ハーフエルフと青肌の魔族
この家、何かがおかしい。
転生してからというもの、両親はずっと俺に優しかった。いや、優しすぎるくらいだった。ところがここ数か月、その態度がさらにエスカレートしている。やたらと俺にべったりだし、俺が二人をどう思っているのか、妙に気にしているように見える。
気のせいじゃない。俺には分かる。
二人は俺が見ていることに気づくと、わざとらしく抱き合ったりする。時には、恋人同士がやるような、語尾に「ちゃん」だの「たん」だのをつける、あの気持ち悪いやり取りまで始める。
「愛しい人」だの「かわいい坊や」だの……。
マジで気持ち悪い。
何かあったのかと思って、メイドのエステルに尋ねてみたが、うまくはぐらかされた。他の使用人たちにも聞いてみたものの、天井を見ながら口笛を吹き始める者もいれば、露骨に話題を変える者もいた。
俺はいったい、どんな家族のもとに転生したんだ?
……まあいい。考えたところで、どうにかなるわけでもない。
さらに二年が経った。
魔法の上達は行き詰まっていたが、四歳の誕生日に父が新しい本をくれた。これまでの本よりずっと詳しく、初心者向けに簡略化されたものとはまるで違う。
それまで俺が知っていたのは、冒険者や戦士たちが使うランクによる分類くらいだった。魔法使いたちは、もっと正式な名称を好むらしい。
初級、中級、上級、専門級、熟練級、達人級、そして大師級。
それぞれの段階で、魔法の複雑さも威力も大きく変わる。もちろん、必要な魔力量も増えるし、呪文を扱う難易度も上がっていく。
ようやく、自分が行き詰まっていた理由が分かった。
誕生日には、頭がおかしいんじゃないかと思うほど盛大なパーティーも開かれた。こういう催しは昔から好きじゃないので、詳しい話は省く。村中の人間が集まったらしい。
エステルから学べることも少なくなり、退屈を感じ始めていた俺は、パーティーから抜け出す口実を探していた。それまでは庭と魔法書さえあれば十分だったのだが、その日、俺は転生して初めて屋敷の門をくぐった。
村へ続く道の両側には、木々が立ち並んでいた。夜なら不気味だっただろうが、朝日を浴びた景色は美しかった。
額から曲がった角を生やした鹿。俺の知っている馬よりも、はるかに筋肉質な馬たち。青や黄色、黄金に近いオレンジ色の花を咲かせる木々。
何時間でも眺めていられそうだった。
……いられそうだったのだが。
やがて、石がところどころ転がる土の道に出た。その少し先では、子供たちが遊んでいる。
少なくとも、そのときの俺にはそう見えた。
「この村から出ていけ、魔族!」
「うわ、気持ち悪っ! さっさと消えろよ!」
一人の少年が石を投げていた。もう一人は嫌悪感丸出しの顔で唾を吐いている。その周りでは、さらに五人の少年と二人の少女が、まるで最高に面白い見世物でも見ているかのように笑っていた。
その前で、一人の少女が地面に膝をつき、必死に身を守っていた。
尖った耳を見れば、エルフの血を引いていることは分かる。ただ、本で見たエルフたちとは、耳の形が少し違っていた。
少女の隣には、額に深い傷を負った少年がいた。肌は淡い青色。その少年は少女をかばうように両腕を広げ、彼女の前に立っていた。
必死に涙をこらえている。
自分が痛いからじゃない。これ以上、少女を怖がらせないために。
……いや、待て。
これは遊びなんかじゃない。
いじめだ。
そして、俺はこういう光景を嫌というほど知っていた。
俺が死んだとき、三十一歳だった。
名前? 前世の名前なんて、もうどうでもいい。
問題は、今から十四年ほど前に遡る。
俺は貧しい家庭に生まれ、何をするにも慎重に育った。決断する前にはあれこれ考えすぎ、表面的な付き合いしかできない人間を避け、面倒事になりそうな人間関係からは逃げていた。
