第406話 流石静岡、上手いな! (3)
そう午後の柔らかな陽光が今川館の中庭を黄金の絨毯のように染め上げ、風に揺れる木々の葉音はまるで三国志の戦場で鳴り響く鼓の音のように静かに響き渡っていた。
そんな穏やかな午後、俺と今川氏真《駿府の悪役令嬢さま》は、織田信奈の野望の策略めいた駆け引きとキングダムの将軍が戦を挑むかのような緊迫感を交えつつも、どこか甘くコミカルな空気に包まれていた。
「あなたもできるでしょう?」
氏真は軽やかに、しかし戦場の将軍のような鋭さで俺に問いかける。
だが、俺は高校卒業以来、サッカーボールに触れていない。
リフティングの感覚も、強さも、リズムも、すべてどこかに置き忘れてしまった。
それでも、氏真の挑発に苦笑いを浮かべながら首を横に振る。
「無理だって、俺はそんな器用じゃねぇよ」
「そう〜?」
「うん」
俺が頷いた瞬間、ふと脳裏に蘇ったのは、生前の俺の記憶。
同級生に、氏真並みにリフティングが上手い女子がいた。
誰だったか、顔も容姿も綺麗だったような……
そんなことを考えていると、氏真がシャープな顎に手を当て、小さく呟いた。
「あら、でもあなたもけっこう上手だった気がするけれど……」
「氏真、今俺に何か言ったか?」
「さぁ〜?」
完全に誤魔化す彼女に、俺は眉をひそめる。
「氏真、お前なぁ〜、俺に喧嘩売ってんのか~?」
「別に〜。うっ、ふふふ」
悪役令嬢らしい、人を転がすような笑い方。
次の瞬間、氏真は蹴鞠を地面に置き、華奢な腕でひょいと持ち上げる。
「はい、今度はあなたの番……早くリフティングをわらわにして見せて?」
微笑みながら、まるで俺の機嫌を取るように言う。
……ずるい。
そんな顔で頼まれたら、俺も断れない。
「はぁ、分かったよ」
仕方なく蹴鞠を受け取り、リフティングを始める。
《ポン、ポン──》
久しぶりすぎて、足がぎこちない。
それでも少しずつ感覚が戻ってくる。
……ああ、そうだ。




