↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再起転生 ~三十一歳で人生を終えた俺、剣と魔法の世界で今度こそ好きに生きる~  作者: ぬゑ
幼少期:家族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/15

第二話 新しい世話係


母さんが初めてこの手で火の玉を生み出すのを見てから、およそ二年が経った。


あのときの俺は興奮しすぎて、魔法を覚えたらどんなことができるだろうと、毎晩のように想像を膨らませていた。


空を飛び、雷を放ち、山を吹き飛ばす。もしかしたら、アニメに登場するような伝説の魔法使いにだってなれるかもしれない。


さて、そんな夢を抱いてから二年。


その成果がどうなったかというと――。


「うあっ!」


絨毯につまずき、尻もちをついた。


くそっ。


俺の名前はテオ・マルボルト。現在二歳。どうやら、まだまともに歩くことすらできないらしい。


なんとも情けない話だ。


とはいえ、多少は進歩している。今では這い回らなくても屋敷の中を歩けるようになった。たまに足が勝手に裏切ってくるが、それは仕方ない。


言葉もいくつか覚えたし、父さんや母さんを呼ぶことくらいはできる。


ああ、そうそう。ようやく二人の名前も分かった。


父さんはアーサー・マルボルト。母さんはミレル・マルボルトという。


どうやら、この辺りではマルボルト家という名前はそれなりに敬われているらしい。


使用人たちは父さんの姿を見ると必ず頭を下げるし、訪問客も妙にかしこまった態度で接している。


それにしても、訪問客といえば、最近の両親はずいぶん忙しそうだ。


始まりは、俺がようやくハイハイを覚えた頃だった。


アーサーとミレルは、長い時間屋敷を空けることが増えた。家にいるときも客を迎えたり、会議らしきものに参加したり、書斎の扉の向こうへ消えてしまったりする。


立派な服を着た男たちが出入りし、朝から馬車がやって来て、帰る頃にはすっかり日が暮れている。


一度など、武装した護衛を二人も連れた男が訪ねてきたことがあった。


……親父、いったい何の仕事をしてるんだ?


さっぱり分からん。


まあ、これだけ大きな屋敷を管理するのも簡単じゃないんだろう。何しろ、大勢の使用人に給料を払わなきゃならないんだからな。


その支払いを俺が担当しなくていいのなら、別に構わない。


問題は、そんな忙しい両親が、屋敷を探検し始めた俺を心配するようになったことだ。


どこかで怪我でもしたら大変だと思ったらしく、俺専属の世話係をつけることにしたのである。


こうして、俺の第二の人生における、なかなか興味深い時代が幕を開けた。


最初の世話係は、なかなかの美人だった。


しかも、俺にとって非常に喜ばしいことに、胸が実に豊かだった。


前世でファンタジーアニメを見ていた頃、こんなメイドがいてくれたら最高だろうなと想像していた、まさにそのものだった。


彼女は俺を抱き上げ、食事を与え、風呂に入れ、夜には寝かしつけてくれた。


なんて素晴らしい仕事なんだ!


いや、素晴らしいのは俺にとって、という意味だが。


ただ、俺には少々困った癖があった。


彼女の胸に手を伸ばしたり、眠っている彼女に顔を寄せて匂いを嗅いだりしていたのだ。自分の股間に手をやってしまうことさえあった。


たまに気づかれて、きつく叱られることもあった。


だが、俺の頭の中では、これは幼い子供だからこそ怪しまれずに許される特権のようなものだった。


そもそも、何が悪いというんだ?


ところが、彼女はどうやら同じ考えではなかったらしい。


ある夜、俺の手を恐ろしいものでも見るような顔で払いのけたことがある。


翌日、廊下から何やら言い争う声が聞こえ、その少し後に彼女の姿が見えなくなった。


「退職」という言葉が聞こえた気がする。


それきり、二度と戻ってこなかった。


おいおい、大げさだな!


