128話 青い氷の牢
アプリコットの地の利を生かした戦いに手も足も出ないライト。このままではやられるのは時間の問題だと確信をしていた。
「ライト、ミントと同様、俺はお前の命を奪いはしない。お前も俺の命を奪わなかった。だからここは大人しく手を引け。ただこれでミントは俺のものだな」
アプリコットが木の上から悠々とライトを見下ろしそう言った。クソ!まだ負けたわけではないのだが、もはや手のうちようがなかった。何か手段はないかとライトは必死に考えていた。
(変身して、吹雪を吐いたり、木の上にいるあいつに猛攻撃をくらわすか?いやダメだ。そんなことをしてもアプリコットは奥まで逃げるだろう。いくら魔力が上がったと言ってもあの力は長時間使えないし、体に負担が大きすぎる!メイズの時のように突進はできない)
いくら強力とはいえ、当たりもしない攻撃は無意味なことをライトは熟知していた。この状況では、ただ魔力も体力も消耗してしまうだけなこともわかりきっていたのだ。
するとアプリコットが両手に持っている刀をしまい、フッと表情を緩めてこう言った。
「ライト、これで終わりだ、もう観念しろ。いくら考えてもこの状況ではどうしようもない。同じことを繰り返すつもりはない、これも俺の戦法だ。悔しがることはない」
アプリコットがそういうって余裕綽綽の態度をとったのでライトの闘争心は燃え上がった。クソ!こいつ、木の上から俺のこと悠々と見下ろしてやがる!絶対に、絶対に負けてたまるか!と。
ライトは必死に考える中、手に持っているステッキを見つめて何かに気づいた。まずこの状況でなぜ自分が不利なのかということ。それは向こうからは攻撃が当てやすいが、こちらからは攻撃が当てにくいということ。そしてこちらから向こうへ攻撃しようと近づくと、距離をとって戦おうとすること。
(なるほど、では向こうからこちら側に近づき、攻撃させることができれば、こちらの攻撃範囲に引き摺り込むことができれば・・!勝機はあるかも知れない!)
ライトはそう考えると、手に持っているステッキを高く掲げ、こう叫んだ。
「アイスプリズン!」
するとライトの周囲に巨大な氷の壁が現れ、ライトを包んだ。その壁は直方体になり、ライトの体をすっぽり覆い、氷の内部は透明ではなく真っ白になっていて、中の様子が全く見えなくなっていた。まさに氷の要塞だ。
「ん?ライト、お前何をしている?氷の壁だと!?」
アプリコットは直方体の氷に包まれて姿の見えなくなったライトを見て驚愕していた。いったいどういうつもりだ?何を狙っているのだ?と。
アプリコットは木の上からしばらくライトの様子を見ていたが、ライトは中から一行に出てくる気配はない。そして長い間時間が経ったが、全く出てくる様子も、動く様子もない。
「ライト、どういうつもりだ?根比べでも始める気か?」
アプリコットはその氷の牢に向かって再び雷を放つ。しかしその氷の牢はその攻撃にびくともせずそのまま雷が相殺された。
「な、随分屈強な牢だな。どういうことだ?」
アプリコットは恐る恐る木から降りて牢に近づく。そして氷の表面をコンコンと叩いた。かなり分厚く頑丈な氷だ。
「入ってます」
中からライトの声がする。ノックされてちゃんと入ってることを返事を返す。行儀の良い猫だ、ってトイレじゃないんだから!
「早く出ろ」
「そんなこと言ったって順番だよ!」
再び中からライトの声がする。やはり中にいるなライト。いったい何を考えているのだ?
アプリコットはその氷の牢の前で両手を組み、首を傾げてしまった。これはどういうことなのだろう?らいと、まるで蝶になる前のサナギのようだ。ずっとこの氷の牢に閉じこもっているつもりか?
(ライトは何を考えているのだ?ただ単にこうして根比べがしたいだけか?いや、あいつのことだから必ず何か秘策があるに違いない。しかしいったいそれは?)
するとアプリコットは何かに気付いた。まさか、これは囮か!?ライトはこの氷の牢の中にいるように見せかけてここから脱出し、不意打ちで攻撃してくるつもりか!?と。
(いや、違う、それはない。中からちゃんと魔力を感じる。これはライトの魔力だ。それにもしこの氷の牢から抜け出すとすれば地面から穴を掘って外に出るしかない。そうすれば魔力は地面に潜るはずだ。それを感じない)
どういうことだ?ライトは何を考えている?アプリコットはやはりライトの考えが読めなかった。そしてただただその氷の牢の前で立ち尽くしているのだった。




