幕章「元イノファリオ、動きます。」
「1週間の休暇……?」
とある日の配信を終えた後、影山から告げられた言葉に、朝日は驚いた。
「最近、夢中になりすぎたし。気になることもあるから、たくさん休みをとろうと思って」
「な、なにかあったの?」
(まさか……私に不満がある!? もしそうだったらどうしよう!?)
朝日は信頼関係を築けてる、という手応えがある。
だが、所詮は人間同士のやることだ。
そもそも配信と探索は“仕事”であるのには変わりない。
なにか不満やストレスを感じるのは、仕方ないと言えるだろう。
それに心当たりがないわけじゃない。
朝日はドジっ子なので、プチやらかしはしているのだ。
「実は……」
「じ、実は……?」
「社畜時代、ほとんど休みとれなくてさ」
「うん」
「でも、今は自由に休みがとれる」
「そうだね」
「だから、たまにはいっぱい休もうかなって」
「あ、そうなんだ」
朝日はほっとした。
どうやら、社畜時代の反動で休みたいだけのようだ。
ダンジョンでは高密度に狩りをし、ストイックにトレーニングもする影山だが、プライベートも充実させたいようである。
そして――朝日は、ドキドキした。
(も、もしかして。ととと、泊まりでデートとか、そういうこと!? きゃー、だめだめっ、まだダメだよ、影山さんのエッチ! 結婚してないし、いやんいやんっ。でも新しい下着でも買いにいこうかな!?)
1人で盛り上がっている。
「ただ、頼みたいことがあるんだ」
「もう、温泉だなんて大胆――って、あれ? 頼みたいこと?」
「温泉?」
「な、なんでもない。え、なに?」
「休暇を兼任して、より透視スキルを使いこなすためのトレーニングと、靴の飛行機能を中心に道具の調整をしたい。細かいところで、色々意見や気になることがあってさ。朝日ちゃんに頼ってばかりだけど、いいかな」
「あ、う、うん! 調整! そうだよね! がんばろっ! えへへ!」
微妙にガッカリしつつ、朝日は明るい声を出した。
そして壁破壊ニキが1週間の休暇を発表すると、SNSを中心に大きな反響を生んだ。
『ごゆっくり!』
『今度は休止じゃなくて、純粋な休暇か』
『1週間か。長いな』
『寂しい』
『ニキ様、待ってるよ~><』
『金持ちだから自由やな』
『女孕ませたから、育休とったのかな』
『またトラブルだろ。社会不適合者多いネオファンだし』
『嫉妬してるやつ湧いて草』
『羨ましいのはわかるが、ニキの好きなようにさせてやれ』
『ニキは元社畜だから、嫉妬の気持ちもわかるんだろうなぁ』
『まあ実際、こんな休みをとれるリーマンはほぼいないし、羨ましい』
『社畜の気持ちもわかるニキは最高だぜ』
『実際、いっぱい休んだ方がいいしな。探索者は毎回命がけ』
『数字求めて配信しまくって、事故るヤツは毎年いるしな』
『いつでも待ってるぞ!』
★
「みなさんのおかげで、最高のスタートダッシュとなりました! サンキュー! というわけで、かんぱぁぁぁぁぁい!」
「「「「かんぱぁぁぁぁぁい!」」」」
イノファリオ元社員達は、主に若手を中心に10名集まった。現在はベンチャー企業「冒険イノベーションズ」と名乗っている。
初動が上手くいった彼らは、ちょっとお高めの居酒屋にて飲み会を開いていた。
影山の元同僚は、4つ年上の男性社長に酒を注ぐ。
「いやー、社長のアイデアは天才ですね。探索者協会を介さずに、探索者からの直卸でコスト削減するだなんて」
「ははははは、そうだろ。バカみたいな手数料をとる分、探索者と企業の両者に余計なコストが発生する。そこを省くことによって、両者に利益が出るってわけだ。最高のアイデアだろ?」
「我々からすれば安く買い取れるし、探索者にとっても儲けが出る。いやはや、脱帽です! 盲点でした!」
さらに安く買い取った素材で製品を、受注限定で販売している。
当然、他社の製品よりも安い値段での販売が実現していた。
管理・調査する機関や法がない状態での市場参加だ。
電化製品で例えるならば、経済産業省への許可を省き、販売しているようなものである。
そして社長は酒を持ち、従業員へ向けて言い放った。
「あの冴えないチー牛のせいで会社が潰れちまったが、この事業は絶対に成功する! ネオファンに勝つ! 俺達がトップだ! そしてあいつを見返してやろうぜー!」
同僚はにやりと笑った。
影山をチー牛と呼び、自己主張も少ないから、仕事の無茶ぶりなどをしてイジっていた過去を思い出す。
(へへへ、やっぱりあいつは負け組で、俺達みたいな1軍が成功者なんだ!)
従業員達は酒を手に、大いに盛り上がった。
「「「「えいえい、おー!!!!!」」」」
飲み会は深夜まで、長く続いた。




