったからよ。それに強えし綺麗だからな。お前のことは随分監視させてもらったぞぉ、あの裏切り者に惚れてるのも声色ですぐに解ったぜ」


 惚れてる、などと他人に改めて言われると少々気恥ずかしいが今更それを否定する気もない。

 それよりもカオルの気に障ったのは裏切り者などと彼を揶揄した点だ。


「むぅ、裏切り者……?」

「今俺たちがこんな世界に飛ばされて下等な人間共に住む場所を追われているのは、あの日あの野郎が人間にくみしたからだ。ふざけやがって絶対に許さねえ、だからまずはお前だ。何故か知らんが可愛がっているようだからなぁ、犯した後に生きたまま喰いながら殺してその首を玄関先に吊るしておいてやるぜ。それにしても久しぶりの人間の肉だぁ、それも若い女。楽しみだなぁ」


 クロが魔王を下したあの日、おそらくガウルは少し離れた場所からスキルの強化聴覚によって一連の流れを聞いていたのだろう。


 ただし、クロが勝とうが魔王が勝とうが星澪ほしみお奏紗かなさは時の精霊による大規模転移を実行したのだろうからこれはある意味で御門違いの恨みとも言える。

 そしてそれが解らないほどガウルは愚かでもない。


 それでも彼が求めているのは、魔族の置かれた現状に感じる憤りをお手軽に解消することのできそうな標的なのだろう。

 向けた怒りの矛先が正しいかどうかは問題ではないらしい。


 当然カオルにはなんの事だかわからない。


 だから彼女がガウルの文脈から拾った重要な文言は「可愛がっている」という部分、それともう一つ。


「そっか、わたし……可愛がられているように見えるんだ、嬉しいな……。」


 うつむいて小さく呟いたカオルは、顔を上げて続ける。


「え~と、今の話からすると……恨みがあるならノクス様に直接いくか、(ノクス様が思いを寄せてるから)ルサーリアさんにいく方が一番ダメージを与えられると思うんだけどな」


 ノクス様の気持ちなんてわたしでも解る。声色から様々な情報を汲み取れるこの魔族なら当然それも知っているはず。

 自分で言っていて情けないけどそれが事実だ……。


 そう思いながらもカオルは喋り続ける。


「それなのに結構な期間、二人には手を出してないって事は要するにあなたはノクス様やルサーリアさんには卑怯な手を使っても絶対に勝てないから、一番弱そうなわたしで憂さ晴らしがしたいってことなのかな?」


 これを言われてはニヤけていたガウルも目を吊り上げ鬼のような形相に変わらざるを得ない。


「お前なんつった、自分の状況を理解ってんだろうなぁ……?」


 相手の思惑が分かったとしても言うべきではない状況である。が、カオルは決して挑発や侮辱をしたわけでない。


 生まれてから近年までずっと行動や言論を抑圧されてきた彼女。

 それが現環境によって心が解放されたことを切っ掛けに、なにか閃いてしまうとつい口にしてしまうのだ。


 勿論ノクスやルサーリアに対しての失言にだけは万全の注意を払っているのだが、最近の彼女の少し悪い癖とも言える。

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