第405話 流石静岡、上手いな! (2)
まるで──この中庭に、俺と氏真しか存在しないみたいだった。
俺の胸元に触れた蹴鞠よりも、それを押しつけてきた氏真の手の温度の方がずっと近い。
「……あなた、そんな顔をするのね」
「どんな顔だよ……」
「さあ? 自分で確かめてみればいいわ」
挑発するような声音……
けれど、どこか照れを隠しているのが分かる。
俺が何か言い返そうとした、その瞬間──
《ポスッ!》
「……あっ」
氏真の手から離れた蹴鞠が、俺の肩に当たって、ぽとりと地面に落ちた。
「お、おい……」
「ち、違うのよ。わざとじゃないわ。たぶん」
「たぶんって何だよ!」
氏真は珍しく慌てて、落ちた蹴鞠を拾おうと身をかがめ──
《コツン!》
「……っ」
俺と氏真の額が、軽くぶつかった。
俺と氏真の距離、マイナスになった気がした。
「い、痛っ……あなた、近いわよ……」
「お前が急に動くからだろ……!」
二人して額を押さえながら、なぜか目線だけはそらせない。
午後の光が、二人の影をまた重ねる。
「……あなたって、本当に不器用ね」
「悪かったな。不器用で」
「でも……」
氏真は、ほんの少しだけ微笑んだ。
「そういうところ、嫌いじゃないわ」
俺の心臓が跳ねた──蹴鞠よりも、ずっと大きな音で。
「な、なんだよ急に……」
「別に。あなたが、わらわをずっと見ていた理由……少しだけ分かった気がしただけ」
「見てねぇよ!」
「うそ。今も見ているもの」
図星すぎて、言葉が詰まる。
氏真は落ちた蹴鞠を拾い上げ、俺の手のひらにそっと乗せた。
「……次は、落とさないでね?」
その声は、午後の陽よりも柔らかかった。
ハプニングでぶつかった俺の額の痛みなんて、もうどうでもよくなっていた。
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