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再起転生 ~借金まみれの三十一歳、貴族の赤ん坊になったので今度こそ魔法と人生を楽しみたい~  作者: ぬゑ
私の最初の一歩

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五歳の試練と旅立ちの宣告


あれから数ヶ月が過ぎた。この世界での時間は、驚くほどの速さで駆け抜けていく。


「テオ、この魔力の流れ、もう一回見せて!」 「いいよ。息を吐き出す前に、まず掌の中で圧縮するんだ」


驚いたことに、リヴィアは水属性の魔法を**『上級』**の領域まで押し上げていた。火や雷に関しては相変わらず壊滅的だが……七歳という年齢で単一属性の上級に到達するなど、常識外れの快挙だ。


もちろん、四歳で三属性を極めた俺と比較するのは野暮というもの。俺には前世の記憶と現代物理のカンニングペーパーがあるが、リヴィアは純粋な才能と根性だけでここまで登り詰めたのだ。彼女もティヴァルも、磨けば光る原石だった。


ティヴァルの方も、出会った頃の尖りまくった警戒心がすっかり丸くなっていた。昔はリヴィアを守るためだけに唸り声を上げる野犬のようだったが、今では三人で顔を突き合わせて笑い合うことの方が多い。この二人は本当に仲が良い。賭けてもいいが、将来絶対にデキる。


他人の色恋沙汰の予想はさておき、俺自身の魔術は完全に停滞期に入っていた。風と土をどうにか中級まで引き上げたものの、そこから先は目に見えない壁に阻まれているようだった。主要属性の威力もこれ以上は伸びない。


この足踏み期間を利用して、俺は書斎の古文書を貪り読んだ。 千二百年前に起きた神話級の大戦――記録に名高い**『千夜戦争』**。

人間族とエルフ族が数百年にもわたって血で血を洗った種族間戦争。そして、その果てに結ばれた諸種族の融和条約。


俺はずっと疑問だったのだ。なぜ人間ばかりの寒村に、魔族の少年とハーフエルフの少女が肩を身を寄せ合って暮らしているのか。その歴史的回答が、ようやく腑に落ちた。


当時、広大な領土に孤立していた魔族の有力氏族は、人間とエルフの泥沼の争いに冷徹な不干渉を貫いていた。だが、人間族が勝利した後の報復を恐れた一部の魔族過激派が条約を破ってエルフ側へ加勢。一方で、少数ながら勇敢にも人間族と同盟を結んだ魔族たちも存在した。


大戦終結後、不可侵条約の締結と共に絶対的な種族の境界線は崩壊した。完全な隔離政策は終わりを告げ、混在した移住が認められたのだ。村人たちの根深い偏見は相変わらずだが、彼らがここに存在すること自体は、歴史的に何ら不自然なことではなかったのだ。


……なるほどな。この世界、俺が思っていたよりもずっと複雑怪奇にできているらしい。


そんな中、専属メイドのエステルがここ最近、目に見えて元気をなくしていた。

理由を尋ねても、彼女は曖昧に笑って眼鏡のブリッジを押し上げ、話を逸らすばかり。前世で三十年以上生きてきた男として、これくらいは察しがつく。彼女の喉には、重たい何かが引っかかっているのだ。だが本人が口を割らない以上、詮索のしようもなかった。


そして数日が過ぎ、ついにその日がやってきた。 俺の、五歳の誕生日だ。


前回の騒ぎを教訓に、俺は両親に「質素でいい」と念を押しておいた。

だが、地方領主の「質素」という言葉の定義は、現代の言語学者に解明してもらいたいレベルでズレていた。


煌びやかな音楽、山のようなご馳走、そして俺のちっこい両手を引っ張ってダンスを踊らせようとする年上の貴族令嬢たち。ステップを間違えて足を踏んづけ、恥をかきまくった。社交辞令だけの薄っぺらい友達も何人かできたが、俺は大人の愛想笑いでやり過ごした。


だが、去年の誕生日とは決定的に違う点が二つあった。


一つ目、そして最も心に残ったこと。 親父が、リヴィアとティヴァルを正式に客として屋敷へ招き入れたのだ。

去年も招待状自体は出ていたらしいが、二人の家族が村人からの私刑や報復を恐れて辞退していた。


だが今回は違った。領主のアーサーが直々に睨みを利かせ、陰で二人を虐めていた悪童たちの親を広場に呼び出し、公開説教をぶちかましたのだ。「村の秩序を乱すなら相応の処罰を与える」――普段はおちゃらけているイケメン領主が本気で凄めば、腰抜けの大人どもは震え上がるしかない。


会場の隅っこで、目を丸くしながら高級な果実タルトや肉料理を口いっぱいに頬張る二人の笑顔。 間違いなく、この新しい人生で最高の思い出の一つになった。


そして、二つ目の違いだが……こっちは地獄だった。


聞くところによると、マルボルトの血筋には野蛮極まりない伝統があるらしい。

五歳、十歳、十三歳、十五歳という節目を迎えた男子は、宴席で振る舞うメインの肉を自力で狩らなければならないというのだ。客への敬意と、一人前の男としての証明のために。


最初は「親父にメイドへのムッツリスケベな妄想がバレて処刑されるのか!?」と青ざめたが、純粋にただの脳筋な貴族の風習だった。


問題は、五歳児の獲物として選ばれたのが**『三本角の猪(トライホーン・ボア)』**だったことだ。

猟犬並みのスピードで突進してきて、短剣のような牙で噛みついてくる凶悪な魔獣。

泥にまみれ、太ももを二箇所も深く噛まれて血を流しながら、俺はゼロ距離で頭部に高圧の雷撃を叩き込み、文字通り死に物狂いで仕留めた。


全身打撲と擦り傷だらけのボロボロになったが、どうにか生き残った。 そして悔しいことに、ハーブでじっくり炙られたその肉は、死ぬほど美味かった。


あの狂乱の宴から二週間後。屋敷の空気が一変した。


「母さん、おめでとう……」 「……ありがとう、テオ」 ミレルは少し顔色を青くしながらも、幸せそうに微笑んだ。 「愛しい人よ!!

