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第十章 停止

復生院の玄関へ、最初の石が飛んできたのは午前六時四分だった。


僕の肩を越え、扉に当たる。


二つ目は、エリクが抱えた書類の束へ当たった。


若い復生官は自分の頭でなく、四十二件の命札記録を庇った。


紙が玄関へ散る。


「順番が分からなくなりました」


エリクが青ざめた。


「死亡時刻で並べ直してください」


「今ですか」


「今です」


玄関前には四十七人いた。


エステル王女が一括停止した四十二件の家族。


石を持つ者。


命札を抱く者。


棺の保冷代を払えず、領収書だけ持つ者。


王宮は、王女が戴冠準備中に倒れたと発表していた。


死んだことは、まだ誰も知らない。


「おまえの印だろ!」


石を投げた男が、停止通知を掲げた。


下に、僕の監査印がある。


印だけは本物だった。


「期限の近い方から入れてください」


僕が言うと、怒鳴り声が重なった。


「昨日もそう言われた!」


「夫が死ぬと知らされていない!」


「うちの子は今日の日没だ!」


「止めた王女を出せ!」


エリクが床の紙を拾い、死亡時刻を読み上げる。


「本日十八時四十二分。リナ・ドレス」


「妻だ!」


男が娘の手を引き、前へ出た。


コルド・ドレス。


妻を荷車事故で失い、自分を代命人にしていた。


命札には、白花互助会の仲介印がある。


「契約時に銀貨二十枚を受け取りましたか」


「葬式代だ」


「命札を使えば、あなたはその場で死にます」


「知ってる」


隣の娘が父親の袖をつかんだ。


「お父さんも棺に入るの?」


コルドは娘を見た。


「ミナ。外へ」


「お母さんが帰ったら、お父さんいないの?」


「外へ行け」


肩を押された娘が、別の机へぶつかった。


そこでは十七歳の使用人、ネラ・クーンが、雇い主の息子に腕をつかまれていた。


「この子は承知している」


雇い主の息子が言う。


「給金を上げると聞きました」


少女は言った。


「死ぬとは聞いていません」


「署名しただろう!」


「字が読めないんです」


少女の命札にも、白花互助会の印があった。


雇い主の息子が彼女を引いた。


リゼが間へ薬箱を置く。


「その腕、あと一度引いたら外れるよ」


「脅すのか」


「診断」


男が手を離した。


少女は命札を抱え、受付の内側へ逃げ込んだ。


「これは停止を維持します」


僕が言う。


「こっちは!」


コルドが妻の札を掲げる。


「妻を戻したい。俺が決めた」


娘はまだ袖を離さない。


「お父さん、帰ろう」


「お母さんがいなくていいのか」


「お父さんもいなくなるのは嫌」


コルドの手の中で、赤い糸が軋んだ。


「日没前まで、別室を使えます」


僕は二人へ鍵を渡した。


「二人で話してください。解除するなら、もう一度ここへ」


「今、決めさせろ」


「娘さんが聞いたのは今です」


コルドは何か言おうとした。


娘に引かれ、別室へ入った。


その後ろから、空の命札箱が飛んできた。


「俺の妹は、昨日で終わった!」


石を投げた男だった。


ダン・モルド。


妹と、その夫の契約には金も仲介業者もなかった。


停止理由は、死亡診断を出した医師が白花互助会から寄付を受けていたこと。


本人たちを調べる前に、期限が切れた。


「夫婦で決めてた。夫は今朝、札を割った」


ダンが僕の印を指で叩く。


「これがなければ、鐘は鳴った」


「そうです」


「妹は帰った」


「それは分かりません」


ダンが二つ目の石を出した。


投げずに、机へ置く。


「死んだ奴が拒んだかもしれない。便利だな。その先は誰にも確かめられない」


僕は否定できなかった。


「王女へ伝えろ」


「何を」


「四十二枚の紙じゃなく、妹の棺を見に来い」


ダンは出ていった。


石だけが残った。


隣では使用人の少女が泣き、別室では親子の声が聞こえた。


午前中に解除できた札は三枚。


停止を続けた札は十九枚。


残り二十件は、事情を聞く列にいた。


エリクは昼を過ぎても、死亡時刻の順を一度も間違えなかった。


「この命令を受け取った時、何を見ましたか」


人が減ったところで、僕は聞いた。


エリクは四十二枚の通知を重ねる。


「王女殿下が持参されました。ハーグ復生官の監査印があったので、各復生堂へ送りました」


「添付の抽出条件は」


「ありませんでした」


「尋ねなかった?」


「尋ねました」


エリクの右親指は、紙の角を潰していた。


「殿下は、条件書は戴冠後に届く、先に全件を止めろと。期限が切れる札があると言ったら、自分がそれまでに調べる、と」


「あなたは」


「届けました」


声が小さくなる。


「印がありましたから」


僕も印を見た。


一か月前、エステルから白花互助会の監査を頼まれた。


対象を抽出したあと本文を入れる、空欄の続紙が五十枚。


僕は表紙と一緒に、すべてへ監査印を押した。


内容のない紙へ印を置いたのは、僕だ。


停止通知を灯りへ透かす。


紙の下半分に、王家の光写しを使った青い繊維が残っている。


エステルは僕の印がある空紙へ、四十二件の停止文を焼きつけた。


「あたしが渡したのは、白花互助会と関係する診療記録だけ」


リゼが言った。


「四十二件全部を止めるとは聞いてない」


「本人は、戴冠までに調べると言ったそうです」


机の石へ触れる。


冷たかった。


エリクが四十二枚を抱え直す。


「この印があっても、僕が配らなければ」


「僕が空紙へ押さなければ」


エリクが、石に当たって折れた紙の角を伸ばした。


折り目は残った。


「次からは、添付がなければ止めてください」


「次があるんですか」


エリクが聞いた。


「あります。王女殿下を戻す命令が」


彼の親指が止まった。


窓の外で、第三日の日没鐘が鳴った。


リゼがダンの石を、僕の印の上へ置く。


「エステルが嫌いになった?」


「最初から好きではありません」


「あたしは今日、少し嫌い」


石の下で、僕の印は見えなくなった。


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