106話 透明の国
シャルトルーズがいなくなった後、二人と一匹は再びサルファーのお店にもどっていった。そしてライトがまだ酔っ払っていてコバルトの腕の中でゴロゴロと喉を鳴らしていた。
「すみません、マスター、あの、さっきの男の子、シャルトルーズについて少し聞きたいのですが」
クリームは戻るなり、サルファーに彼のことを尋ねた。少しでも情報が欲しかったからだ。
「シャルトルーズ?ああ、あいつはなんか変わってるやつでな。誰に対しても人懐っこくて明るくて親切ですぐああやって仲良くなっちまうんだよ。それでいて働くのも熱心でな。いいやつだよ」
「はい、あの、彼はいつからここで働いているのですか?そしてどこに住んでいるのですか?」
クリームが質問を投げかけると、サルファーは戸惑ってしまった。え?いつから?どこに住んでいる?そういえばどうなんだろう?実はサルファーはなにも知らなかった。
「ああ、いや、すまん。実は俺も素性をよく知らないんだ。家族構成とか、それですまん、いつからだったか、あまり覚えてないな。気がついたら店を手伝ってくれていた感じで」
「そうなんですか、そういえば彼から『透明の国』で待ってると言っていたのですが、彼はそこから来たのですか?」
「透明の国だと!?」
突然、酔っ払ってコバルトに抱き抱えられていたライトが物凄い大きな声を出した。そしてコバルトの腕からするりと降りてクリームに物凄い剣幕で問いただした。
「クリーム!先ほどの少年は透明の国と言ったのか!そしてその街から来たのか!?」
「ああうん、ライト、そこから来たとは言っていなかったけど、そこで待つって彼が」
酔っ払ってコバルトの腕の中でいい気分になっていた先ほどとは打って変わって物凄い剣幕で迫ってくるライトに驚いたクリームだったが、そこは冷静に対応をした。どうやらライトはその国に何か心当たりがあるようだ。
「透明の国?たしかあそこは難民受け入れ必須の壁に囲まれた街だろう?そして一度入ったらよっぽどの資格がない限りは再度入国することは難しい国だよな。そもそも難民申請の審査もかなり今は厳しくなっているようだし」
サルファーが二人の話に割って入る。なるほど、透明の国とはそういう国だったのか。シャルトルーズはそこから来たというのか?
「あいつは透明の国から来たのか!?そうすると、再入国できるとすればかなり重要な役割を持った魔族に違いない。だが何故そんな魔族がこの黄色い国に一人で放浪しているのだ!?おい、サルファーと言ったな!お前あいつのことを何か知っているのか!?」
ライトが今度は打って変わってサルファーに食らいつく。サルファーはライトの剣幕に驚きとそして恐怖を覚えた。先ほどまで酔っ払っていた姿とはまるで別人だ。
「あ、いや、すまない。私はなにも知らないんだ。本当に。隠してるわけじゃない。シャルトルーズはたまたまこの街に来たから雇っていただけだ」
アプリコットの言う通り、本気になったライトは怖い。これは戦って勝てるはずもない。強すぎる。もし自分がアプリコットとつながって監視している身だと言うことがバレればどうなるか、サルファーは今度はそっちのことばかり心配になった。
「ライト!もうやめなさいよ!マスターはなにも知らないって言ってるじゃない!」
「ああ、そうだな。サルファー、すまなかった。少し三人で話したいから店を出るな。色々とありがとう」
ライトはそういうと一目散に店を出ていった。そしてクリームとコバルトを連れ、人気のない裏路地のような場所に二人を連れていった。
「ライト、どうしたのよあんなすごい剣幕で迫って。それに私たちをこんなところに連れてきて!何か話でもあるの?」
「しー、静かに!クリーム、声がでかい。ここは黄色い国で敵国だ。むやみやたらに話せる内容じゃないからここまで連れてきた。声を落として話してくれ」
ライトはそういうと、がくんと首を落とし、うなだれて考え事をしているようだった。透明の国と聞いてからライトの様子がおかしい。その国にいったいなにがあるというのか?
「ライト、とりあえず説明してくれ。透明の国とは言ったな。お前それを聞いてから様子が全然変わったな。何かそこに心当たりがあるのか?まずはそこから説明してくれ」
「ああ、コバルト、取り乱してすまなかった。きちんと説明する。まずは透明の国、あの国は緑の国にあった礼拝堂の近くにある。つまり赤い国、緑の国、黄色い国、紫の国、この四カ国の国境付近に作られた壁で覆われた聖域のような国だ」
ライトはそういうと手をギューっと握りしめ、歯を食いしばるようにしながら俯いていた。何やら話すのが辛いようだ。とても辛い過去がその国と関係しているのだろうか?
「あの国は、50年前の聖戦が終わったのちに、青魔族の看護師が立ち上げた国だ。戦争孤児や難民、貧困に苦しむ魔族を種族、色彩関係なしに迎え入れる、そして戦争には一切参加させないため作られた難民保護の国だ」
そしてライトが腕をギュッと握りしめ、歯軋りをして呟いた。
「ターコイズ・・・!」
二人はライトのいたたまれないその様子を見て、ああ、そのターコイズという魔族がきっと何か過去にあったのだろうと確信した。そしてライトは、そのターコイズという青魔族が、いったいどうその国に関わってきたのかを静かに語り始めるのだった。




