303話 桜舞踊
一同がお花見をしながらどんちゃん騒ぎをしていると、あっという間に日は暮れ、夜になった。
「な〜に〜、コバルト。あたしの酒が飲めないっていうの〜?」
「いや、ピュア、お前酒癖悪いな」
ピュアが酔っ払ってコバルトにダル絡みをしている。コバルトはほろ酔いだったが、普段と変わらず冷静で、酒癖の悪いピュアにタジタジだった。
(あーもう、最初は一杯だけって言ってたのに、調子に乗って何杯も飲むからだよ。俺ら未成年なのに。まずいって。てかピュアお酒入ると結構めんどくさいタイプなんだな)
コバルトは状況的に流されて、未成年と自覚しているのにも関わらず酒を飲んでしまった。ライトも同じくほろ酔いで、ふにゃーゴロゴロゴロと一人で酔っ払っていた。
「もう、ピュアはこんなだし、ライトもあんな調子だし。一応ここは敵国なんだから、もう少し危機感ってものが」
三人ともすっかりその場の席に馴染み、酒を飲んで楽しんでいたが、突然、一人の悪魔族のピンク色の魔族が立ち上がり、みんなに向かって声を張り上げた。
「はい!皆様、注目!夜になったのでとうとうお待ちかね、チェリー様の舞台がこれより発表されます!みな、静かにして鑑賞するように!」
その場にいた、一同は待ってました!と言わんばかりに拍手喝采!チェリーの舞台?なんだ?それがそんなに楽しみなのか?ライトはよく意味が分からず、困惑していた。
「舞台だとさ。一体何が始まるんだ?ただ、みんな楽しそうにしてるけど」
コバルトもライト同様、何が始まるのかと困惑していた。そして二人の、ピンク色の悪魔族が、何やら移動式の舞台をゴロゴロと引っ張ってきた。
「ん?なんだ?あの学園祭とか文化祭でありそうな即興で作られた、仮設みたいなステージは。コンサートでも始まるのか?けど舞台って言ってたが」
コバルトが遠い記憶の片隅に文化祭、学園祭を思い出す。よく、校庭の真ん中に作られたものだ。軽音楽部とかが演奏していたが。とか思っていた。
その、そしてその移動式の舞台から、チェリーが姿を現した。両手には銀色の扇子を持ち、舞台の背景は桜の花びらが描かれていた。そしてなにより、その舞台の裏にある、巨大な大木の桜が散り、ハラハラと桜の花びらが舞い、なんともきらびやかな光景だった。
「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。ではこれより、私、チェリーの『桜舞踊』をご披露させていただきます」
チェリーが両手に持っていた扇子を床に置き、土下座をしながらそういった。そこにいた観客はみな盛り上がるかと思いきや、息を呑むようにシーンとしていた。
そしてよく見ると、舞台の下に、琴や横笛を持った魔族が並んでいた。いつの間に準備をしていたのか。さらにその魔族はチェリーと同じく、みんな獣族だった。
(な、なんだ!?何が始まるのだ?)
ライトが警戒していると、聞いたことのないような和風の曲が流れ出し、チェリーが扇子をもち、踊りだした。日本舞踊のような踊りだ。
しなやかに舞台の上を曲に合わせて舞う、チェリー。そして背景からハラハラと舞い散る桜の花びら。さらには夜ということもあり、月明かりがその様子を照らしていて、なんとも美しい舞踊に観客たちは魅せられてしまった。
気がつけば、桜色の魔族達だけではなく、コバルトとピュアもそのチェリーの舞に釘付けになっていた。な、なんと美しい舞だ。こ、これは素晴らしい。気がつけばだれも一言も言葉を発さず、ただチェリーの舞に魅入っていた。
(な、なんだ!?これは!!チェリー、これは黄魔族にいたゴールドのような洗脳術に近い!これは魔力というよりも術だ!こ、こんな力があったとは!)
ライトはチェリーのその恐るべき美しい舞踊に肝を冷やした。これはまずい!とりあえずこのまま魅入られては駄目だ!ライトはそう判断した。
するとライトは、突然、舞台に上がりだし、チェリーを指さしながら叫んだ。
「おい、チェリー!貴様の踊りの腕前はよくわかった!次は俺の番だ!俺と勝負をしろ!」
突然のライトの乱入に、目を丸くする一同。せっかくチェリーが踊っているのに、水をさされて不満かと思いきや、だれもなにも口を挟まなかった。
「え?おい、ライト」
コバルトがライトになにか言おうとしたが、ライトの表情は真剣そのもの。とりあえず一時的にチェリーの舞踊は中断された。そしてライトは魔力ポケットから何やら大きなピアノを出した。
「俺が踊る踊りはタップダンスだ!タンゴがよかったが、タンゴは二人以上で踊るものでな!だからタップダンスでお前に勝負を挑む!問題はないな!」
「わかりました。ライト様。ではあなたの腕前を見せていただきましょう。おい、フラミンゴ!」
「はい、チェリー様」
「お前、たしかピアノを弾けたはずだな。ライト様のダンスの曲はお前が演奏して差し上げろ」
「かしこまりました。チェリー様」
突然のライトの乱入で、チェリーの舞踊は中断されたが、表情一つ、また文句も一つ言わずにライトの提案を受け入れたチェリー。そしてここからチェリーに対抗し、ライトのダンスが始まろうとしていた。




