298話 桜色の国
一方こちらはコバルト達。
キュルキュルキュル。
ドイツの軍用車である、ケッテンクラートが三人を乗せて赤い荒野を進んでゆく。
コバルトが操縦席に座り、ピュアは後ろに座る。そしてライトは操縦席の前に立ち、ものすごく嬉しそうに敬礼している。
「おい、ライト、前が見えないぞ。邪魔だ」
「コバルト隊員!なにをいうか!自分はライト司令官でありますぞ!」
ライトが得意げになって、嬉しそうに敬礼している。ああ、なるほど。見たことのないような戦車や軍用車に乗れたことがよほど嬉しいようだ。たしかに、異世界にはない、ミリタリー関連の乗り物に乗ればテンションは上がるだろう。
「はいはい、わかりました。ライト司令官。とりあえず方角はこっちであってるんだろうな?」
「ああ、コバルト。なんとなくだが、東の方に進めば到着はするな。赤い国は国土が広く、ずっと荒野が続くが、東に本拠地があるはず」
「東か。まあ、寒い方の地域だよな。なんというか。普通は寒い地域は北なんだが、あれだろ?西岸海洋性気候ってやつだろ?西のほうが暖かいのは」
「ん?コバルトよく知ってるな。たしかに普通は北が寒く、南が暖かい。緑の国がそうだろう。縦長な国だが、本拠地は下の方しかない。そして東西はあまり気温の変化はないんだが、なぜか赤い国は東に行けば行くほど寒くなるんだよ。これも偏西風の影響だな」
やっぱりか。コバルトは確信した。そもそも赤い国という言葉すらどこかで聞いたことがある。それも昔学んだ知識と大体おんなじだ。
「それにしても、ライト、お前、こっちで本当に道は合ってるのかよ?行けども行けども赤い荒野が続くばかりじゃないか」
コバルトが不平不満そうに尋ねる。黄色い国の時はあたり一面黄砂の砂漠。緑の国へ行ったときはあたり一面森林だったのと同じように、赤い国は赤土の荒野で、まったく同じ光景が続いているのも飽き飽きしてくるものだ。
「ああ、コバルト。もう少し進めば、きっとどこかの街か拠点につくとは思うのだが。ん?あれ?どういうことだ?急に暖かくなってきたぞ?」
東に進めば進むほど、寒くなるはずなのに、なぜか突然、暖風が吹き、暖かくなってきた。
「ん?なんだあれは?赤い荒野の先に、何か木々が生い茂ってるぞ?こんな寒い地域なはずなのに」
コバルトは赤い荒野の先に、何やら木々が生い茂ってるのを見つけた。いや、木々が生い茂っているというよりは並木道だ。そしてその木というのが、緑の国にある、緑の木でもなく、黄色い国にあった、黄色いいちょうの木とも違った。
「あれって、ピンク色?え?もしかして桜?」
ピュアが遠目から木を確認する。間違いない。ピンク色の花をつけている、あれは桜の木だ。なんと桜並木がそこには生い茂っていた。
「さ、桜だと?な、なぜ赤い国に桜なんて咲いているのだ?そ、それに桜は春にしか咲かない花だぞ!い、今はもう秋の終わりで冬がやってくる時期なはずなのに‥!」
ライトは赤い荒野の先にある、桜の木々を見て驚いた。そして桜並木の前にたどり着くと、その奥に街らしきものがあるのに気づいた。
「な、何だあれは!?赤い国につくなり、こんな美しい桜並木の先に街があるぞ!赤い国、何があるかは未知の世界だったが、まさかこんな場所があるとは!」
ライトは驚き、ケッテンクラートから飛び降り、桜並木を見て回った。コバルトもピュアもとりあえず降り、桜を眺めた。う、美しい。なんときらびやかな桜たちだろう。まさか冬に入ろうとしているこの季節に、こんな美しい桜に出会えるとは思いもしなかった。
「ようこそ、桜色の国へ。お待ちしておりました」
どこからともなく声が聞こえる。ああ、どこかで聞いたことのある声だ。
「だ、誰だ!?」
ライトが声の主をさがしてあたりを見回すが、誰もいない。そして風がドゥーっと吹いた。そして桜の花がまるで蝶のようにきらびやかに舞い、桜吹雪が吹いた。
そしてその桜吹雪の中から、紫の国で出会ったあのピンク色のイタチ、チェリーが姿を現した。声の主はこのチェリーだったのだ。
「チ、チェリー!」
「ようこそ桜色の国へ。皆様、またお会いしましたね」
紫の国で会ったときのように、チェリーはまったくの無表情で三人を出迎えた。そしてその不気味さと、背景の桜吹雪のきらびやかさが妙にマッチしていて、得体の知れない中に、どこか美しさを感じ取れたのだった。
(チェリー、まったく得体の知れない不気味なやつだったが、今、桜色の国と言っていた。こいつその国となんらかの関係があるのは間違いない。しかし一体なぜここに?)
ライトは相変わらず、その不気味さを携えてるチェリーに不信感を抱いたが、きらびやかな桜吹雪を背景に、得体の知れない不気味なピンク色のイタチが、あまりに美しく、心を魅入られてしまうような気がしたのだった。




