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卑屈な僕が、好きと言えるまで――隣の美少女になぜか絡まれてるけど普通に怖いんだが?――  作者: ぷろけー


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第20話 ふれあい。交差。

「うわぁ……! かわいい……」

「……私、瑞葉ちゃんがこんなにとろけてるの初めて見た」

「見て見て! ご飯食べてる! あ、ごめんねびっくりしたよね、ゆっくり食べてていいんだよ」


 白いふわふわなウサギさんが小さな口を動かして、ペットフードのようなものをもきゅもきゅと食べている。名前はすのーというらしい。ひらがなで書いてあるのがまた可愛い。

 私は二人に見てもらおうと指さすが、自分でもびっくりするくらい大きな声が出て恥ずかしくなる。すのーもこちらを見てくる。可愛い。


「この調子で触れあいしたら、瑞葉どうなっちゃうんだろ?」

「かわいすぎておかしくなりそう」

「瑞葉も自覚はあるんだ……」


 かっしーに呆れた目で見られる。自分では少しは自制しているつもりなんだけどね。


「あっちの子触っていいんだよね? 早くいこ!」

「瑞葉、待て」

「私だってそんな勝手にいかないよ!」


 ふれあいコーナーにはモルモットが何匹もいて、どの子も愛くるしい表情をしている。私はいろいろな子の表情を見て回り、一人の子に焦点を定めた。

 驚かせないようにそっと手を差しだして、ゆっくりと距離を詰めていく。鼻先がちょんと触れ、お互いにびっくりした。思わずふふっ、と息が漏れる。

 背中に手を回すと、思いのほか毛量があってきれいな毛並みをしていた。


「いやぁ……可愛かった……」

「……思ったより大きかったけど、可愛かった」

「次どうしよっか? 意外と時間余ってるけど」

「……アイスとか?」

「めっちゃあり」


 ふれあいコーナーの次は、みんなで牧場カフェのようなところでアイスを食べた。私はミルクアイスを選んで、意外にもかっしが抹茶で静香ちゃんがチョコだった。

 そこで他愛もない話をしていたけど、気づけば話題は恋バナに変わっていて、気づいたときには5時近くになっていた。


「そろそろ男子呼ばない? せっかくみんなで来たんだし、そろそろ合流したいかも」


 かっしーの提案に、松村くんたちのことを考えてみる。佐々木くんが川遊びが好きそうなのはわかるけど、松村くんが楽しんでいるのがあまり想像できない。


「いいよ。私呼んでくる」

「ありがと! 私と静香は先戻ってるね」

「おっけー」


 二人と別れて、一人で川の方へ向かう。太陽はわずかに傾いてきて、影が姿を伸ばし始めていた。昼間の暑さはやわらぎ、木陰に入れば少しは体が楽になる。

 川辺の近くに行くと、川下から見知った声が聞こえてきた。私はその声がする方に足を向ける。


「お! 松村上手いやん!」

「こんだけ教えてもらったらさすがにね」

「言うねぇ」


 佐々木くんが松村くんの肩を叩き、松村くんが笑って返す。


「ん? 村雨さん? どうしたのー?」


 松村くんが川に背を向けて、顔を上げる。すると松村くんは私に手を振ってそう言った。一瞬、手を振るか迷って、私も手を振り返した。


「松村くん!」


 名前を呼んだのは無意識だった。松村くんは小走りで私に近づいてきた。


「なんかあった?」

「特になんもないけど、そろそろ松村くんたちと合流したいなって」

「あーね、ちょっとだけ待ってて。次でラストにする」

「なにやってるの?」

「水切り。佐々木がマジで上手くてさ、全然勝てないの」

「ふふ。楽しそうだね」

「うん。めっちゃ楽しい」


 半乾きの髪をくしゃくしゃにしながら、松村くんは顔をしかめた。それでもどこか表情は柔らかくて、その目はまっすぐ私を見ている。


「またあとで」


 私は恥ずかしくなって目を逸らした。


「うん、また」


 松村くんは私に背を向けてまた、小走りで二人に向かっていった。川の水面はキラキラと反射して輝いている。

 私は何を考えていたか忘れて、小さくなる松村くんの背をボーッと見つめていた。

 熱い。私は火照った顔をパタパタと仰ぐ。呼吸も胸の鼓動も早くなる。それがどうしてか分からないまま、早足でテントへ戻るのだった。



 松村くんたちが帰ってきて、みんなで放置していた荷物を開いて整理していく。夕食は6時過ぎに準備してもらうということだった。

 夜に星を見るということだったのでお風呂をどうするか迷ったけど、食後すぐに汗を流すことにした。テントにシャワーがついているので、天体観測の後にもう一度シャワーという選択肢もある。