この世界の礼儀作法についてはまだよく分からないが、どうやら赤ん坊にまで厳しいマナーが求められるらしい。


なんとも窮屈な社会だ。


それからも、屋敷のメイドたちが次々と俺の世話を担当することになった。


一人は五日。


別の一人は三日。


中には丸一週間も頑張った者がいた。


ついに俺の相手を務められる人材が現れたかと思ったのだが、彼女も結局いなくなってしまった。


正直、少しがっかりした。


子供には心の安定が必要なんじゃないのか?


こうも次々と人がいなくなって、いったい誰を信用しろというんだ。


ふん。


そのうち、俺はこの屋敷のメイドたちに何か問題があるんじゃないかと疑い始めた。


俺に非がないことは分かっている。


だったら、どうしてだ?


そんなある日、両親は屋敷で一番若いメイドに俺の世話を任せることにした。


彼女の名前は、エステル。


     ***


エステルは十五歳だった。


この世界では、どうやら十五歳から成人として扱われるらしい。


つまり、見た目はまだ若くても、すでに大人として働き、ほかの使用人と同じように責任ある仕事を任される年齢というわけだ。


とはいえ、初めて彼女を見たとき、俺は少々不安になった。


小柄で華奢な体つき。丁寧にまとめられた暗い色の髪。そして、小さな肩には少し大きすぎるように見えるメイド服。


いわゆる、プティットという言葉が似合いそうな少女だった。


おまけに、妙に癇に障る笑顔をしている。


どう説明すればいいんだろうな。


自分ならどんな問題でも解決できると、心の底から信じ込んでいるような笑顔だ。


もちろん、俺に関して起きているらしい問題も含めて。


「あなたがテオ坊ちゃんですね!」


エステルは俺の前にしゃがみ込み、両手を膝に揃えた。


「私はエステルと申します。今日から坊ちゃんのお世話をさせていただきますね。仲良くしましょう!」


俺は数秒ほど、彼女の顔をじっと観察した。


ふむ。


……がっかりだ。


これまで何人もの世話係が交代してきたんだから、そろそろ俺の好みに合った体つきの女性を連れてきてくれてもいいだろうに。


それなのに、現れたのは細っこい少女。


しかも、まるで職場で大出世でもしたかのような、やたら嬉しそうな顔をしている。


まったく気に入らん。


「テオ坊ちゃん?」


彼女が首を傾げた。


「聞こえていますか?」


「うん」


「あっ! もうお返事ができるんですね! なんて賢い子なんでしょう!」


当たり前だろう。


こちとら三十三年分の人生経験があるんだぞ、お嬢さん。


馬鹿にしないでもらいたい。


まあ、厳密に言えば前世の三十一年分の記憶と、この身体で過ごした二年間なんだが。


それを三十三年と数えていいのかは、俺にも分からない。


重要なのは、俺のほうが年上だということだ。


ずううっと年上なんだからな!


「ねえ、テオ坊ちゃん。大人の人たちを眺めているより、もっと楽しいことがあるんですよ。例えば……」


エステルはエプロンのポケットから、小さな木馬を取り出した。


「私と一緒に遊びませんか?」


俺は木馬を見た。


それからエステルを見た。


……本気か?


まさか、こんな木の馬を床で転がしていれば俺が喜ぶとでも思っているのか?


