ザクっとズルっと
冒険者ギルドで、突如話しかけられた俺たち。
『全身皮剥狂』ザクトズルト。それがオーク部隊の小隊長の名である。
「ぜんしんかわはぎきょうって、すごい肩書だなあ……」
マリチは苦笑する。
俺たちに声をかけてきた騎士風の女性は、隣国の王立騎士団に所属する小隊長だった。クリクラと名乗った彼女は、俺たちに事情を説明し始めた。
「ある地方都市の領内に、小さな村があります。そこがオークの一個小隊に占拠されたのです」
その村の出身だという冒険者が二人。彼らは村の地形や集落の構造をよく知っている。そして、まだ多くの生存者が残っているはずの村へ、今すぐにでも救助に向かいたいと切望していた。
話を聞きながら、俺とマリチはぼそぼそと言葉を交わす。
「ザクトズルトっていやあ、ミッションで初期に戦った記憶があるなあ」
「今なら多分、通常攻撃一発だと思う」
「何か気になることでも……?」
クリクラさんが怪訝そうな表情で尋ねてきた。
「え、あ、いや、何でもないです。まあ、行きますか。退治に」
あまりにも日常的なテンションで答える俺を見て、クリクラさんは心配そうに眉をひそめた。
「密林の王を討伐されただけあって、さすが剛毅ですね。ですが、ザクトズルトは残忍な性格で、しかもなかなか狡猾だと聞きます(早口)」
「そ、そうですよ! 貴方たちお二人でも、あの屈強なオーク小隊にはさすがに手こずると思います……」
「なんせ数が多いですし!」
村出身の二人の冒険者も、口々に不安を訴えてくる。
「まあ……」
俺は冒険者二人とクリクラさんに、互いに手をつなぐよう促した。さらに、青年の一人の肩に手を置いて振り向く。
それを見たマリチが、ぱっと俺の手をつかんだ。
全員が互いに触れた状態になり、準備が整ったところで、マリチが転移魔法を詠唱する。
俺たちの行動は、誰にも有無を言わせぬ速さで進んでいく。そして――。
ブォォォン
『えええーーーー!』
ミッションで一度でも訪れたことのある場所なら、だいたい転移ができる。平たく言えば、俺たちはこの世界の大抵の場所へ行けるのだ。
クリクラさんはこの地方を担当する騎士だ。まあ、村に来たことくらいあるだろう。冒険者たちは村の出身者だし、問題ないはずだ。……たぶん。
そう考えて転移魔法を発動したのだが、どうやら全員、無事に転移できたようだ。ひとまず安心である。
動揺する三人を引き連れ、俺たちは一瞬にして村の入口に到着した。
「おお……懐かしいなあ……二年ぶりか……」
「うん……でも、入口の門とかは壊されてるし……」
「そして、あの邪悪な紋様。奴らの仕業だな」
クリクラさんが指さす先には、獣人たちが信奉する神のおどろおどろしい紋様が、血のような色で殴り書きされていた。
「よし、ではさっそく姿隠しの薬を使って侵入するぞ。皆は私の後ろについて……って、え、ちょ」
クリクラさんには悪いが、話を最後まで聞くことなく、俺はずんずんと歩き始めた。
マリチもぴょこぴょことついてくる。
「お二人!?」
一つ目の小道を曲がると、そこにはオークの兵隊がいた。当然、オークたちはすぐに俺たちの姿を見つけた。
「寝かせ~~」
マリチが一瞬で範囲睡眠魔法を完成させた。オークたちは吠える間もなく、夢の中へと落ちていった。
「は、早……」
冒険者の一人は魔導士らしく、詠唱の速さに目を丸くしている。
「あー、もしかして眠らせるより黒魔法の方が早い?」
マリチが怖いことを言う。
実際、眠らせて進むよりも、範囲攻撃魔法で殲滅していく方が早い。ゲームの中だったら、迷わずそちらを選んでいただろう。
だが、目の前にいる敵は生きている。好戦的な獣人族とはいえ、無駄な殺生はしなくていい――そんな考えが、自然と頭に浮かんでいた。
「まあ、様子見で寝かせておけばいいと思う」
「そっか。んじゃ、このままで」
マリチはニコッと笑うと、こちらに弓を向けようとしていた十匹以上のオークも、まとめて地面に沈めた。
「すごい……」
「けど、こいつらが起きてきたら……」
「ゆ、油断されるなよ、お二人!」
冒険者二人だけでなく、クリクラさんの声も少し震えている。
そんな会話を交わしながら進んでいくと、目の前に少し小高い丘が現れた。その上には、尖った屋根の建物が見えた。
「あそこだな」
俺は剣を抜き、いくつかの強化魔法を使った。
「攻撃速度上昇および物理障壁」
背後がざわつく。
そういえば、後ろの三人には、俺が何のクラスなのかも分かっていないのかもしれない。初期のソーファンには、ルーンナイトというクラスは存在しないしな。
「あれは教会か! あそこにボスが?」
クリクラさんの問いに、俺とマリチはコクンとうなずいた。
「あ」
「ここからは姿隠しと音消しだね」
マリチはおもむろに魔導書を空中に浮かべ、呪文の詠唱を始めた。その瞬間、五人全員の姿が消え、足音もしなくなった。
「あー、説明しておくんですけど、多分あの教会の中には生きている村人の方々が人質になっていて、ザクトズルトはそれを盾にしてくるんですよ」
「なっ!」
「なんと卑劣な……」
実はこの事件自体はミッションで一度体験しているので、相手の行動は読めている。
「だから、こっそり隠れて侵入して、一撃で倒します」