そして何より、他人に気に入られるためなら何でもするような馬鹿だった。
十七歳のとき、俺は一生忘れられない屈辱を味わった。
当時、学校の女の子と付き合っていた。
十五歳。金持ちの家の娘で、顔立ちも綺麗で、笑顔がやたらと魅力的な子だった。
付き合っていた、といっても、そういう関係はいろいろある。俺たちはキス以上のことはしていなかった。俺にも興味や性癖はいろいろあったが、実際に何かをする勇気はなかったのだ。
まあ、それだけなら問題はなかった。
事の始まりは、いじめっ子たちに殴られていた子供を助けようとしたことだった。
揉めている最中、周囲からこんな声が聞こえてきた。
俺があの子と付き合っているのは、彼女の家の金が目当てだからだ、と。
頭に血が上った俺は、何も考えずに相手の一人を殴った。
十一歳のガキだった。
何が起きるかなんて、まったく考えていなかった。あの行動を誇りに思っているわけじゃない。
二か月後、年上の男たちが現れ、俺を殴り始めた。
最初は、何が起きているのかさえ分からなかった。どうして今さら、あのときの喧嘩が蒸し返されるのか。どうして、たった一度殴っただけで、こんな目に遭わなければならないのか。
答えを考える暇もなかった。
男たちは俺を囲み、拳を顔に叩き込み、腹や脇腹を蹴った。頭をかばえば背中を蹴られ、体を丸めれば腕をつかまれて引きずり起こされた。立ち上がろうとするたびに、また地面に倒された。
一人が俺を押さえつけ、その間にほかの連中が殴り続けることもあった。
抵抗すれば、さらにひどくなった。
だが、奴らはただ殴るだけでは満足しなかった。
サッカーボールを持ち出し、俺の股間めがけて蹴りつけることさえあった。激痛で体を折り曲げ、声も出せずにうずくまる俺を見て、奴らは腹を抱えて笑った。どうにか立ち上がろうとすれば、また蹴られた。やめてくれと頼めば、その反応が面白いのか、ますます調子に乗った。
あいつらにとって、俺が苦しむこと自体が娯楽だったのだ。
一度きりの喧嘩じゃない。何週間にもわたって、暴力は繰り返された。
顔は腫れ上がり、唇は切れ、呼吸するたびに肋骨が痛んだ。体中に痣ができ、歯まで失った。ようやく傷が引き始めた頃にまた見つかり、今度こそ終わりだと思った期待は、何度も裏切られた。
食べる気力も、飲む気力もなくなった。
時には目を閉じて、そのまま二度と起き上がりたくないとさえ思った。逃げようにも、どこへ行けばいいのか分からなかった。誰かに助けを求めることもできず、いつ、どこで、また奴らに捕まるのかと怯えながら過ごしていた。
そして、奴らは俺に別のことまで要求してきた。
あの少女から金を取ってこい、と。
俺があの少年にしたことへの「慰謝料」だという。
何が何だか分からなかった。あのとき俺が殴ったのは十一歳の子供だった。だが、目の前にいるのは年上の男たちで、俺が何を言おうと聞く耳を持たなかった。
断れば、また殴られる。
従わなければ、この地獄は終わらない。
俺はただ、もう殴られたくなかった。朝起きて、今日もあいつらに会うかもしれないと考えたくなかった。
だから、俺は彼女に金を要求した。
自分が何をしているのか、分かっていた。それでも、ほかにどうすればいいのか分からなかった。
数週間後、俺は真実を知った。
彼女の家族が、俺に娘と付き合う資格があるのかを試すため、何人かの男たちに頼んでいたのだという。
彼らに暴行を頼んだわけではなかった。ただ、俺がどんな人間なのかを確かめたかったらしい。
だが、その中の一人は、もともと彼女に好意を抱いていた。
そいつは、この機会を利用した。
俺を試すという名目を、自分の恋敵を痛めつけるための口実に変えたのだ。ほかの男たちも加わり、いつしか、ただの試しだったはずのものは、俺を何週間も追い詰める暴力へと変わっていた。
……そんなことで、何かがマシになるとでも?
