ハイパーブースト
休暇をとって2日が経過した。ネオファン本社の訓練場にて、影山は新しい靴の飛行テストをしている。
縦横無尽に室内を飛び回り、訓練用の人形へ向けて空中からベーシックマガジンで引き金を3回引く。
真っ直ぐに飛んだ金色の弾丸は、人形へ全弾命中した。
そしてここからは――新機能を試す。
「モードスイッチ――ハイパーブースト」
宣言と共に、靴がまとう黒い魔力がさらに大きく、濃くなる。
今までの2倍以上の速度が出て、戦闘機を連想させるかのような速さで空中を移動した。
だが、すぐにバテて地上へ着地する。
「はぁ、はぁ……基本モードを中心に、緊急事態はハイパーブーストを使う感じかな……」
「うん。ブレーキ機能はどう?」
「良い感じだと思う。前より効きが良いよ」
金色の狼での戦闘は、反省点があった。
1つは、エイムのズレだ。
遠距離で正確に“点”を撃ちぬくとなると、どうしても一時的な減速か、停止を必要とされる。
さらにその後の反撃をもらわないようにすることを考えると、加速機能もよりほしいところだ。
もう1つは、スタミナとMP問題による持久戦の脆さ。
靴の飛行は1秒につきMPを1消費する。
そしてベーシックマガジンによる射撃は、1発につきMPを2消費だ。
MPは立ち止まれば1秒につき1回復するが、それ以外での回復方法はアイテムやアクセサリーに絞られる。
この辺りの問題を解決するため、休暇を兼任して練習と調整に力を入れた。
12時まで話し合いと練習を重ねる。午後からは夕方まで休み、夜にトレーニングをこなすというのがここ最近の流れだ。
「今日はここまでにしようか」
影山が言うと、朝日はこくりと頷いた。
「うん。休暇、なにしてるの?」
「ダンジョン配信を見ているよ。家でゆっくりしてる」
「そ、そっか」
朝日は内心、少し複雑であった。
(デートに誘ってくれるわけじゃないんだよね……とほほ……わ、私から切り出さないと……でも、恥ずかしいよ~!)
悶える朝日。距離が縮まったように見えた2人だが、その関係性は異性同士として見るならば、まだまだ未発展であった。
まとまった休暇。しかも前回のデートで、次回の約束をしている。
だというのに影山は、自主トレーニングとダンジョン配信の視聴で時間を潰していた。
朝日も朝日で、陽キャっぽいのは雰囲気だけで、その内面、異性への耐性がなく自分から誘うことができない。
そんな感じの距離感である。
ちなみに影山は、デートの件を意識していないわけじゃない。
むしろ、かなり意識していた。
(朝日ちゃんをすぐに誘うのはおかしいかもしれないし……それに長期休暇のタイミングで誘うと、下心とか感じられてしまうかもしれない……でも、やんわりと約束した後に、期間が空きすぎるのも変だろうか……ううむ……誘うタイミングは、いつなのだろうか)
両者、考えすぎである。
「あとは、引っ越し作業もしないとな……」
「あ、部屋決まったの?」
「うん。まあ、同じタワマンの部屋を購入したから、ゲストルームから移動しただけだけどね」
色々考えて、ネオファン所有のタワマンが悪くなかったので、そのまま購入に踏み込んだ。
「へ~。階層は、どこなの?」
「下の方だよ。上は落ち着かないし……」
「ニキさんらしいね~。一番上いくかなとか、ちょっと思ったけど」
「いや、いいよ、俺はそういうの……」
控えめな影山は、下の階層の部屋を購入した。
しかしネオファンの営業担当取締役、橘は色々と手配して、コーディネーターによる家具のセレクトなど、なにやら豪華なオプションやサポートを打診していた。
休暇をとった時も「ここ最近の調子はどうですか?」とメッセージを送るなど、気にかけてくれている。
相変わらず、営業担当とは思えぬほど、所属の探索者への配慮とサポートを欠かせていない。
「それじゃあ、また明日ね。影山さん」
「うん。あんまり無理しないでね」
朝日は影山限定とはいえ、開発とサポート、配信でのオペレーション業を全て兼任している。
「うん! 大丈夫だよ!」
壁破壊ニキチャンネルは、色んな人間のサポートもあって、順調に進んでいた。
※おしらせ
音有 五角です。
D・イノベーションズという名前の会社が実在するらしいので、急遽”冒険イノベーションズ”という名前へ変更しました。
文字がかなり違うので大丈夫だとは思いますが、念のため。
よろしくお願いします。




