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介護士は政治を語る

読んでくれてありがとうございます。

楽しんでくれると嬉しいです。


エルフ編は10話で終わるとか言っておいて、結局あと、2話足してしまいました。次のドワーフ編へ繋げるためです。

「国益。これが最も重要なことだ。

 なぜだか分かるかね?」


 領地に戻ると、待ち構えていたアーネスに拉致されるような形で、俺はただちにゴーファ公爵のもとへ連れて行かれた。

 で、何の用かと思ったら、始まったのは政治学の講義だった。

 ゴーファ公爵の質問に答えて、俺は口を開く。


「より多くの人々が、より多くの幸せを享受できること。

 取捨選択を余儀なくされる政治においては、これが最も現実的な目指すべき地点だと思います。

 『国は人なり』と申しまして、土地の広さではなく、そこに住む人々の生産効率こそが国力の源でありますから、より多くの人々を、より幸せにすれば、生産効率が上がる道理です。

 従って、これが国益を最大化する方法として最も理にかなっているものと思います。」


 介護職に進んだから大学時代のことはあまり思い出さないのだが、今回は珍しく思い出した。

 地方自治か何かの講義で、最大多数の最大幸福という話が出てきた。

 価値観や状況が異なる人々が大勢集まっているのが「社会」であり「自治体」であり「国家」である。そうした集団において、意見を完全に統一するというのは無理だ。まあ、少人数の集団ならいちいち全員が納得するまで話し合うこともできるだろうが、その集団に所属する人数がほんの数百人になった段階で、もうそれは現実的な方法ではなくなってしまう。いわんや国家をや。

 そのため政治の役割とは「優先順位を決定すること」に尽きる。その優先順位はどのように決定されるべきかというのが「最大多数の最大幸福」なのだが、これを実際にやってみると、わずかな変更でも大勢が多大な影響を受けるために、ああでもないこうでもないという泥沼のような議論が続いてしまう。

 たとえば介護職は高齢化社会の中では必要な人員だが、人気がない職種だ。ここに人数を集めようと思うと、給料を上げるしかない。そこで処遇改善加算というものを付けて、給料を上げようというルールができた。介護職にとっては喜ばしい話だ。

 だが問題が2つある。

 1つには、予算がどこから出るのかという事だ。介護職の給料を上げるために増税するというのでは、マイナスの影響のほうが大きくなるように思える。しかし介護が必要になった家族を施設へあずけて働きに出られるのなら、休職して介護に努めるよりも経済的に負担が少ない可能性はある。果たして処遇改善加算でどれだけ介護職が増えて、どれだけ要介護者を多く受け入れられるようになるか、そしてどちらの影響が大きいのか。もうこれは、ああでもないこうでもないという話になること必至だ。

 もう1つは、処遇改善加算は施設単位で給付されるという事だ。つまり、施設内でどの従業員にどれだけの金額を支払うのかは、施設が決定できる。実際に「正社員には処遇改善加算がつくが、パートにはつかない」とか「介護福祉士の資格を持っている人だけにつく」とか「介護と関係ない一般事務職の連中にもつく」とかの「ちょっとどうなんだ、それ?」という配分をする施設は存在する。


「……なるほど。」


 ゴーファ公爵はちょっと驚いた様子で俺を見る。

 そして次に出す言葉を考えるように視線を泳がせた。

 おそらく、今回の俺の独断行動に対して「領主として自覚を持て」というような説教をするつもりで政治学の講義をしたのだろう。領民を放り出しての問題行動。今回の俺のやり方は、搾取する領主と似たようなものだ。ところが、俺のほうがゴーファ公爵以上に「領民のためになる政治の重要性」を理解しているものだから、叱りつけることができなくなった。

 そうなると、今度は「何を考えているんだ、こいつは」という事になるだろう。


「分かっているのなら、今回の行動についても問題性を無視してでもあえておこなうべき理由があったという事だね?」


 ほら来た。

 弁明してみろという言い方だが、本心は「教えてくれ」というところだろう。

 俺は黒幕の男を追いかける重要性を説明した。あの男を放置するのは、国を危険にさらすことだ。なにしろドラゴンに王都を襲わせるような輩だ。おまけにしつこくこの国を攻撃するような企みを続けている。

 領地を放り出していい理由になるかと言われると、ならないだろう。ただし居残って何ができるのかといえば、何も出来ない状態だ。指示は出し終わり、あとは行動してくれるのを待つだけなのだから。つまり出かけても問題ない。

 そして実際どうなったか。黒幕の男は取り逃がした。これは残念だ。当初の目的は果たせなかった。しかしエルフの王とのパイプができた。ゴーファ公爵の領地にもセシールしかエルフがいないというのだから、国全体でもエルフは数人しか居ないだろう。つまりエルフとの間に正式な国交がない。今回の俺の独断行動で、エルフとの国交が始まる可能性ができた。


「なんだと……!? エルフの王とのパイプが……それは本当かね?」

「はい。まだこれは報告していませんでしたね。」


 戻ってすぐに連れてこられたのだから、報告する暇などあるわけない。

 この土壇場でようやくという感じだが、それでも「相手の話を聞く」という事ができたゴーファ公爵は、たいしたものだ。叱るつもりで対面すると、もう叱りたくてしょうがない心理になってしまう人が多い。結果、相手の話を無理にでも否定してどうにか自分の意見を押しつけようとする。聞いている側からすると、なんと的外れな事を言う人だろうかと思えてくるのだが、本人はそこに気づかない。

読者様は読んで下さるだけで素晴らしい。

ブクマとか評価とかして下さった読者様、ありがとうございます。

作者は感謝感激しながら小躍りして喜んでおります。


「トランスポーター」もよろしくお願いします。

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