同級生あらわる
とりあえず事件は解決したので、そのまま大学へ向かった。
そして、学食で早めの夕食を摂りながら、ようやく冷静になって考える。
ふむ……。
こっちの世界にもモンスターが出るのか。
雑な考察ではあるが、俺が向こうとこっちを行き来することで特異点になっていて、二つの世界がどうのこうの……ということに違いない!(←わかってない)
もちろん、これからも冒険は続ける。向こうの世界で出会ったモンスターは、これまでと同じように倒していくつもりだ。
そもそも、あの世界が大好きでプレイヤーを続けてきた俺が、実際にその世界を体験できる異世界生活を、この程度の問題でやめるわけがない。
むしろ、俺のライフワークだ。
もちろんまたこちらの世界にモンスターは現れるかもしれない。そのときは、その都度倒すだけだ。
法則がわからない以上、事前の対策は難しい。だが、モンスターたちは俺の存在を感知しない限り実体化しないのだとしたら、大きな被害は出ないだろう。たぶん。
もし何か起きたとすれば、それはこのルールを作った女神様のせいということで。
ただ、ひとつ気になることがある。
この先、向こうの世界でもっと強力な災害級のモンスターを倒すことになって、それがこちらの世界に現れるようなことがあったら……。
さすがにそれは止めなければ、だけど。
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このとき、俺はとても大事なことを忘れていた。
向こうの世界で最初に戦った、最強の存在。
『カオスドラゴン』のことを。
まあ、それはまだ先のお話。
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向こうの世界で倒したモンスターと、こちらに入り込んでくる現象が連動しているのなら、この先どこかに『砂漠の皇帝』デューンエンペラーや、一個小隊規模のオークたちが現れるかもしれない。
大学からの帰り道。信号待ちで自転車を止めながら、そんなことを考えていた。
もし俺の行動と関係のある場所に現れるのなら、通学路の国道や、買い物でよく立ち寄るスーパー、大学の構内あたりだろうか。
ゆっくりと自転車を進めながら、索敵レーダーに意識を集中させる。
しかし、検知範囲内にモンスターを示す赤い光は見当たらない。今のところ、何かが起きそうな気配もなかった。
「ねえ、湊君じゃない?」
「うわあ!!」
突然、すぐ後ろから声をかけられ、俺は思わず飛び退った。
危ない。レーダーに集中しすぎるのも考えものだ。周囲への注意を怠らないようにしないと。
「え、何? 急にごめん」
振り向くと、そこに立っていたのは大学の同級生、日枝薫だった。
水色のパーカーに草色のスカート。小柄で眼鏡をかけており、肩の少し下まで伸びた黒髪をまっすぐに下ろしている。
派手さはないが、整った顔立ちの綺麗な人だ。同じ学科で成績トップの才女でもある。
「考え事をしてたときに、急に声をかけられたから、つい」
「なんか、すごいキョロキョロしてたから。どうしたのかなって。探しもの?」
……なかなか答えにくい質問だ。
確かに、傍から見れば不審な動きをしていたかもしれない。下手にごまかすのも、かえって怪しまれそうだ。
「探し物というか、探し人というか……」
「ふーーん……?」
なんか腑に落ちてなさそう。この人、勉強だけじゃなくて、こういうところも妙に鋭いんだよな……。
何を探しているのか興味を持たれると、かえって面倒なことになりそうだ。
「お邪魔じゃなければ、手伝おうか?」
ほら来た。
その表情から察するに、今の彼女の胸中を占めているのは、親切心というより好奇心だろう。
ここで日枝薫と舌戦を繰り広げても、俺に利点はない。それに、この状況を説明しきるのが無理なこともわかりきっている。
よって、返答は無難に。
「あ、いや。今はいなさそうだから大丈夫」
「ふーーーーん」
彼女の目が鋭くなった……。まるで俺を値踏みするかのように。
俺は日枝薫とプライベートで話すような仲ではないが、クラスの飲み会などで多少話をしたことはある。
そのときの印象は、頭の回転が速く、場の空気を乱さないように謙虚に振る舞う人、というものだった。
なのに、だ。
今の彼女の目は、明らかに俺への疑心に満ちている。だがそれは悪意ではない。どちらかというと散歩中に面白いおもちゃを見つけてしまった小型犬……。
「じゃあ、また」
俺は彼女の視線を振り切り、その場を強引に離れようとしたのだが……。
「そういやさ」
「な、なんですか?」
ま、まだ何かあるのか?
