第22話 夏休みは明けて
夏休み明けの学校。と言ってもまだ始業の時間には少し早いため、教室にはパラパラと人がいるだけだった。
私はぼんやりとしながらタブレットを開き、時間割を確認する。たぶん今日の数学の時間は授業せずに雑談で終わるんだろうなー、なんて考えた。
ふと数学のワークを持ってきたかが心配になって鞄の中を確認する。ちゃんと持ってきていたことを確認して、またボーッと教室の入り口を眺めた。
「瑞葉ちゃん、はい。お土産あげるー」
「ありがとー! どこのお土産なの?」
「長野のりんごクッキーみたいなやつ」
「え、いいなー。めっちゃ涼しそう」
「涼しかったよ。こっちめっちゃ暑いってなった」
真希が冗談っぽく笑う。
「どうしよ、返すものないかも」
「いいよいいよ、私がみんなに配ってるだけだから」
「ごめんね、ありがと」
「良いってー! それより今度遊び行こ! 夏行けなかったし」
「うん! 涼しくなったら東京行こ」
夏は暑すぎるということで流れた東京観光の約束の話をして、真希はまた他の子の元へ流れていった。
私が入り口を眺め始めてから4人目で松村くんが到着する。いかにも眠たそうな目で、引き戸を開けた後もぼんやりとしている。
私が手を振ると、松村くんはこちらに気づいて会釈した。そのまま動き出して、自分の席に向かった。
松村くんを視線で追うと、自然と窓際に飾ってある花が目に入った。なんとなく綺麗だと思い、花を見ようと席を立った。
花は鉢に入っていて、中の札にはカランコエと書いてある。鮮やかな花弁が円形にたくさん並んだオレンジと黄色の花が咲いていた。
私はその足で、松村くんの机の前に少ししゃがみ込む。そうすると松村くんの顔がよく見えた。
「おはよ」
「あ、おはよう」
鞄からワークを取り出す手を止めて、少し微笑み挨拶を返してくれる。少し視線がズレているような気もするし、「あ、」というのに少し引っかかりを覚える。でも、松村くんは前からこんな感じな気もする。
「さっきなに見てたの?」
「お花。きれいだったよ、カランコエ? だって」
「へぇー、わかんないな。僕も見てみよ」
荷物の整理を終えた松村くんは、私のようにまた花を見ようとする。私は歩く松村くんの背を追いかけた。
「本当だ、きれい。……なんだっけ、こういうの、合弁花じゃなくて……花占いしやすそうな感じのやつ」
「合弁花懐かしい」
「これは違うけどね。……あれだ、離弁花だ」
松村くんは納得いったように微笑む。
「花を見てそんなことを考える人いないよ」
「ここにいますよ」
「ふふ、そうだね」
松村くんは自分のことを指差してそう言う。おどける松村くんに釣られて私も笑ってしまう。
「水やりとかってどうなんだろ? 土乾いてるけど、花によって結構違ったりするよね」
「わかんないや」
「ちょっと調べよ」
そういってタブレットで調べ始めた。タブレットを覗き込む松村くんはいつもよりも目を見開いている。
タブレットをスクロールしながらポツポツとカランコエについて教えてくれる。多肉植物なんだって、とか、色々種類あるらしいとか、そんなことだ。
「水あげても良さそうだよ」
「そうなんだ」
「じょうろ探そっと……」
「そこにあるよ」
「お、ありがと」
私は鉢の裏に隠れていたじょうろを指差した。松村くんはひょいとじょうろを取って、水道で水を汲んでくる。
「はーい、お水ですよー。おっと、こんなもんかな? まぁフィーリングだよね」
急に投げやりに聞こえる松村くんの言葉に、思わず口角が上がる。
小さな鉢にじょうろから勢いよく水が出ていく。あと少しで溢れてしまいそうになるところで慌ててジョウロを水平に戻した。
土の水はけは良いようで、水たまりみたいになっていた鉢は見た感じ良さそうだ。
松村くんは目を見開いてすぐ、水がはけたのを見て頬を緩ませる。
「ん? どした?」
松村くんは私の視線に気づいて、鉢から私に視線を移す。
「ん、なんでもない」
「さいですか。あ、雑巾もあったほうが良いよね」
またピューといなくなって、どこからか雑巾を持ってきた。
「これで溢しても安心っと」
「ふふ、どこから持ってきたの、それ」
「廊下のシンク」
「良いのそれ?」
「使わない雑巾ぜんぶあそこにあるし1枚くらい良いでしょ」
そこでドタドタと後ろから音が聞こえてくる。
「瑞葉ー、なにしてるのー?」
突然鞄を持ったかっしーが背後から突撃してきた。時計を見るとぼちぼち良い時間だった。
「なんかお花植えてあってさ、見てたの」
「おー! 綺麗! 瑞葉こういうの好きよね」
「良くない? お花。綺麗で」
「まぁね」
そう言いながら、しれっとかっしーが脇腹を突いてくる。
「ちょっと、やめてよー」
「あ、じゃ」
「うん、またね」
松村くんはそれだけ言って、席に戻っていく。私は松村くんの背を目で追いかける。
「……うりうり」
「ちょっ、弱いからやめて、ふふ」
口で効果音を言いながらかっしーがまた突く。
「なんか良いことあった?」
「わかんない。お花綺麗だったからかな」
「ふーん」
「あ、ほら、やめてよ、ふふ。そろそろ、先生来るよ!」
「……はーい。またね!」
そういうと、かっしーはわざとらしく眉をひそめた後、パッと笑顔を見せて席に戻っていった。




