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食欲再び


 ……。


 改めて状況を整理しよう。一旦気を取り直してカレンダーを確認する。


 もともとソーファンの世界の一日は、地球時間では一時間である。つまり、時間の流れは地球の24分の1。


 今回、向こうにいた時間はほぼ丸二日だった。もしこの法則が適用されているなら、こちらでは二時間ほどしか経っていないわけだ。


 この奇跡的な現象を起こしているのが、女神様なのか何なのかはわからない。だが、そのあたりの法則にゲームからの変更はないらしい。


 とはいえ、あまり長時間向こうに滞在すると、日常生活に支障をきたす。気を付けよう。


 それよりも、さっきのオークよ! 他にもどんどん出てくる可能性を考慮するなら……。しばらくは町の様子を警戒して過ごさねばならない。


 そういえば今日、実験の続きやってなかったな。


 異世界体験という衝撃的なイベントがあったにもかかわらず、なるべく日常生活を変えない。それが俺のすごいところだ。


 異世界に行く前も大学に行く途中だったので、格好はそのままで問題ないだろう。

(といいつつ、本当は伝説の武具が装備されているのだが)


 行こう。


 俺は自転車にまたがり、ペダルを漕ぎ始めた。


 大学へ向かう途中、小さな丘の上に神社がある。階段を上れば、町を少し見渡せる景色のいい場所だ。


 そんなことを考えながら通り過ぎようとした、そのとき。


 俺はとっさに急ブレーキをかけた。自転車の後輪がわずかに浮き上がる。


 ソーファンの世界には、自分の向きや立ち位置を把握できるミニマップがある。そこにはNPCや敵キャラが、色分けされたポイントで表示されるのだが……。


 そのマップに、この世界にはいるはずのない『敵』を示す赤いポイントが映し出されていた。


 場所は斜め上。つまり、丘の上にある神社の境内だ。


 まさか、オークに続いて別のモンスターまで現れたのか?


 ……念のため、準備をしておこう。


「エクスカリバー、イージスシールド」


 装備を整え、階段をてくてくと上っていく。


 運悪く、今日は土曜日だったらしい。境内にはそこそこの参拝客や散歩中の人がいて、なにやら社の奥にある茂みの周辺に人だかりができていた。


 静かに近づき、皆の視線の先に目をやる。


 ……いや、これ、俺がさっき落ちてきたクレーターじゃないか。


 だけど、皆が見ているのはその周辺をうろついている巨大なカニだった。


 ……カニ!?


 どう見ても、あの色味と巨大さは、昨日爆散させた『密林の王キンググローブ』だ。


 周囲に餌になりそうな人間がいるにもかかわらず、うろうろするばかりで何もしていない。


 しかも、周りの人々のざわめきに耳を傾けていると、少し違和感を覚えた。


「なんか、あそこだけ草が動いている」


「ガサガサと謎の音だけが聞こえる」


「陽炎みたいに、あの辺りの光が揺らめいている」


 ……もしかして、俺以外の人にはモンスターが見えていない? それでいて、存在はしているということか。


 ブンッ


 ガサガサッ……!


 キンググローブが巨大なハサミを振り回し、木が大きく揺れた。


『なんだなんだ……!』


 集まっていた人たちが数歩後ずさり、人の輪が少し広がった。


 現実世界の人間に敵意がなかったとしても、物理的にこちらの世界へ干渉できているのなら、いつか必ず事故が起きる。


 なんとかして、目立たないようにこいつを倒さなくては……。


 仮に視覚や聴覚を周囲から遮断する魔法を使ったとしても、一撃を放った瞬間に魔法は解除されてしまう。かといって、遠距離から魔法で倒せば大騒ぎになる。


 ……いや、待てよ。


 俺は少し距離をとり、攻撃魔法の準備を始めた。


 観衆の視線を集めないように注意しながら、ゆっくりとカニに近づいていく。


 その瞬間だった。


 グギョッ!!


 突如、目覚めたかのようにキンググローブが俺に反応し、猛然と突進してきた!


 予想していなかったわけではない。もしかして、俺だけがモンスターに認識されていて、通常どおり敵対反応を示してくるのか!?


『なんだ!!!?? 怪物!!!??』


 周囲の反応からして、どうやら今は誰の目にも見えているらしい。


 もしかして、俺だけはモンスターに認識されて、モンスターは実体化するということか! 厄介すぎるだろ!


 まあいい! 先ほど考えた作戦を実行する!


 俺は二本の指先で敵の位置を指し示し、呟いた。


「雷の精霊よ!(一条の光となって敵を撃て)」


 カッ


 ドン!!!


『うわ!!!』


 一瞬の閃光。周囲の人々の叫びと、稲妻の轟音が重なる。


 空から極太の雷が落ちた。


 海鮮居酒屋のような匂いが、辺り一帯にもわっと立ち込める。一瞬で焦げついた密林の王は、そのまま光となって消えていった。


 突如現れた謎の怪物に、偶然空から落ちてきた雷が直撃した。しかも、場所は神社という神秘的な空間。


 これなら、うまい具合に都市伝説になって終わる……といいけどなあ。


 それにしても、俺が出てきた場所と同じところに敵が現れるというのは、偶然とは思いにくい。


 それに、もし空にあった扉から出てきたのなら、そこから何百メートルも落下したはずだ。あんなに大きく、密度も高そうな物体が、無事で済むとは思えない。


 そして、出てきているのは今のところ、俺が向こうの世界で倒したことのある奴ばかり……。

(とどめを刺したのはマリチだけど)


 無関係であってほしいけど……これは絶対、関係あるよなあ。


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