第14話 幽霊たちの行軍(前編)
こんにちは、仁胡 黒です。
瀬戸山しおりが遺した「最後の鍵」を受け取った和戸とシャーロット。
しかし、その封印を解いた瞬間、レムナントの網膜に彼らの位置が鮮明に浮かび上がりました。
多摩川の風が吹く静かな街・昭島が、一瞬にして戦場へと変貌します。
現れたのは、感情を排したレムナントの「掃除屋」、ハッカー・ゼロ。
軍事用AIの圧倒的な物量を前に、和戸は「ジャンク屋」らしい奇策で立ち向かいます。
瀬戸山邸を後にし、夕暮れの昭島駅へと続く遊歩道を歩いていた時だった。
右目のレンズが、見たこともないような「真っ赤なエラーログ」を吐き出した。
『……警告! 周囲300メートル以内の全通信端末が、強制的に単一のプロトコルに書き換えられました。……和戸、これは「広域電子包囲」です!』
「……チッ、嗅ぎつけるのが早すぎるぜ」
俺は周囲を見渡した。
街灯が不自然に明滅し、すれ違う通行人たちのスマートフォンが一斉に、同じノイズを垂れ流し始めている。
そのノイズの向こう側から、一人の男がゆっくりと歩いてきた。
黒いタクティカルウェアに身を包み、両目には最新型のバイザーを装着した男。
彼は一切の足音を立てず、まるで影が滑るように距離を詰めてくる。
「……ターゲット補足。識別番号:JUNK-01(和戸宗治)、およびプロトタイプAI・シャーロット」
男の声は、合成音声のように平坦だった。
彼が指を鳴らすと、上空から数機の小型ドローンが、ハチのような羽音を立てて急降下してきた。
「俺はゼロ。……その『鍵』を返してもらう。……拒否権はない」
『……和戸、注意してください! 奴のバイザー……演算能力が私の数倍はあります。……軍事用AI「アレス」が搭載されています。……まともにハッキングを仕掛ければ、私の意識が逆に焼き切られます!』
「……数倍、か。……なら、計算できない『無駄』を押し付けてやるまでだ」
ドローンが放ったスタンガンの電極を、俺は瀬戸山邸で借りた「古い雨傘」を広げて弾き飛ばした。
昭島は地下水が豊富で、至る所に用水路や古い井戸のポンプがある。
「シャーロット、あの角にある『古い自動販売機』の電圧を限界まで上げろ! 奴のドローンを誘導するぜ!」
『……了解! 電圧、オーバーロード……今です!』
自販機から放たれた強烈な電磁ノイズが、ドローンの制御を一瞬だけ乱す。
その隙に俺は用水路沿いの狭い路地へと飛び込んだ。
「……無駄だ。……熱源感知からは逃れられない」
ゼロがバイザーを操作し、壁越しに俺の心臓の鼓動を捉える。
だが、彼は気づいていなかった。
この昭島の地下には、迷路のように張り巡らされた「水の記憶」があることを。
お読みいただきありがとうございました。
第14話の前編、いかがでしたでしょうか。
ついに登場した「ハッカー・ゼロ」。
感情を排し、軍事用AIの計算力で和戸を追い詰める彼は、まさに「シャーロットの対極」にいる存在です。
最新鋭のテクノロジーに対し、和戸は街に溶け込んだ「古いインフラ」を武器にどう戦うのか。
次回、第14話:解決編。
昭島の地下水路を舞台にした、光と闇の鬼ごっこ。
そして、覚醒したシャーロットが放つ「人間的な嘘」が、軍事AIの論理を破壊します!
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