「やだ」


エステルの笑顔が引きつった。


「えっ? どうしてですか?」


「つまんない……」


彼女はその場に尻もちをついた。


あまりにも突然だったので、一瞬、本当に気絶したのかと思ったほどだ。


「つ、つまんない!?」


声が部屋中に響き渡る。


「ま、まだ会ったばかりじゃないですか!」


そこが問題なんだよ。


会ったばかりだというのに、さっそく木馬で遊ばせようとしてくる。


先が思いやられるな。


エステルは平たい胸元に手を当て、まるで致命傷でも負ったかのような顔をした。


「せっかく仲良くしようと思ったのに……」


ふん。


別に、本当につまらない女だと言っているわけじゃない。


俺が彼女をあまり気に入らない理由は二つある。


一つ目は、新しい世話係として期待していた外見とは、ずいぶん違っていたこと。


そして二つ目。


こっちのほうが、ずっと重要だ。


こいつは自信家なのだ。


それも、とんでもない自信家。


一緒に過ごし始めて数日もすれば、嫌というほど思い知らされた。


認めたくはないが、エステルはメイドとしてかなり有能だった。


部屋を片づけ、俺の服を整理し、食事の世話をし、いくつもの仕事を誰かに頼ることなくこなしてしまう。


頭の回転も、まあ悪くないらしい。


ずば抜けて優秀というほどではないがな。


本当の問題は、自分の能力についてやたらと語りたがるところだ。


「知っていますか、テオ坊ちゃん? 私、もう中級魔法が使えるんですよ!」


「ふーん」


「すごいと思いませんか? 普通はそこまで習得するのに何年もかかる人だっているんです!」


「ふーん」


「昔の先生にも、才能があるって褒められたんですよ!」


「ふーん」


「……坊ちゃん、聞いてます!?」


「うん」


「だったら、どうしてさっきからそれしか言わないんですか!」


お前の自伝なんかに興味がないからだよ、この女!


俺は自信過剰な奴が嫌いだ。


特に、自分がどれだけ優秀なのかを五分おきに周囲へ知らせないと気が済まないような連中は大嫌いだ。


少しは謙虚さというものを持てないのか?


例えば俺なんか、この世界の人間が聞いたら腰を抜かしそうな知識を持っている。


電気を知っているか?


コンピューターは?


人工知能はどうだ?


こっちは大学の卒業資格まで持っているし、プログラムだって書けるんだぞ!


それでも、わざわざ自慢したりしない。


……いや、待てよ。


少しくらい自慢してもいいんじゃないか?


     ***


エステルに世話をされるようになって数日が経ち、俺はこの屋敷の日常についても、ある程度理解できるようになった。


父さんはほとんど毎朝、使用人を一人か二人連れて出かけていく。


帰ってくる頃には書類や手紙を抱え、前世で電車に乗っていた会社員たちを思い出させるような、疲れ切った顔をしていた。


母さんにも仕事や用事はあるらしいが、父さんよりは屋敷にいる時間が長い。


暇を見つけると、よく俺の様子を見に来てくれる。


隣に座って、今日は何をしていたのかと尋ねてくることもあれば、抱き上げて、まだ俺にはよく理解できない話をしてくれることもあった。


ただ、一つだけはっきりしていることがある。


母さんは魔法を使える。


そして父さんは……。


うーむ。


今のところ、魔法らしいものを使っている姿を見たことがない。


魔力がないのか、それとも単に使う必要がないのか。


ひょっとすると魔法の適性がないのかもしれないし、魔法使いではなく戦士なのかもしれない。


あるいは、屋敷に恐ろしい敵が現れたときだけ、その隠された力を解放するつもりだったりしてな。


はははっ!


それなら最高じゃないか!


普段はどこにでもいる普通の男。


しかし、その正体は伝説の剣士!


いやあ、たまらんな!


残念ながら、今のところアーサーが見せた唯一の超人的な能力といえば、俺を頭の上まで軽々と持ち上げられることくらいだ。


伝説の英雄としては、少々物足りない。


まあ、引き続き観察しておこう。


一方、母さんの火の魔法は、もう何度も目撃している。


薪に火をつけるときなど、彼女は手をかざして何かを唱えるだけでいい。


たったそれだけだ。


小さな炎が現れ、まるで彼女の意思に従うように動く。


あれを見るたびに、俺も同じことをやってみたくて仕方なくなる。


だってそうだろう?


魔法が存在する世界にいるのに、どうして俺だけ歩いて、食べて、寝るだけの生活を続けなきゃならないんだ?


魔法を覚えたい!


火の玉を撃ちたい!


雷を生み出したい!


空を飛ぶ方法だって見つけたい!


