あ、そこもぶっ壊れる?
「こっそり隠れて侵入して、一撃で倒します」
「えっ」
姿隠しの術は、激しい動きをすると解けてしまう。そこだけは気をつけなければならない。
教会の周辺では、多くの見張りのオークがうごめいていた。
振り返ると、クリクラさんたちは息を潜め、こちらの動きを見守っている。緊張しているのが、背中越しにも伝わってきた。
だが、俺には焦りも気負いもなかった。
オークたちに視線を向け、意識を集中する。すると、ソーファン時代と同じように、相手とのレベル差がわかる。
視界に浮かんだ判定は、どれも同じだった。
<練習相手にもならない>
これは最も弱い。という意味の表示である。うん。これなら問題はない。
さて、行くか。
ドアを蹴り飛ばせば、魔法が解除される可能性がある。だから、そっとドアノブを回して侵入した。
「あ”ーーー?」
「んあ”?」
ドアのすぐ横にいたオークたちが、何やら声を上げて首をかしげた。
基本的に獣人たちは、各種族ごとの言語を持っており、ほとんどの個体は共通語を話さない。
「dsjf;ojbj\:fb!(なぜ今ドアは開いたんだ!)」
礼拝堂の奥から、オーク語の怒鳴り声が響いてきた。どうやら、あいつがボスのようだ。
叫んでいるのはオーク族の言葉だが、俺には理解できる。
「警戒しろ、おまえら!!!」
鋭いな。寄せ集めの獣人族部隊とはいえ、小隊長を務めるだけのことはある。戦闘に関する勘は鋭いということか。
足元に気をつけながら奥へ進んでいくと、小部屋の前にそいつはいた。そして、その部屋の奥に住民たちが集められているようだ。
部屋の中に見張りのオークの気配はない。さっさと済ませてしまおう。
眠りの魔法を使うと、姿隠しの魔法は解除されてしまう。となれば、方法は一つ。
俺は静かに剣を振りかぶり……
ザスッ
ザクトズルトにまっすぐ振り下ろした。
ひときわ大きなオークのボスが真っ二つになるのと同時に、俺にかかっていた姿隠しの魔法の効果も消える。だが、それと同時にマリチが見張りのオークに魔法攻撃を行った。
「範囲氷撃~~」
マリチの氷魔法が一瞬にして発動した。教会の床から巨大な氷柱が突き出し、椅子や壁を次々と貫いていく。巻き込まれたオークたちは、一瞬で凍りついた。
「さあ、今のうちに」
呆然としていた他の三人は、俺の声に反応して慌てて村人の救助を開始する。
そして、最後の仕上げ。
「そろそろみんな起きてくるころだね」
マリチはそう言いながら、バァン!! とドアを開け放って外へ出た。
見晴らしのいい丘の上で両手を広げ、詠唱を開始する。
「天空を舞う星々の欠片よ~、我が求めに応じ大地に降り注ぐがよい~~」
『は?』
クリクラさんたち三人、そして救出されて出てくる村人たちが呆然とする中、空に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
俺はぼそっと呟いた。
「流星群で全員一気に潰します」
「え」
「ちょ」
「何を」
『ええええーーーーー!』
三人と村人たちの絶叫を聞きながら、俺はふと思いついてマリチに声をかけた。
「あ、村の家とか畑はどうなる?」
「え?」
俺とマリチは一瞬動きを止めた。だが、時すでに遅し。
魔法陣を通して、巨大な隕石群が次々と降り注ぐ。
ドゴォォォン!! ドゴォォン!! ズドォォン!!……
俺たちが立つ教会の丘を除き、村のあちこちで爆音が響いた。
土煙が舞い上がり、家屋が崩れ、畑の土がえぐられていく。隕石の雨は、オークたちも村の景色も容赦なく飲み込んでいった。
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……ゲームだと、グラフィックとして描かれている建造物や地形は不変である。
建物の中で炎魔法を撃ちまくっても、火事にはならない。
現実のようで現実ではなかったオンラインゲームの世界。それが現実の世界になったことに、俺はまだ適応できていなかった。
マリチの落とした星々の欠片は、村のオークたちを蹂躙した。それと同時に、村の地形まで変えてしまったのだ。
「……どうせオークどもに破壊され、いたるところが汚染されていたので構いませんよ」
「むしろ、これで一からやり直せます!」
村人たちは気丈にもそう言ってくれていたが、騎士小隊長のクリクラさんは違っていた。
「この度の任務は、あなた方のおかげで見事完遂できました。が、目に余る破壊行為、じゃなかった、積極的な攻撃行動、および教会の損壊について、少し本国の指示を仰ぎたいと思います。あ、いえ、お二人のことを悪く言うつもりはありませんが、その、やりすぎというか……(早口)」
かなり言葉を選び、無理やりフォローしている様子が伝わってくる。だが、どう好意的に受け取っても、『やりすぎでやばい奴らなので本国に通報する』と言っている。
「今回の件にあたって、報酬などに関しては……」
クリクラさんが形式的に話を進め始めたのを見て、俺は素早くマリチに目配せした。
マリチがすぐさまうなずくと、その前に魔法陣が出現した。
「忙しいのでまた!!」
ブォォオン!
すかさず転移魔法で逃亡する俺たち。
「あ、待ちなさい!」
とっさに手を伸ばしてきたクリクラさんの手をかわし、なんとか脱出した。
……そして到着したのは、マリチの家の庭だった。
「さあヨーイチ。扉は?」
マリチに言われて、俺はマリチの家の裏にある巨大な古代樹の下へと向かった。




