124話 黄色いイチョウ
ピュアとレモンがそこから離れると、その場にはコバルト、ライト、ゴールド、アプリコット、サルファーというメンバーが残された。
「さて、ではアプリコット様、ライト様、あなた方とはここでお別れですね。さて、コバルト様、私はあなたを王の間までお連れいたします。どうぞこちらへ」
ゴールドがそう言ってコバルトを中庭から建物の中へと誘導した。コバルトはライトと目が合うと、その場を後にした。コバルトは手が震えていた。
「さて、ライト、ここまでわざわざきてもらってすまなかったな。そしてすまないがここでは戦いはご法度だ。この宮殿と庭園はクロム様のものだからな。だから俺たちはここから移動する。それでいいな?」
アプリコットがそういうと、ライトはコクリと頷いた。そしてサルファーに何やら合図を出すと、二匹を元いた魔法陣へと導いた。
そして魔法陣に乗り、再び転送魔法を唱え、そこから移動した。どうやら元いた街ではなく、違う場所へ転送されたようだ。そしてその転送した先は、なんと黄色い葉の木々の生い茂る大森林だった。
「な、なんだここは!?こんな森の中に連れてきていったいどうするつもりだ!?」
ライトが驚いていると、その森林の葉っぱがひらひらと舞い落ちてきてアプリコットの掌に舞い落ちた。どうやらイチョウの葉っぱのようだ。
「ああ、ライト、季節はすっかり秋だな。風情を感じる。どうだ?この黄色い森の中は?素晴らしい景色だとは思わないか?」
アプリコットがイチョウの葉を手にとりうっとりとしている。な、なんだこいつは!?こんな風流なやつだったとは?想像だにしなかったとライトは思った。
「春になると桜が咲く。そして秋になれば紅葉やイチョウが色づく。そしてそれはとても刹那的なものだ。すぐに散ってしまう。だがそれも美しいものだ。俺は秋が一番気にいっていてな。もし自分の命の最後を遂げるときはこの黄色い木々の葉が彩る場所で終えたいと、そう思っていた」
アプリコットはそういうと、魔力ポケットからお座敷を取り出してそこに敷いた。次に筆と墨を用意し、墨を擦り、なんと和紙まで取り出して、何やら筆で書きはじめた。物凄い集中力だ。
『杏』
という字がを和紙の上に描くとそれを手にとり、ライトに見せた。
「ライト、どうだ?これは俺の文字だ。アプリコットは和の世界ではこう書くようだ。知っているか?」
「和の世界?ああ、かすかに聞いたことがある。人間界にある文化の一つだろう?そしてその文字も人間界にある文字だろう。お前はこういうことが好きなのか」
「その通りだ」
アプリコットはそういうと再び書道に向き合った。そして和紙を今度は二枚出すと何やら再び文字を書き出した。
『燈火』
『薄荷』
という文字を書き、ライトにそれを見せて、再びライトに尋ねた。
「ライト、この二枚がなんと読むかわかるか?」
(知らねーよ、というかそんなの読めるからってなんだっていうんだよ)
ライトは心でそう呟いた。こいつはさっきから一体何をしているのか?全く考えていることが読めなかった。
「どうやら読めないようだな。では当て字ではあるが教えてやろう。燈火はライトと読む。薄荷はハッカと読むんだ。ハッカの別の読み方をお前は知っているな?」
アプリコットはそういうと、先程の『杏』という文字の紙をそこに並べた。そして左から、『杏』『薄荷』『燈火』と並んだ。
「ハッカだと!?ま、まさかそれは!?」
「フフフ、そのまさかだ。ハッカは別の言い方でミントと呼ぶな。お前の恋人か」
アプリコットがそう言ってニヤリと笑うと突然剣を抜いてライトに斬りかかった!ライトは一瞬の出来事にものすごく焦ったが、とっさにステッキでそれを受け止めた。
ギン!音が鳴り、ライトはそこから後ろにのけぞって距離を取ってステッキを構えた。突然の不意打ちに驚いたライトだったが、それ以上に怒りが込み上げてきた。
「アプリコット!貴様一体どういうつもりだ!不意打ちなど卑怯だぞ!」
「フフフ!さすがはライト!俺の不意打ちをこうもたやすく受け止めるとは!まあ俺はこんなことでお前を倒そうと思ってはいない。これも想定内よ!今の一撃を食らうようなお前ではあるまい」
アプリコットはそういうと、サルファーを呼び、その習字道具を全て片付けさせた。どうやら習字では匠レベルであろうかかなりの腕前であり、道具もとても大切にしているようだ。
「サルファー、魔法陣に制約をかけろ!そしてお前はここから王宮へ戻れ!ご苦労だった!」
「は、アプリコット様、どうかご無事で」
サルファーはそういうと魔法陣から転送し、消えていった。ライトはその様子を見てとても驚いていた。
「アプリコット!貴様一体どういうつもりだ!何をした!」
「まあ落ち着けライト、別にお前をここに閉じ込めているわけではない。サルファーには危険なのでさがってもらっただけだ。あの魔法陣で元の王宮にお前でも戻れるようにしておいた。ただし、それが発動されるのはこの俺を倒した時だけだ!」
アプリコットがそういうってライトをギラリと睨みつけ、二刀の小太刀を構える。ライトもそれに応戦するかのようにステッキを構えた。そして二匹は睨み合っていた。
「我こそはアプリコット・イエロー・スクワール!ライト!同じアニマル剣士として、そしてミントをかけてお前に正々堂々一騎打ちを申し込む!この戦いで勝った方がミントの真の婿となる!異論はないな!」
アプリコットのその宣言にライトは目をまんまるくした。
(こ、こいつミントの事好きだったのか!ああ、だからあのとき命をとらなかったのか!な、なるほど)
(だ、だが俺も同じ剣士として、そしてミントの未来の旦那として絶対にこいつに負けるわけにはいかない!ここは覚悟を決めなければ!)
「わかった!その勝負、受けてたとう!ミントの真の婿は俺だということをこの身をもって教えてやる!こい!アプリコット!」
「ああ、とうとうこの時がきたな!いくぞライト!」
こうしてアニマル剣士として、そしてミントの将来の旦那の地位をかけ、二匹の青い猫と黄色い栗鼠の剣士の戦いは火蓋を切って落とされた。秋の美しいイチョウが生い茂るこの森林の中で一体どんな戦いが繰り広げられるのだろうか?