せっかく第二の人生を手に入れたのに、木馬を床で転がすだけで幼少期を終えるなんて冗談じゃない。


そして、どれだけエステルが鬱陶しかろうと、無視できない事実が一つあった。


あいつも魔法を使えるのだ。


     ***


その日の午後、俺は部屋の絨毯に座り、エステルが掃除をしている様子を眺めていた。


周囲には玩具が散乱している。


木馬、小さな積み木、それに動物を模した木彫りの人形。


どこから持ってきたのかなんて聞かないでくれ。


たぶん、母さんが俺を喜ばせようと思って買ってくれたんだろう。


その気持ちはありがたい。


だが、せめて本か剣にしてくれないか?


できれば本物の剣がいい。


そんな幼少期の理不尽について考えていると、エステルの困ったような声が聞こえた。


「あっ、いけない……」


テーブルの上に置いてあった小さな水差しが倒れていた。


水が木製の天板に広がり、端から床へ滴り落ちそうになっている。


エステルは慌てて近くの物をどかした。


「うっかりしちゃいました……」


ふむ。


あれだけ自信満々な女が、自分の失敗を片づけるところでも見物してやろう。


いい勉強になるだろう。


ところが、エステルは布巾を取る代わりに、テーブルの上へ手をかざした。


「風よ、我がもとへ……」


次の瞬間、空気が動いた。


決して強い風ではない。


だが、カーテンをわずかに揺らし、テーブルに広がった水を、彼女が端に置いた布のほうへ押し流すには十分だった。


エステルは同じ動作を繰り返し、残った水も一か所に集めた。


そして濡れた布を回収すると、満足げに息を吐いた。


「はい、これでよし!」


……。


は?


待て待て待て。


こいつ、こんなどうでもいいことに魔法を使ったのか?


風魔法だと!?


俺は勢いよく立ち上がり、危うく転びそうになった。


「もっかい!」


エステルが振り向く。


「え?」


「もっかい!」


彼女は目を丸くした。


「あっ! 見てたんですか?」


当たり前だろ!


今、俺の部屋で風を操ったじゃないか!


これを見て、まだあの馬鹿みたいな木馬で遊んでいろとでも言うつもりか!?


「まほう!」


「そうですよ! 魔法です!」


エステルは満面の笑みを浮かべた。


くそっ。


またあの得意げな顔だ。


「すごいでしょう? この魔法は十歳の頃、修行中に覚えたんですよ。ちょっとした仕事に便利なんですけど、風の強さをうまく調整できない人もいるんです」


「もっかい!」


「ふふっ。ようやく私に興味を持ってくれたみたいですね」


持った、持った!


だから早く黙って見せてくれ!


エステルは布巾を置き、こちらへ近づいてきた。


「もう一度見たいですか?」


俺は何度も頷いた。


「みたい!」


「うーん……」


彼女は顎に指を当てた。


「でも、私のこと、つまらないって言いませんでした?」


……。


この野郎。


そういう手で来るか。


あのときのことを持ち出して、俺を脅すつもりか!?


「つまんなく、ない……」


「あら、そうなんですか?」


「うん」


「じゃあ、私はいい人ですか?」


……。


なんて理不尽な質問なんだ。


相手が欲しがっている能力を持っているからといって、自分の性格まで褒めさせようとするなんて!


これは脅迫だ!


それも、とびきり性格の悪い奴がやる脅迫だぞ!


「……いい」


自分の信念を曲げてまで、俺は魔法を見続ける道を選んだ。


エステルは勝ち誇ったように笑った。


「やっぱり! 坊ちゃん、私のことが好きなんですね!」


調子に乗るな。


俺が好きなのはお前の魔法だ。


そこには大きな違いがある。


エステルは立ち上がり、カーテンの近くまで歩いていくと、再び何かを唱えた。


柔らかな風が部屋を通り抜け、布を静かに揺らした。


俺は夢中になってその光景を眺めた。


隠された扇風機なんて、どこにもない。


本物の風だ!


魔法によって生み出された、本物の風!