彼女の家族は、俺をここまで痛めつけるつもりではなかったのだろう。
だが、そもそも、娘と付き合う資格があるかどうかを確かめるために、俺をよく知りもしない男たちに任せたのは彼らだ。
その結果、俺はあいつらの手に落ちた。
しかも、それで終わりじゃなかった。
別のグループまで俺を追い回すようになった。俺が何をしたのか、誰が何を吹き込んだのか、今となっては細かいことまでは覚えていない。ただ、気づけば別の連中まで俺を殴り、蹴り、痛めつけるようになっていた。
最初の連中が何を考えていたのかさえ分からないのに、今度は別の連中にまで怯えなければならなかった。
俺は二つのグループから暴力を受け続けた。
歯を失い、蹴られたくない場所を蹴られ、思い出したくもないような目に遭った。体の傷が少しずつ治っても、恐怖まで消えてくれるわけじゃなかった。
足音を聞くだけで身構えるようになった。誰かの笑い声が聞こえると、自分が笑われているのではないかと考えた。相手の顔色をうかがい、怒らせないように言葉を選び、何かを頼まれれば断る前に、その後どんな目に遭うのかを考えるようになった。
もともと他人に嫌われることを恐れていた俺は、ますます人を信じられなくなっていった。
その間に、人生で本当に愛した唯一の女の子からの信頼まで失っていった。
俺が彼女に金を要求したこと。その理由をすべて説明できなかったこと。彼女から見れば、俺が自分の家の金を目当てにしていたのではないかという疑いを、完全には消せなかったのかもしれない。
何をどこまで知っていたのか、彼女が何を信じていたのか、今でも分からない。
ただ、あの出来事のあと、俺たちの関係は壊れていった。
俺は彼女を守りたかった。なのに、結果的には彼女まで傷つけ、最後には、俺が人生で唯一、本当に信頼していた相手との関係さえ失った。
……くそったれ。
彼女の家族に、あの男に、俺を殴った連中に、それぞれ言い分はあったのだろう。
だが、どんな理由を並べたところで、俺が受けた暴力が消えるわけじゃない。
俺はただ、誰かがいじめられているのを見て、助けようとしただけだった。
それなのに、あのときの俺は、何週間も殴られ続けることになった。
だからこそ、目の前の二人を見捨てて、何もなかったことになんてできるわけがない。
「失せろ!」
俺は手を掲げ、魔力を集めた。
拳ほどの大きさの水球が五つ、目の前に現れる。それらをまとめて、いじめっ子たちに撃ち出した。
不意を突かれた少年たちは、後ずさる者もいれば、その場に尻もちをつく者もいた。
俺は相手が立ち直るのを待たず、簡単な雷魔法を詠唱した。
怪我をさせるほどの威力はない。ただ、数秒間、筋肉を麻痺させる程度のものだ。
全員がその場に倒れ、呆然としていた。
少しやりすぎた自覚はある。
だが、このときの俺は、奴らの言い訳を聞く気などなかった。
ぽつり、ぽつりと、雨が降り始めた。
俺は二人のもとへ近づいた。
「二人とも、大丈夫か?」
少女は少年の背後に縮こまった。
少年はまだ血を流していて、立っているのもやっとの状態だった。それでも、俺と少女の間に立とうとしている。
二人とも、俺をほかのいじめっ子たちと同じような危険人物を見る目で見ていた。
無理もない。
「安心してくれ。二人に何かするつもりはない。約束する」
返事はなかった。
少年の額の傷は治療が必要だったが、俺はまだ回復魔法を使いこなせていない。手元にあるのは初歩的な魔法が載った薄い本が二冊だけで、その中の魔法ですら、安定して使えた試しがなかった。
それでも、やるしかない。
俺は少年の前に膝をついた。
「傷を治してみる。じっとしていてくれ」
少年は即座に身を引いた。
「傷つけたりしない。ほら、本当にその気なら、もうとっくに何かしてるだろ?」
それでも、彼は警戒を解かなかった。
……当然か。
俺は手を離し、少し距離を取った。
「分かった。許可なく触ったりしない。でも、その傷は治療しないとまずい」
少女は少年の額を見て、それから俺を見た。
「ティヴァル……この人に任せてみようよ」
少年は迷っていた。
やがて、一度だけ小さく頷いた。
俺は詠唱し、指先に魔力を集中させた。エステルに教わった、魔力の流れを感じ取る感覚を必死に思い出す。
最初は何も起こらなかった。
しかし、しばらくすると、かすかな魔力が指先から流れ出した。淡い光が傷口を包み、血の流れが弱まっていく。
