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新婚生活.9

 ライマの着たドレスは全体的にはパールホワイトのしっとりした艶やかな生地で、裾が薄いセロファンのように透けた七色の生地で大小の薔薇のコサージュがふんだんに縫いつけられてあった。 布地はライマの銀髪と同じように淡く光りを放ち、とてもよく似合っている。

 ただそんな静かな湖面のように美しいドレスとは対照的に、ラフォラエルにお姫様抱っこされたライマは真っ赤になって彼の束縛から逃れようとアタフタと慌てていた。


「ああ、もー、暴れるなってば」

「だ、だだだ、だって!」


 ライマとしては正直、こんな格好は恥ずかしいのである。 ラフォラエルの前では常に女の子でいたから今更スカートでもドレスでも何でもござれだが、今、目の前にいるのは何といっても男の姿しか見せたことのない陛下がいる。 いや、佐太郎にだって女の子的な部分は殆ど見せていない。

 更に「自分はいつでも完璧でっす」みたいに普段はクールな姿と、この抱きかかえられた姿は180度違う。


「だから、静かにしろって。 ん?」


 ラフォラエルはあやすようにライマの額に口づけをして、キュッと抱いた両手に力を込めた。

 ライマは動きを止め、恥ずかしそうに俯いてラフォラエルに身をよせた。


「おおおおお~~! ラムールが、ラムールが、他人の命令を聞いておる~~!」

「へ、陛下っ!」


 ライマが悔しそうに声をあげるが陛下ときたら両手を叩きながら大喜びのハイテンションだ。

 そんなやりとりを苦笑しながら見届けたラフォラエルはライマを抱いたまま陛下のすぐ目の前まで近付き一礼した。

「陛下。 紹介致します。 妻のライマです」


「ほぅ、妻とな? 本当かそれは?」

 陛下は意味ありげにニヤリとライマに視線を向ける。 ライマはちょっとだけ言いにくそうに、小さな声で「本当です」と返事をした。 


「うむ。 幸せになるがよい。 おめでとう」

 本当に嬉しそうに目を細め、陛下は心からのお祝いの言葉を述べた。


「おめっとさん」

 佐太郎もにっこりと笑って祝福した。


 恥ずかしいのと嬉しいのとで、ライマは言葉にできず、ただ頷いた。

 それを確認した佐太郎と陛下は視線を合わせてにっこりと笑う。


「なぁ、ライマ」

 佐太郎が告げた。

「今、お前が着ているドレスは、ガルオグからの特注品なんだぜ?」


 ライマが驚いてラフォラエルを見ると、彼はその通りだと頷いた。 陛下も満足そうにしげしげと眺めた。


「姫がいたならば着せたいと思っていたドレスじゃ。 よく似合っておる」


 娘のように慈しんでくれたのかと、陛下の思いを感じたライマは胸が熱くなる。


「陛下。 何と御礼を申し上げて良いか……」


 ライマがそう告げると、陛下と佐太郎は再び「にやっ」と笑った。


「礼なぞいらぬよ」

「いえ陛下、それでは私の気が……」

「ガルオグ。 ライマの御礼をしたいという気持ちをくんでやれや」


 佐太郎の言葉にライマが力強く頷くと、再び陛下と佐太郎は「にやっ」と笑い、告げた。


「それじゃ夫婦の誓いのキスを見せてもらおうとしようかの、佐太郎」

「おう! 当然だなガルオグ♪」

「はぁっ? 陛下、佐太郎、今、何てっ?! そんな、人前でキスなんかできませんっ!」


 ライマが慌てると、やはり陛下達は大喜びだ。 ラフォラエルといえば予想していたのだろうか、ちょっと呆れたように苦笑するだけだった。

 佐太郎と陛下はタッグを組んでここぞとばかりにたたみかける。


「儂への御礼じゃ、御礼」

「人前でキスできない、って、それじゃあ結婚式でキスするのもできないだろっがよ」