「どうですか?」


「みた!」


「やってみますか?」


心臓が跳ねた。


ついに!


ついにこのときが来た!


二年間、ずっと待っていたんだぞ!


エステルは片手を伸ばした。


「まずは、こうやって……」


俺も同じ動作をした。


指を開き、意識を集中させ、先ほど聞いた言葉を再現しようとする。


「か……かぜ……」


何も起こらない。


眉をひそめた。


発音を間違えたのかもしれない。


もう一度だ。


「かぜ!」


……何も起こらない。


さらに腕を伸ばした。


「かぁぁぜぇぇ!」


口から一滴のよだれが飛び出した。


そのまま絨毯に落ちる。


……。


くそっ。


エステルが口元を押さえた。


肩が小刻みに震えている。


「ぷっ……」


笑うな。


「ぷっ……あははははっ!」


笑うなっつってんだろ!!


「か、可愛いっ! テオ坊ちゃん、魔法を使おうとしてるんですね!」


そうだよ!


まさにそれをやってるんだよ、この馬鹿女!


何がおかしいんだ!?


「もっと!」


「ま、待ってください! 坊ちゃんにはまだ早いですから!」


「もっと!」


「ただ言葉を叫べばいいってものじゃないんですよ。魔法はそんな簡単なものじゃありません」


だったら仕組みを説明しろ!


俺が技術的な説明を求めていることが、そんなに理解できないのか!?


エステルは再びしゃがみ込み、俺の手を取った。


「もう少し大きくなったら、ちゃんと教えてもらえますからね。今は見ているだけにしましょう?」


「やだ!」


「でも……」


「やる!」


彼女はため息をついた。


「本当に頑固なんですね、坊ちゃんは」


頑固?


俺が?


ふん。


頑固さと根気強さは違うんだよ。


凡人は困難にぶつかると諦める。


だが、非凡な人間は目標を達成するまで努力を続けるものだ。


これは俺が三十一年間の人生で学んだ教訓である。


まあ、よく考えてみれば、前世でそこまで多くの目標を達成したわけでもないが。


そんな細かいことは、今はどうでもいい。


エステルは俺の気を逸らそうと、例の木馬を差し出してきた。


当然、即座に拒否。


次は色のついた積み木。


これも拒否。


最後には、床に散らばった玩具を指さして言った。


「少しだけ一緒に遊びませんか? そのあとで、別の魔法を見せてあげますから」


……。


そのあと?


別の魔法?


俺は疑いの目を向けた。


「やくそく?」


エステルは少し驚いたようだった。


それから笑顔になった。


「約束です」


よろしい。


今回の勝負はお前の勝ちだ、メイドのエステル。


だが、約束を忘れたとは言わせないからな。


     ***


母さんが部屋にやって来た頃には、もう日が暮れかけていた。


年配のメイドを一人連れて入ってきたミレルは、玩具に囲まれて絨毯の上に座っているエステルを見つけた。


俺はというと、小さな積み木を重ねていた。


いや、正確には、積み木に夢中になっているふりをしていた。


ここには大きな違いがある。


「あら、楽しそうね!」


ミレルは微笑みながら近づいてきた。


「今日のテオは、いい子にしていた?」


「はい、奥様! とってもいい子でした!」


嘘つけ!


魔法を教えようとしないメイドに、一日中振り回されていたんだぞ!


「それに、風魔法を真似しようとしていたんですよ」と、エステルが誇らしげに付け加えた。「どうやら魔法が大好きみたいです」


母さんは小さく笑った。


「ああ、だから私が火をつけるたびに、あんなに喜んでいたのね」


そのとおり!


ようやく分かってくれる人が現れた!


ミレルは俺の前に膝をついた。


黒いメッシュの混じった白い髪が、肩の片側へさらりと流れる。


「テオ、魔法を覚えたいの?」


「うん!」


「まあ、気が早いこと」


母さんは俺の頭を優しく撫でた。


「でも、まだ一人で練習するには早すぎるわ。もう少し大きくなったら、一緒に考えましょうね」


……。


大きくなったら?


