プロローグ
もーもたろさん、もーもたろさーん。
むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは毎朝早くに起きて山へ芝刈りに出かけ、おばあさんは川へ洗濯に出かけていました。
ある日のこと、おばあさんが川辺で洗濯をしていると、川の向こうから不思議な音が聞こえてきました。
「ドンブラコ、ドンブラコ。ドンブラコ、ドンブラコ」
目を凝らしてみると、川上から見たこともないほど大きくて瑞々しい桃が、波に揺られながら流れてくるではありませんか。
おばあさんは驚き、「なんて立派な桃だろう。おじいさんへのお土産にしましょう」と、桃を拾い上げ、家に持ち帰りました。
夕方になり、山から柴を背負ったおじいさんが帰ってきました。
「おばあさん、ただいま戻ったよ」
「お帰りなさい、おじいさん。素晴らしいお土産がありますよ」
おばあさんが大きな桃を見せると、おじいさんは目を丸くして喜びました。さっそく二人で切り分けて食べようと、おじいさんが包丁を当てた、その時です。
パカン! と小気味よい音を立てて桃が自ら真っ二つに割れ、中から元気いっぱいの男の赤ん坊が「オギャー、オギャー!」と力強い産声を上げて飛び出してきました。
二人は腰を抜かさんばかりに驚きましたが、子供のいなかった夫婦は天からの授かりものだと大喜びし、桃から生まれたことにちなんで「桃太郎」と名付け、我が子のように大切に育てることにしました。
桃太郎の成長は、それは見事なものでした。お茶碗に一杯のご飯を食べれば、一杯分だけ大きくなり、二杯食べれば二杯分だけ大きくなりました。ただ体が大きくなるだけでなく、誰に対しても優しく、力持ちで、賢い少年へと育っていきました。
村の子供たちが重い荷物を運ぶのに困っていれば、桃太郎は笑顔で手伝い、みんなから深く慕われる立派な若者へと成長していったのです。
ある日、ふもとの村々に不穏な噂が流れるようになりました。 海の向こうにある「鬼ヶ島」という島から、恐ろしい鬼たちがやってきては、村の大切な作物を奪い、家々を荒らし、人々を困らせているというのです。
それを聞いた桃太郎はおじいさんとおばあさんの前に座り、真剣な眼差しで告げました。
「おじいさん、おばあさん。僕は鬼ヶ島へ行って、村人たちを苦しめる鬼を退治してきます。どうか僕を旅立たせてください」
二人は大変驚き、危険な旅に出る桃太郎を心配して最初は止めようとしました。しかし、桃太郎の固い決意と、人々を救いたいという真っ直ぐな瞳を見て、おじいさんは静かに頷きました。
「お前の優しい心は本物だ。よし、男なら立派に務めを果たしておいで」
おじいさんは物置から、代々伝わる頑丈な陣羽織と、研ぎ澄まされた一本の太刀を用意しました。
おばあさんは「道中で お腹が空かないようにね」と、涙を堪えながら、日本一おいしい「きびだんご」をたくさん作ってくれました。
翌朝、桃太郎は「日本一の桃太郎」と書かれた白い旗を掲げ、腰にきびだんごの袋をぶら下げて、おじいさんとおばあさん、そして村人たちに見送られながら、堂々と旅立ちました。
それからしばらくして、桃太郎が険しい山道を歩いていると、草むらからガサゴソと音がして、一匹の大きな犬が姿を現しました。
犬は桃太郎の行く手を遮るように立ち塞がり、鋭い声で吠えました。
「ワンワン! 桃太郎さん、桃太郎さん。腰につけた日本一のきびだんご、一つくださればお供します」
桃太郎はにっこり笑って言いました。
「いいとも。これから鬼ヶ島へ鬼退治に行くんだ。一緒に来てくれるかい?」
「もちろんです! この命に代えてもお守りします」