「キスが出来ないということは、ラフォラエルよ、ライマはお前との関係を認めて欲しくないらしい。 愛されてないのぉ、可哀想に……」


「なっ! 私はちゃんと彼を愛してますっ!」

 ライマはムキになって反論したが、それは陛下達に新しい餌を与えて喜ばせるだけだった。


「……だから恥ずかしい目に遭っても平気かって尋ねただろ?」

 ラフォラエルが小声でささやいた。

 そういう訳だったのかと納得しても時既に遅し。


「ライマが自分からするのがどうしても恥ずかしいっていうのなら、俺からしてもいいけど?」

「えっ? ホント?」

「いかんっ! ダメぢゃダメじゃっ! ライマからじゃ! そこは譲れんっ!」

「陛下っ! セクハラっ!」

「何を言う! ライマが本当に自分の意思でその男と一緒になりたがっているか、その確認じゃ!」 

「陛下ぁ!」


 しかしライマがいくら拒もうが、陛下は一歩も譲る気配を見せず。

 押し黙ったライマを見てラフォラエルは覚悟ができたのだと悟ったのだろう、そっと抱いていたライマを降ろして向かい合う。

 ライマは佐太郎達の方を何度かちらちらと悔しそうに見てからラフォラエルの顔を見る。

 ラフォラエルといえば、「ん♪」と余裕たっぶりに、ほんの少し微笑むように目を閉じて待っている。


「陛下。 一回だけ、ですからね」


 ライマはそう呟くと目を閉じて、つま先立ちで、その唇を彼の唇と軽く重ねた。


「ぉおっ!」


 なんて陛下の感嘆の声を無視して、ライマはさっさと身を離し目を開ける。 するとそこにはやや満足そうなラフォラエルが目を開けてにっこりと微笑んでいて――


「……あいしてます」

 ライマは誓いの言葉を口にした。

「俺もだよ」と、ラフォラエルが口づけを返す。

 彼のキスが嬉しくて、ライマは彼が求めるままに応えた。


「うおっほんっ!」

 室内に陛下の大きな咳払いが響き、ライマは我に返り唇を離した。


「近年稀に見る熱々さんじゃの」

 陛下は穏やかに佐太郎と目を合わせて穏やかに笑う。


「さて! では陛下、佐太郎さん。 私と妻はここで失礼させて頂きます」

 ラフォラエルはそう言って再びライマを抱き上げる。


「おぅ。 十日間、思う存分楽しめや」

 佐太郎が軽く手を挙げた。 

 するとラフォラエル達は一礼して、元来た扉をくぐって部屋を出て行くと、科学魔法の扉は役目を終えて露と消えた。


「あいつら、未練もなく行きやがったな」

「うむ。 ……にしても、姫の服は選び甲斐があったのー。 ……次は赤子の服選びか」

「気がはえー」


 そんなことを言って笑いながら、佐太郎と陛下は再びチェスの盤に向かった。




+++




「あー、もぅ、恥ずかしかったぁ」

 家に戻ったライマは彼の腕から下りると、真っ赤になった頬に両手を当てた。


「キス、よくできました」

 ラフォラエルは笑いながらライマの頭に軽くキスをして離れ、服を脱ぎ出す。

「ライマも脱げよー?」


 背を向けたまま彼はそう言うが、ライマはちょっと戸惑った。

 だって、自分で脱ぐよりは――脱がしてらもう方が雰囲気があるではないか。

 そんな事を考えながらもぞもぞとしていると、「どした?」と彼が不思議そうに声をかける。


「えと、あっ……ラフォー? ……何してるの?」


 見るとそこには旅人の服に着替えたラフォラエルがいる。


「あれ、言わなかったっけ? 新婚旅行に行こうと思って舟券をもう用意したんだけど」

「聞いてない!」


 目の前にひらりと出された舟券に驚きながら、ライマは肩まで下げて脱ぎかけたドレスを慌てて上げた。 脱げと言われたので、まさか着替えとは思わず脱ぐことしか頭になかったのだ。