俺たちの愛がまた実を結んだぞ!!」 親父が感極まって叫び、テーブルをひっくり返しそうになる。


そう。俺はめでたく、嫉妬深い兄貴へと昇格したのだ。


「おめでとうございます、奥様」

エステルが深々と一礼し、その背後には普段は見かけない厩舎番や木こり、庭師たちまでが整列して祝意を述べていた。屋敷は温かい祝福ムードに包まれていた。


だがその日の夕暮れ。熱気が引いた裏庭のテラスで、親父が俺を呼び止めた。


「テオ。二人だけで話がある」 「……何、父さん?」


本能が警報を鳴らした。この声のトーンは、絶対にろくな話じゃない。 書斎のカーテンを焦がしたのがバレたか? それとも、親父の愛剣に悪戯で静電気を仕込んだ件か……?


「調子はどうだ、テオ?」 「普通だけど……」 アーサーは深くため息をつき、顎のあたりを擦った。その陰りを帯びた瞳が、俺の背筋を冷たく撫でる。


「そういうことを聞いてるんじゃない。魔術の修練はどうだ?」 「正直、完全に頭打ちだよ。ここ何週間も進歩がない」 「そうだろうな」

親父は静かに頷き、爆弾を落とした。 「だから決めた。お前を、王都の外にある魔法学院へ送る」


「――は!?」


思考が真っ白になった。 その瞬間、テラスのガラス扉が勢いよく開け放たれた。妊娠中のミレルが、肩で息をしながら鬼の形相で立っていた。


「アーサー! 正気なの!?」 「ミレル、座りなさい。興奮するのは体に毒だ」

「今すぐなんて嘘でしょ!?」母の声が怒りと恐怖で震えていた。「あの子はようやく本当の友達ができたのよ!?

やっと外の世界に心を開いたのよ!? それを、五歳の子供を家から追い出すっていうの!?」


「ミレル、現実を見ろ!」 親父が声を荒らげた。あの温厚で泣き虫な男が、凄まじい威圧感を放っている。

「この村の小さな温室に閉じ込めておいて、これ以上テオが成長できると思うのか!?

こいつの才能は、並の正規兵ですら太刀打ちできないレベルに達しているんだぞ!」


「それでも、まだ子供よ……!」


「王都の本家からの干渉が強まっているんだ」 親父の冷え切った一言に、テラスの空気が一瞬で凍りついた。

「毎月のように届く催促状と、理不尽な要求。このまま俺たちが平和ボケを気取っていれば、テオは本家の連中に弱みを握られ、逃げ場のない標的にされる。親の庇護を離れ、誰にも素性を知られない外の世界で力をつけさせるのが、今できる唯一の防衛策なんだよ」


母は唇を噛み締め、悔しそうに俯いた。何も言い返せないようだった。


親父は俺の前にしゃがみ込み、五歳児の細い肩に大きな両手を置いた。


「それにテオ……屋敷のメイドたちの労働時間は一日五時間だ。だがエステルだけは例外だった。あいつはこの数年間、お前の教育と世話に付きっきりだったんだ。エステルにだって自分の人生がある。母さんが身重になった今、屋敷の人手は新しい命に割かなければならない。もし明日、弟か妹が産まれたとして……お前はエステルに甘えずに、一人で立てるか?」


頭の中で、パズルのピースが音を立てて噛み合った。 ここ最近のエステルのあの暗い顔……あいつ、最初から全部知ってたんだ。

自分の役目が終わり、俺がこの家を去らなければならないことを。


前世の三十一歳の理性が、子供じみた甘えをねじ伏せた。 住み慣れた快適な巣に引きこもりたいという臆病な本能を、強引に飲み込む。


「……わかった。行くよ」


「テオ……っ!?」 母が涙を浮かべて口元を押さえた。


決定は下された。 俺の行き先は、東方に位置する交易の要所――**『シラード王国』**の高等魔法教育機関。

山を越え、深い原生林を抜ける、馬車で丸二十日を要する長旅だ。


当然、五歳の幼児が一人で旅をできるはずもない。安全に送り届けるため、親父は絶対の信頼を置く護衛を雇い入れていた。


屋敷の門前に視線をやると、柵に寄りかかる一人の人影があった。 風に擦り切れた旅外套を羽織り、研ぎ澄まされた刃のような眼光を持つ長身の女。

そしてその背には、見る者を本能的に威圧する――禍々しいまでの超大剣が背負われていた。


全身から漂う、濃密な血と死線の匂い。


生温い幼年期は、これで完全に終わりを告げた。 さあ、行くとしよう。次の舞台へ。

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