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第494話 甲斐の虎の影(2)
側近の山本勘助が、静かに膝をつく。
「御屋形さま……。その若木が、いずれ我らの行く手を阻むと?」
「阻むか、支えるか……それは儂が決めることよ」
晴信は、地図の上に指を滑らせた。
その指先が、三河から尾張、そして信濃へと流れる。
「この若木は、信長とは違う。光秀とも違う。藤吉郎とも違う……。家の諏訪勝頼や真田昌幸とも違う」
晴信の声は、どこか愉しげだった。
「――わしと似ておる」
勘助が目を見開く。
「似ておる、とは……?」
「己の弱さを知り、恐れを知り、それでも前へ進む者よ。恐怖を知る者は、強くなる」
晴信は、扇を軽く振り、香の煙を散らした。
「いずれ、あの若木はわしの前に立つ! その時――わしは試す!」
その声は、まるで運命を宣告する神のようだった。
「風林火山の前に立つ覚悟があるか……。わしの“山”を越える力があるか」