 バツが悪そうに上目遣いで見るライマを見て、ラフォラエルはクスクスと笑った。


「だってさ、二人で時間とって旅行なんて、こんな機会じゃないと。 それに」

「それに?」

「絶対、陛下と佐太郎さんは今頃俺が猿になってると考えてるだろうから、思い通りにはなんかシャク」

「……サル?」

「はは。 やっぱりライマは分からないかな。 大丈夫。 後で分かるさ。 さ、とりあえずさっき渡したアレを着て出発しよう」

「あれって、人工皮膚?」

「そそ。 やっぱりラムール様と一緒に外は歩かなきゃな」


 にこやかに告げるラフォラエルを見ながら、ライマはちょっと複雑そうに眉を寄せる。

「……ラムールの姿でしか一緒に外を出歩けなくても……いいの?」


 するとラフォラエルは優しく頷く。

「ラムールの姿だからいいんだよ。 ライマに他の男からの視線も浴びせなくて済むし、何より俺の作った人工皮膚がぴったりとライマの体を覆ってると考えただけで……っと、やべ」


 ラフォラエルは頬を染めながら言葉を止めたが時既に遅し。


「ラフォーが私の人工皮膚を作ってくれたの?!」

 ライマは目を丸くした。

「ん。 作り方も教えて貰ったし、今度からは俺が作ってやろうかなって」

「すごい! さっき見た感じじゃ、佐太郎が作ってくれたのと全然変わらなかった!」

 飛び上がらんばかりに喜ぶライマを見て、ラフォラエルは小さく微笑みながら顔を寄せた。


「俺、結構、嫉妬する方だから」

 こつんと額を合わせる。

「基本、ライマは俺だけのものであって欲しいから」

「……ちょっとその気持ち、分かるかも……。 だって私も、ラフォーを女官達の前に出すのは少しだけ不安っていうか……」

 ライマは胸の奥に秘めた微かな思いを口にするとラフォラエルの唇が優しく頬に触れた。

「やべ、俺、嬉しい」


 ラフォラエルはライマのさらさらとした銀髪に指を通して撫でていく。

 二人は顔を寄せたままなのでラフォラエルの黒髪が彼の指に絡まりライマの銀髪と共に梳かれ、二色の髪が混ざり合う。

 混ざり合った銀と黒の髪にちらりと視線を移して、ラフォラエルはちょっと困ったように眉を寄せた。


「ラフォー、どうしたの?」

「いや……。 ちょっと先に進みたくなった……」

「え?」


 ラフォラエルは指に二色の髪を絡ませながら呟く。


「でもそうすると船の時間に間に合わない……」


 真剣に悩む彼を見てライマは小さく笑ってから、そっと耳元で囁いた。

 それを聞いたラフォラエルは面白そうに笑い、髪を絡ませたままひょいとライマを抱き上げた。

 視線を合わせたままライマが尋ねた。


「採用?」

 愛おしそうに見つめ返したまま、ラフォラエルは答えた。

「その案、採用」

 




 その後どのような行動に移ったかは、彼女達二人だけの、秘密。







                             完





 御拝読ありがとうございました。

 もっと早く完結させるつもりだったのですが、多忙を極めパソコンで遊ぶ暇すらない毎日。 お待ち頂いた方、本当に申し訳ありません。

 本編でまたお会いできたら幸いです。




長文あとがき

 陽炎隊本編とは全く違う道を進んだ二人ですが。 書いていて楽しかったです。

 ある意味キャラが立っているので、話は進みやすく。 ただ、「悲しい・切ない」という要素を削って話を考えるのは難しかったかなぁ。

 脳内ではさらに先の話まで物事が進んでしまい、結婚生活でのもめ事も経て、いまんとこ、二人の子供が成長して、その恋愛部分までネタ出来てしまいました(爆笑)

 ただそれを書くには本編も進めないと超ネタバレになってしまうから、発表はできんなー、とか思っております。

 いつか書きたいです。


またご縁がありましたらお会いしましょう!


zecczec

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