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「全く、度し難い思考だ。」


 ニヒトは、チェインの腹を腕で貫いたまま宙に持ち上げる。

 そして、振り上げるとその勢いでチェインを遠くに投げ飛ばす。

 腕の抜けた腹からは夥しい量の血が噴き出し、チェインが投げ飛ばされた箇所に血の海を作っていた。


「カハッ…!」


「全く、無駄な努力をしてくれたものです。お陰で、私のプランが崩れてしまいました。」


 ニヒトが言葉を紡いでいる間も、流れ続ける血液。

 チェインの体は血にまみれ、青髪すら赤々と血に染まっている。


「まあいいでしょう。私は行方をくらますこととします。何、力が手に入ればこちらのものだ。」


 チェインに留めを刺そうと、ゆっくりとした足取りで近づいていくニヒト。

 そして血溜まりの直前で止まると、左腕を上空に伸ばす。

 極力その血に触れない様に。汚物を触るかの様な扱いでチェインに留めを刺そうとする。


「…か、かかり、ましたね…!」


「何!?」


 瞬間、流れ出ていた血が全て()()()()

 下に血溜まりを作っていたものから、未だに流れ出しているものまで。

 無論、チェインの返り血を浴びたニヒトの体に突いているものもだ。


 それらが全て氷を形成し、ニヒトの体に纏わり付く。

 ()()()()()()

 これが、チェイン唯一にして最大の攻撃。

 ()()()()()()()()の、出来損ないの力。

 チェインは自らの命の危険と引き換えに、自分の持てる限りの全ての()で攻撃を行った。


「そのまま、凍りなさい…!」


 血が、ニヒトを中心に巨大な結晶を作っていく。

 紅く、それでいて透明なその結晶は、とてつもない勢いでニヒトの体を覆っていく。

―――だが、


「まあ、効きませんけどね。()()()()()()()()()()()()()()。込められている『神秘』が余りにも少ない。」


 一瞬にして結晶は砕け散り、中から()()()ニヒトが現れる。


「そんな…!」


()()()()()()()()()()。…良いことを思いつきました。貴方に最大限の辱めを与えましょう。」


 ニヒトは、チェインが這いつくばっている前にしゃがみ込み、チェインの前髪を掴んで口を開く。

 そしてその背後からは―――


「「チェインを放せ!」」


「おっと。」


 フィリアとクロノが、二人の脇から奇襲を仕掛ける。

 フィリアは炎を纏った拳で、クロノはその小さい体躯を活かして跳び蹴りで、ニヒトめがけて飛び出してきた。

 ニヒトはそれに咄嗟に反応し、腕でそれらをガードした後に一足飛びで距離を取り、3人の正面に陣取る。


「み、皆さん、なんで…!」


「チェインは嘘が下手過ぎるのだー。」


「あんな悲しそうに笑われたら、嫌でも気になるでしょうが。…私達が見たかったのは、あんな笑顔じゃないのよ。」


 二人は、地面に倒れて動けないチェインの前に立ち、ニヒトとの間に立ち塞がる。

 普段は笑っているクロノも表情を引き締まらせ、睨んでいる。

 優しさからか他人に余り敵意を向けないフィリアも、強く威圧している。

 友達を殺させはしない。その表情には、強い覚悟が現れていた。


「全く、美しい友情だ。…ですが、()()()()()()()()()()()()()?」


「私からは何もしません。()()()()()()()()()()()。ほっとくと死んでしまうかもしれませんよ?」


「止めて…見ないで下さい…!」


「友達が嫌がってることする訳ないぞ。」

「大体、『敵から目を離すな』って誰が授業で言ったんだっけ?」


 二人とも、ニヒトを見据え、その一挙一動に警戒の眼を向ける。

 本当なら、すぐに駆け寄って声をかけてあげたい。

 振り向いて、そばに寄り添ってあげたい。

 だができない。他ならぬ友達が、見ないで欲しいと言っている。


「では、私が言って差し上げましょう。後ろで何が起こっているか。」


「止めて…!」


 チェインの声を意にも介さず、矢継ぎ早に言葉を紡ぐニヒト。

 その顔には、愉悦の色が浮かんでいた。


「彼女は、()()()()()です。貴方たちの後ろで、必死に身体を修復しているんですよ彼女は。腹に穴が空いた程度で、彼女は死なない。()()()()()()()()()()()()()!」


