幕章「株式会社イノファリオ、つぶれまーす」
この会社は終わった。
あらゆる状況がそれを指していた。
尋常ではない経費削減。賞与ギリギリまでのカット。果ては銀行の人間が社内を出入りしている。
倒産。
その二文字がチラつく。
そしてある日、案の定、会社の倒産を告げられた。
弁護士等が立ち会い、未払賃金立替払制度により最低限の生活は保障。
しかし影山の同僚の1人である若き男は、苛立っていた。
「くそ、くそ! ふざけんな、再就職が決まらねぇ!」
アパートの部屋に戻るなり、彼は地団駄を踏んだ。
株式会社イノファリオは騒動以来、悪評が広まった。
社内イジメが横行する会社。壁破壊二キをイジメた会社。パワハラじみた言動で契約を迫る。写真の流出。個人情報の流出。
一連の騒動は面白半分でネットに取り上げられ、拡散された。
有名なブラック企業ランキング入りを果たし、影響力のあるニュース系動画投稿者に取り上げられるなど、話題を呼んだ。
そしてそれによって――再就職に、影響が出た。
面接官はいつも、渋い表情を浮かべる。
「あー……。イノファリオにいたのね」
「色々問題あったとこだよね」
「そういえば君、流出した写真に写ってたね」
「んー。イノファリオねぇ」
面と向かってはなにも言われなかったが、度重なる“不採用通知”が代わりに告げている。
君もトラブルを起こす人間でしょ? と。
「くそ、くそ! 決めつけんな! この無能どもが!」
同僚は影山をイジメていた主犯の1人だ。
しかしイノファリオはあまりにも悪い意味で有名になりすぎて、関係者のほとんどは再就職が決まらない。
そしてこの同僚、どうもあまり反省していないようで、例のメッセージを送った張本人だったりする。
(そうだ! あのチー牛と仲良くなれば、ネオファンに入れるかも!)
そんな浅い考えであったが、当然、無視されている。同僚は地団駄を再び踏むことになった。
そうして同僚はなんとか飲食店のアルバイトに受かるも、現場の年下社員に怒られる日々が待つ。
大量の皿洗いを担当していたのだが、ペースが追いつかず、定期的に怒られる。
「ちょっと丁寧にやりすぎかな。もっとスピード上げていこう。それじゃあ間に合わないよ。それにやってほしいことは、他にもあるからね」
「……はい」
(クソ、クソ! 偉そうにしやがって! 死ね! 死ね!)
何度も、拳をふるってしまいそうになった。
しかし暴れたら終わりだ。刑務所行きである。そこまで落ちぶれるわけにはいかないので、傷つくプライドをぐっとこらえ、なんとか定時までやりすごす。
部屋に戻ってからスマホをいじると、ネットニュースが飛び込んだ。
ネオファン“壁破壊ニキ”フォロワー100万人突破。冒険者史上最速ペース!
「チーズ牛丼でも食ってろ! ちくしょう! なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよ! なにも悪いことしてねぇだろ!」
そんな時であった。
クビになった社員達が集まり――うさんくさい“会社”を起業していた。
その若き社長が、プライドズタズタの同僚へメッセージを送る。
――俺の会社で、働いてみないか? 最高のビジネス、思いついたんだよ。
若き社長はタトゥーが入っていて、イノファリオ時代から悪い噂が絶えない人物であった。
証拠こそないが、社内では有名な話である。
闇のある起業かもしれない。しかし同僚は藁にもすがる思いで、その誘いを受けた。
(絶対、成功するんだ! あのチー牛に出来たんだから、俺にもできるはずだ!)




