それぞれの道
「じゃ、帰るか。」
「そーね。」
「我はもう眠いぞ。」
夜の森にて、ニヒトを倒した俺達はその場で佇んでいた。
俺達が宿に帰ろうとすると、チェインはおずおずと口を開く。
「あ、あの…私、気持ち悪く…ないですか…?」
自身の身体のことを知られてしまった手前、普通に流されたことが不思議なようだ。いや、『こんな身体の自分なんか、仲間に入って良いのか』という意識がまだ拭い去れていないのか。
「気持ち悪い?なんで?」
「傷がすぐ治るとか…。」
「良いことだぞー。冒険者ならなおさらだなー。」
「血が凍るとか…。」
そういや、Sランの仲間にも血を操る奴がいたな。あっちはもっと禍々しいけど。
「んなことねえよ。…俺達を守る為に出した、綺麗な結晶じゃねぇか。」
これは本心だ。神秘が込められ、地面に散らばった氷は未だに残っている。夜闇の中のそれらは、紅い光沢を静謐に光らせている。…綺麗、という感想以外は浮かばない。
俺達の言葉を耳にしたチェインは、目から大粒の涙を流し、嗚咽を漏らし始める。
「皆さん…私は、私は…皆さんの所にいても良いんですか…!」
「「「当たり前だ(ぞ)」」」
「ああ…ありがとう…ございます…。」
「おっ。」
「おー。」
「ああ、これよ。私が見たかったのは。」
お礼と共にチェインが浮かべたのは、満面の笑み。涙に濡れているが、俺達を気遣ったものではない。今まで見た中で一番、光り輝く笑顔だ。
「よーし、帰るか!」
「「「おー!」」」
チェインの心を繋ぎ止めていた鎖は解かれた。
彼女は、これからは自分と皆との間に距離を取ったりなどしない。
己との差を埋めてくれる仲間達に出会うことが出来たのだから。
数日後、王都の牢にて。
「ああ、私は、なんでこんな目に…」
ニヒトは、厳重に拘束され、独房に入れられていた。
椅子に身体を括り付けられ、身じろぎ一つ叶わない。
外には、常に看守がいて、一挙一動を見張られている。
すると突然、看守の意識が途切れる。
座っていた椅子の上で、唐突に気を失い、体幹が乱れた。
そして、看守が座っていた方向から入ってきたのは…
「あ、貴方は…、助けに来てくれたんですか…!」
白仮面の男と、何やら手に魔方陣を展開させている魔女。
「サファイアさん、所用は終わりましたか。」
「ええ。今頃、あの女の子は兄と再会してる筈よ。」
手の魔方陣を消し、白仮面と応対する魔女。
「やれやれ、貴方のそれは欺瞞ですよ。」
「良いじゃない、魔女は欺瞞と自己満で生きてるのよ。」
牢の前で会話をする二人。先程のニヒトの声など、はじめから無かったかの様に話し続けている。
「あ、あの子供は…、私が殺した筈では…!?」
「それは幻術よ。コイツに言われて様子を見たら、アンタが殺しかけてたから助けたの。私はコイツやアンタみたいにバンバカ人は殺さないのよ。」
「―――さて、ニヒトさん。これから貴方の処遇を伝えます。」
急激に圧が増した。
先程までは、友人と会話する様な気安さだったにも関わらず、ニヒトにかかる威圧感が増大する。
殺される。確実に殺されると、ニヒトはそう感じた。
「貴方にその力を差し上げます。」
「…え?」
予想に反して告げられたそれは、ニヒトが切望し続けていた言葉であった。
この力があればどんなに良いか。
今まで見下していた奴を血祭りに上げることができる。
そう、力を振るっていた時は思っていた。
「い、良いんですか!?」
「ええ、構いませんよ。」
首を横に傾け、いかにも笑っているかの様に振る舞う白仮面。
それとは対照的に、目を瞑るサファイア。
「そして、今後はこの彼女に協力してあげて下さい。それが終われば、自由にして構いません。」
「ほ、本当ですか!?あ、ありがとうございます!」
「では、サファイアさん。後は任せますよ。」
サファイアが腕を上げると、虚空にゲートが現れる。
白仮面はそこを通り抜け、姿を消す。
残っているのは、牢越しに対面しているサファイアとニヒトだけだ。
「…それじゃ、私の工房へ行くわよ。」
そして、ニヒトを椅子ごと転送し、自分も移動するのだった。
小さな部屋に、鼻につく刺激臭が漂っている。
そして、ブウウウウウウンという、何かしらの機械が動いている様な音。
ニヒトが意識を取り戻した時、初めて気づいたのはそれらだった。
自分は、今横たわり、なにかしらに固定されている。
ニヒトは、手足を動かそうと試みるも、あたわず台を振動させるだけだった。
「目覚めたようね。これから、貴方に協力して貰うわ。」
階段を降りてくる、コツコツという音が響き、サファイアが扉を開いて部屋に入ってくる。
このように拘束され、どのような協力をすれば良いのか。ニヒトの頭には、その疑問が浮かんでいた。
「わ、私は何をすれば…?」
「簡単よ。これから私が何をしようと、生きててくれればそれでいい。一連の工程が終わって、生きていれば次の工程へ。そうでなければ貴方は自由にしていいわ。」
(それでは、私に死ねと言っているようなものじゃないか…!)
そう告げるサファイアの声色は、ひどく冷淡なものであった。
いずれ死にゆくものに、一片の情も必要ない。その考えが伝わってくる声色だ。
「待って下さい、私を殺すのですか!?貴方達に協力したのに!」
だが、ニヒトは死を前にして、頭脳を回転させて何とか逃れようとする。
その裏には、こんな打算があった。
(あの子供を救ったことから見て、この女は甘い!付けいる隙は、そこに…)
「…私が、貴方の考えている事が分からないと思う?」
(―――!?)
「600年と少し。私は人間のそばにあり続けてきた。貴方の考えていることも分かるし、もう言葉を交わす必要も無い。」
「だけど、安心しなさい。貴方に慈悲を上げる。」
その言葉に、活路を見出したと目を輝かせるニヒト。
サファイアはゆっくりとニヒトに近づいていく。
「貴方、『力』は好きでしょう?だから、私の『力』にしてあげる。どう?貴方は『力』そのものになるの。相応しい末路だと思わない?」
「や、止めろ!その手を私に…」
ニヒトは、拘束されている台の上でもがくも、台を揺らすことしかできない。せっかく手に入れた力も、使うことができない。
「それじゃ、さようなら。」
サファイアはニヒトの顔に手を翳し―――ニヒトは意識を手放した。
申し訳ないのですが、リアルが忙しくなり、執筆時間が取れなくなってしまいました。
なので、この話は一旦閉じさせて頂きます。楽しみにしていただいている方々には本当に申し訳ない。
いずれまた、この話の設定を活かすか、全く新しい話を書こうと思います。
もしかしたらリメイクもあるかもしれません。
あと、文体をこうした方が良い、ここが良かった悪かった等のアドバイスは是非お願いします。
リアルが落ち着いたら、作品作りに活かしたいと思います。




