第13話 電子の呼び声(解決編)
こんにちは、仁胡 黒です。
第13話・解決編。
指定された座標、東京・昭島市。
そこはかつて、シャーロットの生みの親である天才プログラマー・瀬戸山しおりが過ごした場所でした。
三年前の事件で「死んだ」とされる彼女が、なぜ今、和戸をこの場所に呼んだのか。
古い平屋の奥に眠っていたのは、最新の暗号でも巨大な利権でもなく、ある一人の女性が遺した「祈り」に似たプログラムでした。
新章の幕開けにふさわしい、静かな衝撃をお楽しみください。
新宿から中央線を乗り継ぎ、たどり着いた昭島の街は、驚くほど静かだった。
駅から少し歩くと、昭和の面影を残す平屋が並ぶ住宅街に入る。
「……ここか」
座標が指し示したのは、築四十年は経とうかという小さな家だった。
庭先には手入れの行き届いた紫陽花が揺れ、どこからか井戸水の冷たい匂いが漂ってくる。
『……和戸。私の演算処理が、異常な速度で「一致」を求めています。……この門の傷、郵便受けの歪み、庭の匂い……。……全てが、私の深層にある「概念」と合致しています』
シャーロットの声が、かつてないほど震えている。
俺が呼び出し鈴を鳴らそうとしたその時、玄関の鍵が内側から、カチリと開いた。
「……お待ちしておりました、和戸さん」
現れたのは、白髪混じりの、穏やかな眼差しをした初老の男性だった。
瀬戸山しおりの父親だ。彼は俺の右目のレンズを一度だけ見つめ、小さく微笑んだ。
「娘が言っていました。『いつか、この子を相棒にしてくれる、少し不器用な探偵さんが来るから』と。……三年前、彼女が最後に遺した『予約メール』が、ようやく届いたのですね」
通された奥の部屋は、驚くほど整然としていた。
壁際には古いサーバーラックが置かれ、そこから一本のLANケーブルが、使い込まれた木製のデスクへと伸びている。
「娘は……しおりは、自分が『レムナント』に消されることを予感していました。……だから、自分の分身をネットの海に放流し、あなたのような『人間』に出会うまで、彼女に鍵をかけたのです」
『……お父様……? ……いいえ、私は……』
「ああ、分かっているよ。今の君は、もう彼女そのものではない。……和戸さんと過ごした時間で、君は君自身の心を得たんだね」
父親がデスクの引き出しから、古びたUSBメモリを取り出した。
「これが、最後の手紙です。……しおりが、君たち二人に託した『鍵』だ」
俺がそのメモリを右目のデバイスに接続した瞬間、視界が真っ白な光に包まれた。
ノイズの向こう側に、一人の女性の影が浮かぶ。
それは、シャーロットの声と同じ、凛として、どこか優しげな声だった。
『……初めまして、探偵さん。そして、お帰りなさい、シャーロット』
映像の中の「しおり」は、悪戯っぽく笑った。
『このプログラムが動いているということは、あなたはもう「道具」ではなく、誰かの「隣人」になれたということ。……レムナントが隠している「真実」の扉を開けるのは、完璧なAIじゃない。……不完全で、けれど誰かを守ろうとする、あなたたち二人よ』
映像が消えた後、シャーロットは長い沈黙に陥った。
右目のレンズから、頬を伝う熱いものがある。……それは俺の涙なのか、それとも、レンズが発した熱なのか。
「……和戸。……私の目的が、書き換えられました。……いえ、これは『意志』です」
『私は、レムナントを壊します。……彼女が愛したこの世界を、汚させないために』
俺はライターを弾き、紫煙を吐き出した。
昭島の静かな空の下、俺たちの本当の戦いが、今ここから始まった。
お読みいただきありがとうございました。
第13話、完結です。
シャーロットのルーツ。それは、死を覚悟した開発者が、いつか現れる「相棒」に託した希望そのものでした。
AIに心は宿るのか。その問いに対する一つの答えが、この昭島の地で示されました。
しかし、しおりが遺した「鍵」が起動したことで、レムナント側もこの場所の異常を察知したはずです。
次回、第14話。
昭島を脱出する和戸とシャーロット。
その前に現れたのは、レムナントの刺客「ハッカー・ゼロ」。
最新鋭の軍事用AIと、覚醒したシャーロットの初対決!
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