傷そのものが消えたわけじゃない。俺には、そこまでのことはできなかった。
それでも、出血は止まり、傷口が少しずつ塞がり始めた。
俺は、いつの間にか止めていた息を吐き出した。
成功した。
完璧じゃないが、成功したのだ。
「よし。ひとまず、これで大丈夫なはずだ」
少年は慎重に額へ触れた。血が止まっていることに気づくと、表情がわずかに変化した。
少女も彼の背後から出てくる。
「ありがとう……」
小さな声だった。
少年は何も言わなかった。
別に礼を期待していたわけじゃない。俺が離れた途端、二人が逃げ出したとしても驚かなかっただろう。
「二人の名前は?」
少女は少し迷ってから答えた。
「リヴィア」
明るい色の髪に、整った顔立ち。エルフの血を引く耳。
だが、それ以上に気になったのは、彼女のあの縮こまった態度だった。
「ティヴァル」
少年はそう名乗り、目の周りについた乾いた血を拭った。
俺は改めて、その青みがかった肌を眺めた。
好奇心が勝ってしまった。
「君って、魔族なのか?」
ティヴァルの体が強張った。
……しまった。もっと別の聞き方をするべきだった。
「俺はドラヴァノだ」と、彼は苛立ちを隠そうともせずに答えた。「見れば分かるだろ」
「悪気があったわけじゃないんだ。気を悪くしたなら、ごめん」
「みんな、同じことを聞いてからそう言うんだ」
俺は返す言葉に困った。
ドラヴァノ。その種族については聞いたことがあったが、この世界の種族事情については、まだほとんど何も知らない。
人間より身体能力が高い一方で、魔力量はかなり少ないらしい。
どうやら、本人はその説明をするのが好きではないようだった。
「分かった。悪かったな」
ティヴァルは、俺が嘘をついているのではないかと疑うように、数秒間こちらを観察した。
その沈黙を破ったのは、リヴィアだった。
「どうして私たちを助けてくれたの?」
正義だの、優しさだの、弱い者を守りたかったからだの、格好のつく答えはいくらでもあった。
だが、実際の理由は、もっと単純で、もっと自分勝手なものだった。
「誰かが、ほかの誰かをあんなふうに傷つけているのを見るのが嫌なんだ。昔、似たようなことがあってさ……ひどい結末になったんだよ」
それ以上は話さなかった。
二人が俺の前世について知る必要はない。
「余計なことに首を突っ込まなくてもよかったのに」
ティヴァルは視線をそらしながら言った。
「これで、あいつらはお前を恨むぞ」
「だろうな。ははっ」
「怖くないのか?」
「怖いものなら、いくらでもあるさ。でも、だからって、目の前で誰かが殴られているのを黙って見ていていい理由にはならないだろ」
別に名言でも何でもない。
大人が、勇敢な人間を演じようとして口にするような台詞だったかもしれない。
それでも、俺の本心だった。
いじめっ子の一人が、ふらつきながら立ち上がった。
「お前、絶対に後悔するからな……」
「そうかもな。でも、こいつらにもう一度手を出したら、大人たちに何があったか全部話してやる」
少年は歯を食いしばったが、何も言い返さなかった。
大した脅しじゃない。何しろ、俺はまだ四歳だ。自分の魔法が年上の子供たちとの喧嘩で、どこまで通用するか試したいとも思わなかった。
幸い、奴らは不満げな視線をこちらに向けながら、互いを引っ張るようにして立ち去っていった。
奴らが見えなくなるまで待ってから、ようやく気づいた。
村を見に行こうと家を出たばかりなのに、一時間も経たないうちに喧嘩の真っただ中にいる。
……最高のスタートだな。
「二人はこの辺りに住んでるのか?」
「広場の近く」と、リヴィアが答えた。
「この村には詳しい?」
二人は警戒したように顔を見合わせた。
「どうしてそんなことを聞くんだ?」と、ティヴァル。
「今日、初めて家の外に出たんだ。どこに何があるのか、さっぱり分からなくてさ」
「初めて?」リヴィアは目を瞬かせた。「でも、あの大きなお屋敷に住んでるんでしょう?」
彼女は俺の屋敷の方を指さした。
道からでも、あんなに簡単に見分けられるものなのか。
「そうだけど」
「じゃあ、お金持ちか偉い人の息子なのか?」ティヴァルは腕を組んだ。
「さあな。両親は、あまりいろいろ教えてくれないんだ」
完全な嘘というわけでもない。
両親はいろいろなことを教えてくれるが、隠していることもある。ここ数か月の妙な態度を考えると、あの家にはまだまだ秘密がありそうだった。
