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鬼と呼ばれた漂着者達  作者: 人見零


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2/5

赤鬼①

本編スタートです。

 マストが折れた。


 鈍く、不快な音が耳に入ってきた。暴風で荒れ狂う中、仲間の声は聞こえないが、その不快な音だけははっきりと耳に入ってきた。


 終わりだ。おそらく、自分は死ぬ。仲間も同様に死ぬだろう。


 こんな筈ではなかった。どこで、なにが間違ったのだろうか。もちろん、危険性は良くわかっていたつもりだった。

 しかし、甘かった。自分だけは大丈夫だと、どこか信じていたのではないか。必死にしがみつきながら、自信の甘さに嫌気がさした。今,目の前で仲間が波に放り出されるのが見えた。誰かはわからない。助からないだろう。そして自分も、時間の問題だ。


 また一人、波にさらわれた。先ほどから甲板に波が打ち掛かってきている。マストは折れ、帆が甲板に広がっている。おそらくあの下にも何人かがいる筈だが、見えない。生きているのか、死んでいるのか。


 どちらでも大差はないだろう。時間の問題だ。どうせ全員死ぬ。マストが折れたのだ。仮にこの嵐を抜けたところで、操船はできない。運が良ければ、漂流しているところをどこかの船が助けてくれるかもしれない。だが、その前に,この嵐が収まるまで、耐え抜かなければならない。



 死にたくない。



 こんなところで、こんな形で死ぬために国を出たのではない。


 生きて、帰りたい。


 何か方法はないか。辺りを見回してみる。時折、人のようなものが波に攫われるのが見える。少しずつ、仲間が減っている。


 よく見ると、他にも何人か、自分と同様に生きようと必死になってしがみついているのが見える。なんとか固まれないだろうか。一人でしがみつくのではなく、何人かで一か所に固まっていた方が良くはないか。


 そんなことで助かる保証はもちろん、ない。しかし、このままでは死ぬしかない。マストが折れた以上、その他に船体で傷ついた箇所があるかもしれない。最悪、転覆する。その前に何とか生き延びる手段を考えなければならない。一人では無理だ。あそこまで、比較的近くにいる仲間の所まで、動こう。波の合間に、機を見て、少しずつ移動すれば行けるのではないだろうか。


 波は間断に覆いかぶさってくる。タイミングを間違えれば、即時攫われるだろう。しかし、迷っている時間はない。今はまだ、かろうじて持ちこたえているが、いつ転覆するかもしれないのだ。


 生きたい。何をしてでも、帰るのだ。少しずつ、自分が冷静になっていくのがわかる。


 なにかないか。ロープのようなもので身を固定する必要がある。ーーーあった。


 少し離れてはいるが、まずはあそこまで行き、ロープを拾う。その後、そのロープでどこかに体を固定すればよい。仲間の所に行けるだけの長さがあることを祈ろう。

 波が来る、引く、また来る、引く。波の引く瞬間に一気に行くしかない。行く隙を間違えれば波に攫われる。攫われれば死だ。


 冷静に、しかし、思い切りよく。迷うな。


 今。


 わずか五mほどの距離しかないが、その何倍にも感じた。


 成功した。


 手にロープの感覚があった。長さも十分だ、太さもある。すぐに体に巻きつける。ロープの端を近くにある取っ手に括り付ける。これで、仲間の所に行ける。あそこに見えている仲間の所へ。誰かはわからない。月明かりもなく、甲板に備え付けてある灯もない今、離れた場所では識別できない。十五mほどだろうか。

 しかし、人だ。仲間だ。それだけはわかる。それで十分だ。必ず、仲間の所まで、行く。そうすれば生き延びれる機会が増えるはずだ。一人で、船にしがみついていて、ただ死を待つだけなど耐えられない。

波を見る、間を図る。船が大きく揺れる。冷静に、機を見る。


 仲間の元へ届くまで半分の距離だ、少しずつ仲間の輪郭がはっきりしてきた。もう少しだ。刹那、船がこれまで以上に大きく揺れた。


 体のバランスを崩した、こけた。どこかを強く打ったが、立ち上がる。あと少しだ。ふと目の前の仲間の姿が消えた。


 違う。視界に水が飛び込んできたのだ。


 大きな塊が体にぶつかってきた。これは過去に何度も経験した感触だ。しかし、大きさが違う。重さが違う。圧力がこれまで経験してきたものとは比にならない。体が甲板から引き離されるのがわかった。




****************************




 頬に何かザラザラしたものが触れている。背中が熱い。砂だ。目を開けると、目の間に砂があるのがわかる。顔をおこす。次に体を。

 砂浜にいるのがわかる。それだけははっきりわかった。何が起こったのかは、わからない。波に攫われたのはわかる。そこからはよく覚えていない。最後におぼえているのは、仲間の輪郭だけだ。


 ロープを体に巻きつけ、仲間の元に行こうとしたのだ。体にはロープが巻きついたままだ。そしてその先には取っ手がついていた。波に攫われた時に、取っ手ごと船体から引き剥がされたようだ。

 何のことはない。冷静でいたつもりが、そうではなかった、ということか。もろい取っ手に体を括り付け、安心していただけだ。笑いが込み上げてきた。


 笑った。自分の馬鹿さ加減に笑った。なぜか涙まで出てきた。


 生きている。生きているのだ。


 一しきり泣き、立ち上がった。


 国へ帰らなければ。家族のもとへ。


 辺りを見渡す。浜辺であることは確かだ。人は住んでいるのだろうか。ここはどこか、まず確かめなければならない。


 ゆっくりと歩きだした。



オレンジコーヒーがマイブーム。

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