「なんで敬語? ……そういえば、今日、大学の近くの神社に雷が落ちたの知ってる?」
あー……。俺の雷魔法か。
下手にごまかして矛盾を突かれると、さらにややこしくなる。ここは冷静に……。
「ちょうど俺が大学に行くときに落ちたから、なんとなくは知ってる」
「そうなんだ。なんか、雷が落ちたところにいた人の話だと、その前に隕石みたいなものが落ちてきたらしくてさ」
俺やん。
隕石じゃなくて、実は人間なんよ、それ。
確かに、普通に考えても、巨大な落下物と落雷があれば、ちょっとした話題にはなるだろう。
それが同じ場所で続けて起きたのなら、噂になっても不思議ではない。
「しかも、そのときは晴れてたのに、雷が落ちるのも不思議だよね」
「そうなんだ。実際に見たわけじゃないから、全然知らなかったな~」
一瞬だけ目をそらしながら答えてしまった。その一瞬を、彼女はおそらく見逃していなかったのだろう。
日枝薫はかすかに口角を上げ、低い声で呟いた。
「ふふん。やっぱり何か隠してるな?」
くっ……何故ここまで食いついてくるんだ……。
「え、なんで?」
「まず、そこで『なんで?』って答えるのは、思い当たることがある人なのさ」
「うっ」
「それで、なぜ私に確信があるかというと……私、そこにいたからね」
「えっ」
やばいな。かなり押され気味だ。
確かに、周囲の参拝者にはそこまで注意を払っていなかった。とはいえ、そこまで大勢の人がいたわけでもないし、日枝さんがいたような記憶はないぞ。
「君は今、私があの場所にいなかったはずだが……とか思ってるでしょ。実は私、週末だけあそこの神社でバイトしてるんだなあ」
なーっ! 参拝客側ではなく、社務所の中にいたのか。そこはノーマーク過ぎた。でもまさかあの状況でお守りを受けに行くとかあり得ないしなあ。
「君はあのとき、落雷の現場にいた。だから、境内の森の中にクレーターがあったことも見ていたはずなのに、なぜかそれは知らないふりをした……」
日枝薫はそこで一度、言葉を区切った。
そして、少し間を置いてから、こちらを見据えて言い放つ。
「つまり、自分がそこにいたことを私に悟られまいとした! なんか怪しいよね!」
なんて鋭い人なんだ。さっきまでおもちゃを拾った小型犬だったのが、だんだんと獲物を狙う猟犬の目になっている。
「さあ、生半可な返答では私は誤魔化されないぞ」
くっ……! さあ、どうする俺。
落雷の正体が魔法だなんて伝わるわけがない。ましてや、モンスターの存在など。そして、俺の存在とモンスターの出現には相関性があるんです(笑)とか、言えるわけもないし、多分言ったら怒られるわ。
ん?
「ああああああ!」
「急に何!?」
突然、俺は日枝さんを指さして大声を上げた。
正確には、彼女の立っている場所の向こうに見えた光景に対してである。
俺たちは、夕暮れ時のスーパーの駐車場で話をしていた。その店内に、ちらりと見えたものがあったのだ。
「やばい。出た」
「何が!?」
オークです。
店の中をうろちょろしてます。
「行かねば!」
「このタイミングで!?」
背後で叫ぶ彼女を残し、俺はスーパーの店内へと駆け出した。