……今は考えないでおこう。
「それより、村を案内してくれないか?」
「俺たちに案内役をやれって?」ティヴァルは眉を上げた。「助けたと思ったら、今度は俺たちをこき使うつもりか?」
「そんなこと言ってないだろ」
少し大げさな反応だが、まったく的外れというわけでもない。
確かに俺には目的があった。
自分の住んでいる場所を知りたかったし、できれば同年代の知り合いも欲しかった。
聖人ぶる必要はない。
「誰かを雇いたいわけじゃないんだ。ただ、どこに向かえばいいのかも分からないまま、一人で歩き回るのは嫌なだけだよ」
「変な人」と、リヴィアが言った。
「よく言われるよ。はははっ」
「褒めてないからね」
「分かってるよ」
リヴィアは、初めて少しだけ笑いそうな顔をした。
一方、ティヴァルはまだ疑っているようだった。
「それで、どうして俺たちがお前と一緒に歩かなきゃならないんだ?」
「別に、無理にとは言わないさ。嫌なら一人で行くよ。本当に」
知り合ったばかりの相手に、そこまでして同行を頼み込むつもりはなかった。
しばらく沈黙が続いたあと、リヴィアが小さく一歩、村の方へ踏み出した。
「私はいいよ。広場なら案内できるし。こっちだよ」
「リヴィア……」ティヴァルはため息をついた。
「何? この人、私たちを助けてくれたじゃない」
「とんでもない悪人かもしれないだろ」
「聞こえてるぞ」と、俺は忠告した。
「聞こえるように言ったんだよ」
俺は彼を見て、思わず笑ってしまった。
大笑いしたわけじゃない。抑える間もなく、短い笑い声が漏れただけだ。
「何がおかしいんだ?」
「いや、何でもない。思ったことをはっきり言うんだな。そういうところ、嫌いじゃないよ」
ティヴァルは、何とも言えない表情で俺を見つめた。それから視線をそらし、リヴィアの後を追って歩き始めた。
俺も二人についていく。
俺たちは、まだ友達ではなかった。
二人は相変わらず俺を警戒していたし、俺も彼らのことをほとんど知らなかった。
道すがら、リヴィアは家々を指さしながら、広場の場所や、どの商人が安く果物を売っているのかを教えてくれた。
ティヴァルも時々説明を付け加えたが、その大半はリヴィアの説明を訂正するものだった。
どうやら、二人は俺が思っていた以上に村の事情に詳しいらしい。
それから、道行く人々が俺たちを妙な目で見ていることにも気づいた。
籠を持った女性が歩みを緩めた。家の前に座っていた男性は、俺たちが通り過ぎるまで、ずっとこちらを目で追っていた。
誰も何かを言うわけではなかったが、二人が置かれている状況は、俺が想像していた以上に深刻なのかもしれない。
俺は何も尋ねなかった。
先に知っておきたいことは、ほかにもあったからだ。
「二人は、いつも一緒に遊んでるのか?」
「うん。ずっと前からね」と、リヴィアは答えた。
ティヴァルは足元の小石を蹴った。
「こいつ、ほかに一緒に遊ぶ相手がいなかったんだ。俺もだけど」
まるで、何でもないことのように、感情を交えずに言った。
でも、俺にとってはそうではなかった。
一人ぼっちなのに、そんなことは気にしていないふりをする。
その感覚なら、よく知っていた。
「……そっか」
もしかしたら、俺は自分勝手な理由で二人に関わろうとしているのかもしれない。
村を知りたい。話し相手が欲しい。魔法の勉強と、怪しい行動ばかり取る両親の監視以外にも、何かすることが欲しい。
別に、それを大げさな道徳の問題にする必要はない。
今はただ、この機会を楽しみたかった。
「また今度、村のほかの場所も案内してくれないか?」
リヴィアは、ほんの少し微笑んだ。
「いいよ」
ティヴァルは嫌そうな顔をした。
「俺たちが広場を案内することにしたからって、友達になったつもりになるなよ」
「なってないよ」
「ならいい」
「でも、友達になるなら、ここから始めればいいだろ?」
彼は何も答えなかった。
ただ、それまでより少しだけ俺たちの近くを歩き続けた。
こうして、屋敷の門を出て初めての散歩で、俺は二人の人間と出会った。
いつか、自分にとって大切な存在になるかもしれない二人と。
この先、二人との関係がどうなっていくのか、俺にはまだ分からなかった。
そもそも、自分の家の中で何が起きているのかさえ、ろくに把握できていないのだから。
それでも、転生してから初めて、俺は自分の人生が本当の意味で動き始めたような気がした。




