第23話 秋になる
「起立、気をつけ、礼」
「「あーさーしゃー」」
「あぁいさよーなら」
やはり皆、やる気のない挨拶をしてパラパラと帰り始めた。僕も帰ろうと鞄を持つが、村雨の方を見て席に戻る。村雨は周りの女子たちと少し話をしているようだった。
ここ最近はずっと、二人で一緒に帰っているが、一学期はたまたま一緒になれば二人で帰ると言った具合だった。しかしエクストリームアイロニング部に顔を出さないといけないなど、結局一緒になることが多かった。
帰りの約束しているわけではないが、勝手に帰るのは申し訳ない気がした。
「松村ぁ。暇なら手伝ってくれぇ」
自分の席でボーっとしていると、担任のネズが声を掛けてくる。僕は話を聞くため、ネズのもとへ寄った。
「どうしたんですか?」
「階段の踊り場あるだろぉ? あそこにこれ貼っといてほしいんだ。一階から四階まで一枚ずつ。ちょっと外せない会議があるから任せていいか?」
そういって渡されたのは、第一回紀陵祭連絡会と書かれた張り紙だ。いわゆる文化祭の告知ビラで、係の人が連絡会で必要事項を聞いてくるのだろう。
「八枚あるってことは階段は両方貼るんですよね?」
「そうだな」
「おっけーです。テープとかはありますか?」
「教壇の机の中に文房具箱あるから、マスキングテープで貼ってほしい」
「わかりました。ありがとうございます」
「よろしく」
渡されたビラを教壇の机の上に置いて、文房具箱の中を覗いてみる。
「ごめん、ちょいと失礼」
黒板掃除をしている日直が狭そうだったので、文房具箱をまるまる取り出して、適当な席で箱を開けた。勝手に席を使って申し訳ないが、もう帰ったのでセーフだろうという認識である。
それにクラスの人だし、怒られてから謝ればセーフという甘えもある。
緑のマスキングテープを箱から取り出したところで、村雨がこちらに近づいてきた。
「どうしたの?」
「ネズに張り紙お願いされたから」
僕はそう言って教壇の上に置いたビラを指さす。村雨は指の先を辿ってビラを見つけ、ビラを手に取って確認した。
「紀陵祭かー。初めての文化祭楽しみだね」
「そうだねー。うちのクラスはなにすんだろ。あ、鞄どうする?」
僕は自分の鞄を席に放置してある。僕の視線に気づいたのか、村雨は「大丈夫だよ」と鞄を置いた。文房具箱を戻して、一緒に廊下に出た。
「演劇とかあるあるだよね。ロミオとジュリエットとか」
「アニメでよく見るやつだ。やるなら絶対裏方だけど」
「松村くんも演者やればいいのに。似合うと思うよ?」
「そんなことないって」
手元のビラと正面を交互に見ながら、だらだらと廊下を歩く。
「えーでも先生の物まねとか上手なのに」
「それとこれとは違うでしょ」
「まーね。たしかに進んで演劇やるのは松村くんっぽくないもん」
「やっぱり?」
「うん」
「うん。じゃないよ」
「ふふ、ごめんね」
何気なく村雨の方を見ると、こちらを見て笑っていた。
「別にいいけど」
気恥ずかしさを感じるが、それを感じさせないように返したつもりだ。二人の間に少しの沈黙が流れるが、すぐに階段に着く。
「なんも貼ってないけどここでいいんかな?」
「たしかにここに貼るの心配だね」
「ちょっと上見てくるわ」
僕は上の階を確認してくる。
「上はここに貼ってあったから多分大丈夫そう」
「おー。じゃあ早速貼ろっか。この辺?」
「いいんじゃない?」
「よし」
「あ、テープの端っこ折り返してあげたら優しいかも」
「あー確かに」
遠目から見てまっすぐ貼れているのを確認する。そして村雨に向けて軽く親指を立てて見せた。
「次のとこも貼ろうか」
「うん」
僕たちの教室が二階だったので、はじめに二階と三階の踊り場で、次は四階の踊り場。いったん反対側の階段までまた歩いて、今度は下りながら貼っていく。
一階の踊り場はないが、掲示板があるので代わりにそこに画鋲で貼っておいた。
「紀陵祭実行委員会って誰だったっけ?」
「マツコとか違ったっけ?」
「あー確かにそうかも」
教室に戻ってきてマスキングテープを箱の中に戻す。
「よし、おしまい! じゃあ帰ろっか」
僕は鞄を持って教室の入り口を指さす。そう遠くない駅までを、二人でゆっくりと歩いて帰った。




