推しと初デート 3/3
「あ! あれ、可愛い~」
帰り道。ゲームセンターの窓から、偶然UFOキャッチャーの景品を見た朝日がそう言った。
気になるらしいので、2人で店内に入り、台を見る。
トラのぬいぐるみである。サイズは結構大きく、小型のワンコぐらいはありそうだ。
「ほしいの?」
「ほし~。トラちゃん可愛い~」
推しとの初デート。
自然体でいようと思ったが、やっぱり、良いところは見せたいと思った。
そしてそれは、今だと判断。
「獲ってあげるよ」
「え!?」
「UFOキャッチャー得意なんだ。昔ハマっていた」
その話自体は嘘じゃなかった。景品を獲るのが趣味だったのだ。
影山はさらに恰好つけて、100円玉を入れていく。
「い、いいの?」
「任せて」
そして――地獄が始まった。
★
クレーンはかこん、とぬいぐるみを掴まず上がっていく。
アームがクソザコすぎて、どう頑張っても上がりすらしない。
「か、影山さん、もう辞めた方が……」
「大丈夫。次こそいけるから」
ちゃりんちゃりん。
100円玉をさらに投入してしまう。
「あああ、ま、まずいって、影山さん。もう3000円も消費してるよ!」
「大丈夫。次こそいけるから」
「さ、さっきもそれ聞いたよ!?」
「大丈夫。次こそいけるから」
「BOTみたいになっているから!」
「金はある。探索者でいっぱい稼いだんだ」
「明らかに動揺してるよ! 影山さん、お金持ちを誇示するキャラじゃないのに、財力をアピールし始めている!?」
やがて6000円を消費した。
3本爪のクレーンゲームで、いわゆる“確率機”だ。
重要なのはテクニックではなく、運。
いくらかお金を導入すると、クレーンの設定が自動的に変換されてアームの力が強くなり、景品をゲットできるという仕組みだ。
いくらで獲れるのか……というのは、設定した人のさじ加減となる。
法律に触れるので獲れない、ということはないが、いくらかかるかはわからない。なので、クレーンゲームの熟練者は避けがちなタイプの台だ。
影山が、6100円となるプレイへ挑戦。
なんとしても、トラを朝日へプレゼントしたい。そう考えていた。
「あ!」
朝日が声を上げた。
三本爪のクレーンが、トラを掴み――上に上がったのだ。
影山がガッツポーズをとる。
「よし!」
が、その瞬間――朝日が、くしゃみをした。
「くしゅん!」
可愛らしい声だが、大きめなくしゃみで、頭を縦に振った。
おでこがごつん! とガラスに当たり、台が揺れる。
その震動により、クレーンがトラを離してしまった。
「「あ」」
2人の声が重なる。
トラは無常にも、ほとんど元の位置へと戻ってしまった。
朝日が涙目になる。
「あわわわ~! ごごごご、ごめんなさい!」
「いや……まあ、いいんだ。プレゼントできないのは、ガッカリだけど……」
(朝日ちゃんらしいなぁ……)
朝日がミスをしたり、ポンコツになるのは、配信者時代から知っていた。
そして一連の騒動を見ていた若い男の店員が、かなり頑張っていたので持ち帰ってください、と特別に中からトラを1つ取り出してくれた。
「あ、ありがとうございます!」
朝日がトラを受け取る。
店員は頭を軽く下げて、去っていった。
朝日はぎゅううう~~~~、とトラを抱きしめる。
「影山さん、ありがとう! がお~」
「助かります」
「助かります?」
(がお~助かるって話です)
ただのファンである。
「帰ろうか、朝日ちゃん」
「うん! トラちゃん、大事にするね~」
2人はタワマンまで、帰路を共にしたのであった。




