第404話 流石静岡、上手いな! (1)
午後の陽は、まるで二人だけのために差し込むように、今川館の中庭をやわらかく照らしていた。
風はそよぎ、鳥は歌い、庭木は揺れる──
その中心で、ひときわ軽やかに跳ねるものがあった。
いや、《《もの》》じゃない。
俺の《《彼女さま》》だ!
「氏真?」
「何、あなた?」
俺に呼ばれ振り返ったその横顔は──午後の光を受けて淡く輝き、蹴鞠を操る足元は、まるで舞のようにしなやかだった。
今川氏真……戦国の文化人にして、駿府の姫にして、そして──俺の生前のサッカー経験を軽く粉砕する、蹴鞠の天才……
《ポン、ポン、ポンッ》
そのリズムは、俺の心臓の鼓動より正確で、見ているだけで胸がざわつく。
「流石、サッカー王国静岡が産んだ蹴鞠の天才、今川氏真さまだな」
俺は本気で褒めたつもりだった。
だが氏真は蹴鞠を続けながら、ふわりと微笑む。
「あなたもこれぐらいはできるでしょう?」
「……ん? できねぇよ。俺には、お前みたいに器用にはなぁ……」
「うそ?」
「うそじゃないって、本当だって……!」
俺の必死の否定をよそに、氏真はまた『ポン!』と蹴鞠を跳ね上げる──
午後の陽光を受けて、蹴鞠が金色に光った。
……いや、光っているのは蹴鞠じゃない。彼女の横顔だ!
その自信と誇りと、ほんの少しの意地っ張りが混ざった表情だ。
そして気づけば──中庭の広さなんて関係ないほど、二人の距離は近かった。
「あなた、本当にできないの?」
「できねぇって言ってんだろ……そんなに俺をいじめたいのか?」
「いじめてなんていないわ。ただ……」
氏真は蹴鞠をそっと手で受け止め、俺の胸元へ軽く押しつけてきた。
距離はゼロ……
「あなたが、どれくらいわらわのことを見ているのか……知りたかっただけ」
午後の光が、二人の影を重ねる……
庭の音も、風の音も、どこか遠くへ消えていく。