「あ、ああ…!」


「ハハハハハハハハハ!そうだその顔だ!お前の様な魔物混じりが、人間様に混じわって良いはずがない!()()()()()()ァ!笑う権利も、泣く権利もお前にもないんだよ!」


 馬鹿笑いを続けるニヒト。

 後ろの嗚咽から、チェインが泣いているということは二人にも分かる。

 今までずっと接してきた彼女が、魔物の血を引いている?

 人間の社会に、魔物が紛れている?


「「黙れ」」


「…は?」


「魔物の血が入ってる?」


 手に炎を纏いながら、ニヒトに啖呵を切るフィリア。


「傷の治りが早い?」


 普段は笑っているせいか閉じている目を開き、青筋を立てながら言葉を紡ぐクロノ。


「「そんなもん、関係あるか!」」


「フィリアさん、クロノさん…!」


「チッ…全く、度し難い。本当に…!?」


 罵倒の言葉を言っている最中に、横から()()()()()()を受け吹っ飛ぶニヒト。


「ぐぶぅ!?な、何故だ!」


「我はなー、どうやら、()()()()()()()()()()()()様なのだ。で、我はさっきお前に触れた。」


(あの蹴りの時か…!?コイツ、こんなものを隠していたとは…!)


 驚きの余り殴り飛ばしたクロノの方を睨むニヒト。

 そうすれば、必然的に三人から視線は外れる。


「どこ見てんの?こっちよ。」


「ぐぅ…!?」


 背後に回ったフィリアが、炎を纏った拳で左腕に攻撃を仕掛け、そのまま吹っ飛ばす。

 吹っ飛ばされた先には―――


「ウガァ!」


 ズブリ、とニヒトの脇腹に結晶が刺さる。

 紅く透明な結晶の表面を、ニヒトの鮮血が溶かしていく。更に結晶は紅く染まり、血の槍と化している。


「お返しです…!」


 ニヒトの視線の先には、身体を完全に回復し、立ち上がったチェイン。


「なァらばァ!この手で、お前を…!」


 肥大化した左腕に全ての力を注ぎ込み、更に大きく膨れ上がらせるニヒト。

 その切っ先を振り下ろし、チェインの身体を―――


「おっと。()()()()()()。」


 風が薙いだ。腕は全て輪切りにされ、地面に転がり落ちる。


「―――ッ!?」


 空中には、腕を振り下ろしたロック。

 半身がおびき出し、既に殺した筈の男がそこにいた。


「有り得ない!お前は、私が―――!」


「そう簡単には死なねえよ俺は。約束もしたんでな。それに言ったろ―――()()()()()()()()。」


「あれが魔物だ!身柄を拘束しろ!」


 背後からは、騎士団が駆けつける音。

 再生しても、すぐに風で輪切りにされる。

 逃げようとしても、腹に刺さった氷柱が抜けない。

 上も周囲も全て敵に囲まれている。


「う、嘘だ!私が、力を得た私が―――!」


「馬鹿が。お前は負けたんだよ。」


「何だと!?」


「力では俺に。精神(こころ)ではコイツらに。全てに於いて完敗だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


「そ、そんな…!あり得ない!私がこいつらにィィィィ!?」


 叫び声を上げ、現実を否定するニヒト。

 だが、全てはもう決着している。

 何も、ニヒトを助ける者はいない。


 力に溺れた者は、最早その瞳に何も映さず―――絶望以外の感情を抱いていなかった。

次回は後日談です。


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