またそれか!?


この女たちはいったいどうなってるんだ!?


エステルに続いて、今度は実の母親まで!


この家には、幼い頃から才能を伸ばすことの重要性を理解している人間はいないのか!?


なんという才能の無駄遣いだ!


二歳から魔法を学び始めた子供なら、成人する頃にはほかの連中に圧倒的な差をつけられるはずだろう!


そういえば、最近知ったことだが、この世界では十五歳で成人になるらしい。


十五歳!


つまり、俺が一人前の大人になるまで、あと十三年しかないということだ!


十三年で、とんでもない魔法使いにならなきゃならない!


こんなところで時間を無駄にしている場合じゃない!


「かあしゃん……」


ミレルが首を傾げた。


「なあに、テオ?」


「まほう……」


母さんはしばらく俺を見つめていた。


そして、さっきとは少し違う笑みを浮かべた。


「本当に魔法が好きなのね」


俺は頷いた。


母さんは両腕を回して俺を抱き上げた。


「分かったわ。じゃあ、一つ見せてあげる」


……えっ!?


本当に!?


母さんは俺を抱えたまま、部屋の小さな暖炉へ向かった。


そこには何本かの薪がきれいに積まれている。


彼女は空いているほうの手を伸ばし、何かを唱えた。


指先の上に、小さな炎が生まれる。


眩しいほどの光が、俺の瞳に映り込んだ。


思わず息を呑む。


二年経った今でも、やっぱりすごい。


炎はしばらく宙に浮かんだあと、ふっと消えた。


「はい、おしまい。どうだった?」


「すき!」


ミレルは笑った。


「じゃあ、また今度見せてあげるわね」


また今度、か……。


まあ、少なくとも木馬を差し出してこなかっただけマシだな。


母さんは俺を少し強く抱きしめた。


「テオ、本当に大きくなったわね……」


その声が、少しだけ小さくなった。


「ついこの間まで、片手で抱えられるくらい小さかったのに」


ふむ。


確かに、ずいぶん成長した。


これからも成長する。


あと何年かすれば、背も高くなり、顔も整い、すごい魔法を使えるようになるに違いない。


できれば父さんの顔立ちを受け継ぎたいものだ。


あれは本当に素晴らしい。


アーサーはかなりの美男子だからな。


まあ、本人の前でそれを認める勇気は、今のところないんだが。


そんな将来の自分を想像していると、母さんが俺の額に口づけた。


「私の可愛いテオ……」


……。


なんとも感傷的な女だ。


息子の身長が数センチ伸びたくらいで、そこまで感動する必要があるのか?


それでも、文句は言わなかった。


抱きしめられていると、なかなか心地よかったからだ。


それに、どういうわけか、すぐに下ろしてほしいとも思わなかった。


しばらくそのままでいると、エステルが夕食の準備が整いそうだと知らせに来た。


母さんは俺を床に下ろし、もう一度頭を撫でてから部屋を出ていった。


俺はその背中を見送った。


そして、エステルに向き直る。


「まほう」


彼女が瞬きをした。


「え?」


「やくそく」


エステルは一瞬、黙り込んだ。


それから笑い始めた。


「あはははっ! まだそのことを考えていたんですか!?」


当たり前だろ!


忘れたとでも思ったのか!?


お前は約束したんだぞ!


エステルは目尻を拭った。


「分かりました、分かりました。明日、別の魔法を見せてあげます」


「あした?」


「はい、明日です」


俺は小指を彼女に向けて差し出した。


この世界でこの仕草にどんな意味があるのかは知らない。


だが、前世では約束を守らせるための、なかなか効果的な方法だった。


エステルは不思議そうに俺の指を見つめた。


「どうしたんですか?」


「やくそく」


「ああ……」


彼女は微笑み、俺の小さな手をそっと握った。


「約束ですね」


よし。


これで契約成立だ。


もし逃げようものなら、永遠に追いかけ回してやるからな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。