課外前日
「さて、明日は課外学習です。皆さん、概要は知っていますか?」
Dランク教室にて、俺達はニヒトから説明を受けている。なぜかニヒトはここ毎日上機嫌だ。毎日毎日学校に来てるってのによくテンション上がるな。俺なんか慣れなすぎて未だに朝が辛いってのに。
「この課外学習は、実際に魔物の生息地を目にすることが目的です。と言っても、王都から少し離れた場所で安全な魔物を確認するだけですが。」
今更見飽きてるけどな。だが、簡単な遠足と考えれば悪くない。ここ一ヶ月学園から出る機会がなかったし。
…ちょっと抜け出して酒も調達しよう。
「クラスごとに対象地域も違いますが、全クラス一泊二日で行われます。なので、備品は今日の内に用意しておいて下さい。それでは今日は終わりです。さようなら。」
そこまで言い切るとさっさと教室を出て行くニヒト。
「さてロック、クロノ。準備は万端?」
「オーケーだぞ。我は予備の枕を10個と、トランプ、お菓子、うーん後は…。」
「いや、そこが本旨では無いんだが…。」
課外学習前日の夜、俺達はフィリアの部屋に集まり作戦を練っていた。その作戦とは…
「さて、この作戦の概要をおさらいするわよ。名付けて、『チェインに笑ってもらおう大作戦』!」
「「おー!」」
これは先日の会話の後、フィリアが企画したものだ。因みにネーミングもフィリアがした。そのまんまドストライクだが。
「明日の日程は、午前中に馬車で移動。ここでチェインとの距離を少し詰めましょう。」
本当はもっと早い移動手段があるんだが、そこはしっっっかりランクで分けられている。俺達は揺れも激しく時間もかかる馬車。
大気中に漂う神秘を動力に変える方法があるので、本来なら列車なりなんなり使えるんだがな。王都周辺なら整備されてるし。Sランクの連中は専用車を出すそうだ。待遇の差が激しすぎる。
「昼食を摂った後、午後はフィールドワーク。行き先の村の人達と交流して、その後実際に魔物を見に行く。そこで更に、距離を詰めましょう。」
そこに自由時間もある。その間に、その後の情報収集をしなければ。
「そして夜!そこが一番の自由時間よ。かなり余裕があるし、遊び放題ってワケ。だから最後に留めをさして落としましょう。」
クロノがさっき言ってたのはこれだ。枕投げ、トランプ、パジャマパーティー、等など。俺は流石に部屋が別だが、年頃の女子であれば距離が縮まること間違いなしだろう。
というか距離詰めすぎだろ。最後に至っては留め刺してるし。
「本命は夜だけど、日中も積極的に話かけにいきましょう!ロックは夜の部に参加しなくていいの?」
「ハハハ、俺は買う物があるんだ。それに、女だけのとこに俺がいても邪魔だろ。話の幅が広がっていいじゃないか。」
「そう?お土産とかあるのあの村?」
「そんなとこだ。」
そう。呑むと楽しくなる魔法の水だ。しっかり昼の内に規制が緩そうな酒屋の情報を集めておこう。
「よーっし、明日はチェインを笑わせるぞー!」
「「おー!」」
同時刻、チェインの部屋にて。
(この部屋、壁が薄いから意外と音聞こえるんですよね…。)
この寮の部屋順は、左からロック、フィリア、チェイン、クロノである。隣で騒げば音が漏れるのは必定。
つまり計画はそのままチェインの耳に流れ込んでいた。
悪いと思ったチェインは自分の耳を塞ぎもした。だが、流れ落ちる滝を止めることが出来ないように、全て手の上から流れ込んでくる。
結果として、チェインは一から十どころか計画の隅々まで聞いてしまっていた。
しかも、計画を立てている当人達はそれに全く気づいていない。
その上、隣から聞こえてくるのは
「でも、気を遣わせるからこの計画は秘密ね。」
「おー、それがいいぞー。我もそう思う。」
「漏れる口は少ない方が良いらしいしな。」
頭隠して尻隠さず。というか絶賛漏れている。ダダ漏れである。
そして最後に至ってはニュアンスが違う。
―――だが、故に伝わるものもある。
何の打算もなく、何の利益もない。
そこにあるのは掛け値無しの善意だけ。
チェインはベッドに横たわり、右手を上に伸ばし、そして手を握った。
輝かしいものを掴む様に。自分と程遠い、尊いものに憧れる様に。
(ああ、私は―――)
同時刻、目的地の村にて。
「すいませんね、こんな時間までご厄介になって。明日はよろしくお願いします。」
「わざわざ下見とは、熱心な先生だねえ。最近、近隣の村が襲われたらしいし、帰りは気を付けるんだよ。」
ニヒトは村に訪れ、宿泊先に挨拶をしていた。人の好さそうな笑みを浮かべ、いかにも最近出没する魔物を警戒しているかの様に振る舞う。
「―――そう言えば、あの子はどうしたんですか?」
ニヒトの目線の先には、少し離れた場所からこちらを伺う少女がいた。白塗りの壁から体を半分だけ覗かせ、ニヒトの方を見つめている。
その少女はニヒトの視線に気づき、一目散にニヒトの視界から逃げる。
気のせいか、少々の怯えを含んでいる様だった。
「あの子はねえ、隣村の唯一の生き残りなのさ。家族も皆殺されちまって、行く当てがないからってウチで預かってるんだ。…全く、不憫なもんだよ。」
「―――そうですねぇ。残酷なこともあったものですよ。では、今日はお暇させて頂きます。」
そう言って振り返ったニヒトの顔は、喜悦が浮かんでいた。
(ああ、あの子供は良い置き土産を残してくれました。精々使い潰させて貰うとしましょう。
――――全く、馬鹿な子供だ。)
そろそろ破滅します。次話かその次あたりかな?彼はどの様な末路を辿ってしまうのでしょうか。どうぞお楽しみに。