犬は嬉しそうに尾を振り、きびだんごを美味しそうに食べると、桃太郎のすぐ後ろを歩き始めました。しばらく進むと、今度は高い木の上から「キィキィ」と賑やかな声が聞こえてきました。そして、一匹の賢そうな猿が木から飛び降りてきて、言いました。
「桃太郎さん、桃太郎さん。その腰につけた日本一のきびだんご、一つくださればお供します」
桃太郎は快くきびだんごを差し出しました。
「よし、お前も仲間だ。知恵を貸しておくれ」
犬と猿は最初は少しうなり合って喧嘩をしそうになりましたが、桃太郎が「仲間同士、仲良くしよう」となだめると、お互いに手を取り合って歩き出しました。
さらに山を抜け、広大な原っぱに出たとき、空から美しい羽を持った大きなキジが舞い降りてきました。キジはキリッと胸を張り、言いました。
「ケンケン! 桃太郎さん、桃太郎さん。腰につけた日本一のきびだんご、一つくださればお供します」
「大歓迎だよ、キジ。空からの見張りをお願いするね」
桃太郎がきびだんごをあげると、キジは力強く翼を羽ばたかせ、空から進路を案内するようになりました。 こうして、桃太郎、犬、猿、キジという、それぞれの特技を持った頼もしい仲間が集まったのです。
四人は互いに励まし合いながら長い旅路を歩み、ついに青く広がる海の港へとたどり着きました。彼らは頑丈な船を調達し、波をかき分けながら、鬼たちの待つ島へ漕ぎ出していきました。
船が荒波を乗り越えて進むと、前方にどんよりとした黒雲に覆われた、不気味な島が見えてきました。ゴツゴツとした岩肌の頂上には、頑丈な鉄の門で閉ざされた「鬼の城」がそびえ立っています。鬼ヶ島に到着したのです。
「みんな、いくぞ!」
桃太郎の号令とともに、三匹の仲間たちが一斉に動き出しました。
まず、空を飛べるキジが猛烈な勢いで城壁を飛び越え、中で見張りをしていた鬼たちの目を突いて大混乱に陥れました。その隙に、身軽な猿がするすると壁をよじ登り、内側から重い鉄の門の鍵をガチャリと開け放ちます。
「突撃だ!」
開いた門から、桃太郎と犬が怒涛の勢いで城内へと飛び込みました。犬は鬼たちの足元へ噛みつき、武器を取り落とさせます。桃太郎は、おじいさんからもらった太刀を光らせ、襲いかかる赤鬼や青鬼たちを次々と小気味よく投げ飛ばし、圧倒的な力で蹴散らしていきました。
ついに奥の間に追い詰められたのは、ひときわ巨大な体躯を持つ鬼の親分でした。親分は大きな鉄の棒を振り回して桃太郎に襲いかかりましたが、桃太郎は身軽にそれをかわし、一気に間合いを詰めると、親分の巨体を豪快に床へと叩きつけました。
「参った、参った! もう敵いません!」
頭の角を床に擦り付け、鬼の親分は涙を流して降伏しました。
「これまでの悪事を許してください。二度と人々の住む村へは近づきません。奪った宝物もすべてお返しします」
桃太郎は太刀を鞘に収め、「二度と約束を破るでないぞ」と優しく諭しました。
鬼たちは約束を守り、これまで人間から奪っていた金銀財宝、珊瑚や隠れ蓑といった素晴らしい宝物を、残さず大八車に積み込んで差し出しました。
帰り道は、行きとは打って変わって穏やかな日本晴れでした。桃太郎たちは宝物を積んだ車をみんなで力を合わせて引きながら、懐かしい故郷の村へと帰ってきました。
村に戻ると、おじいさんとおばあさん、そして村人たちが両手を上げて大歓声で迎えてくれました。
「桃太郎、よくやった!」
「ありがとう、桃太郎!」
桃太郎は二人の元へ駆け寄り、心配をかけたことを詫びながら、無事の帰還を喜び合いました。
その後、鬼たちが約束を破ることは二度となく、村には永く平和で豊かな日々が訪れました。桃太郎はおじいさんとおばあさんをいつまでも大切にし、みんなで仲良く、末長く幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
きびだんご食べたい