 ちなみに男子は川遊びのもろもろの汚れを落とすということで、シャワーを浴びているらしい。


「荷物の整理終わったの?」

「あ、うん。僕たち荷物全然ないし。それよりシャワー浴びたい。なんか絶妙にヌルヌルする」


 というのは松村くんのセリフだ。


 荷物の整理が終わって、夕食をレストランで食べた。なんだかおしゃれなコース料理だったけど、名前は難しくて覚えていない。お肉はとても美味しかった。

 レストランなどの中央施設にお風呂があるので、私たちはお風呂に入る。お風呂から上がると、男子はなぜか盛り上がっていた。どれだけ時間がかかるか予想していたらしい。

 

「……キャンドルライトあったけどつける?」

「せっかくだしつけようよ」


 静香ちゃんの提案に私は頷いた。テントのデッキには椅子や机があり、キャンドルを机の上に置いた。キャンドルに火をつけてテントの明かりを消すと、オレンジ色の火がゆらゆらと揺れるのがわかる。


「おー! なんかエモいかも!」

「確かに雰囲気あるね」


 そこで会話が途切れた。小さな火だけでは、みんなの表情ははっきりと見えない。


「……きれいだなぁ」

「ね」


 松田くんのつぶやきに松村くんは空を見て答えた。松村くんのフェイスラインが影になり、その表情は見えない。


「なあなあ、野村って星詳しいんでしょ? 夏の大三角ってどれ?」

「……うんとね、あそこに明るい星が三つあるのわかる? 上に二つで下に一つ」


 みんなで静香ちゃんの話を聞きながら、夜空を見上げる。普段見上げる空にもこれほどの星々があったなんて信じられないほど、それは美しかった。


「……」


 きっと誰もが見惚れていたんだと思う。6人で見ているには、あまりに静かだった。


「みんなと来れて良かったなー。いますごい楽しい」

「急にどうしたんだよ?」


 かっしーがポツリとこぼして佐々木くんが拾う。


「なんでだろうね?」

「まーでもわかるかも」

「また会おうよ」


 それから、他愛もない話をしたり、少し踏み込んだ話もしたりした。


「ごめん、俺疲れたから先戻ってるわ」


 どれくらい時間がたったのか分からない。松田くんはそう言ってテントに戻っていく。


「……私はすこし離れたところで星を見てくる」

「キャンドルの火消す?」

「……大丈夫。ちょっと歩きたいし」


 松田くんがいなくなって、静香ちゃんもいなくなる。


「お菓子買いたいから売店行ってくるね」

「お、いってらー」

「佐々木も一緒に行かない?」

「ん? まあいいけど」


 気づいたら、松村くんと二人になっていた。


「……」


 虫の鳴き声に交じって、松村くんの息遣いが聞こえる。吸って、吐いて、吸って。お互いの距離はあるけど、それでも近くに感じてしまう。


「今日どうだった?」

「楽しかったよ」

「良かった。松村くんってあんまりこういう遊び好きじゃないと思ってた」

「まぁね。自分でも驚いてる」

「変なの」

「……どうせ僕は変な奴ですよ」

「ふふ、そんなつもりないよ」

「そっか」

「うん」


 会話が途切れる。次に口にする言葉が出る前に、松村くんが口を開いた。


「僕も疲れたから戻ってるね」

「うん、おやすみ」

「おやすみ」


 私はそう言って手を振った。視線が絡まる。松村くんは手を挙げて返し、テントに戻っていった。


 私は椅子の背もたれに深く寄りかかって夜空を見上げる。

 ふと、お昼のカフェでのかっしーの言葉を思い出す。


『みんな好きな人いないのー?』


 その時はいないなんて答えた。連鎖的に思い返されるのは梅雨前の私の言葉。


『じゃあ瑞葉のタイプは?』

『私のことをちゃんと見てくれる人が良いかな』


 ぽつぽつといろんな言葉が浮かんで消える。


『村雨さん? どうしたのー?』


 手を振る松村くんと、私を呼ぶ声を思い出す。

 今も胸がざわつく。体が熱い。胸が詰まり、無意識に息を深く吸って吐いた。


 私は、恋をしている。

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