推しと初デート 1/3
「え、ええっと、変なところ、ないよね……」
影山と出かける当日のお昼。
朝日は部屋にある姿見に映る自分を、入念にチェックしていた。
白いフリルブラウスに、白のキャスケット。ピンク色のミニスカートに、黒のソックス。
可愛らしい顔立ちと良好なスタイルもあって、目を惹く美女となっていた。
「よし! じゃあ影山さんへ会いにいくからね! いってきます、影山さん!(?)」
朝日はそう言って、壁破壊ニキのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめたあと、それをベッドの上へ戻す。
玄関へ行き、タワマンのエレベーターを降りていった。
1階のラウンジへと行くと、先にソファで影山が座っている。
「影山さん! やっほ~」
「どうも」
影山は黒のトップスに、ブラウン色のズボンで、なぜか丸眼鏡をかけていた。
「あれ? 影山さんって、目悪いの?」
「いや。顔出ししてるし、変装と、あと目立たないようにって」
「あ~……そうなんだ! 似合っているよ!」
(目立たないは無理だと思うけどな~。と、というか、眼鏡姿かっこいい……!)
「朝日ちゃん、なぜに無言で俺を撮影した?」
「はっ!? ご、ごめんなさい! つい! そして保存させてください!」
「まあ、いいけど……?」
イケメン化してしまった影山がかける丸眼鏡は、オシャレアイテムとなっている。
★
朝日いきつけのカフェへと入った。
テナントの2階に設置されていて、1階はファーストフード店だ。
クラシック音楽をBGMとする落ち着いた雰囲気で、窓際の2人用テーブルへ案内された。
窓から見えるのは、駅前を行き交う人々。
エビピラフが美味しいというのでそれを注文。
若い女性の店員が厨房へと引っ込むが、明らかに影山をチラチラと見て、朝日を査定するように見た。
とりわけ視線を集めるのは影山で、朝日も釣り合う外見なので、美男美女カップルといった感じの印象になっている。
しかし影山は内心であたふたしていた。
(なにか変ではないだろうか……というか、会話しないと。でも、下手なことを言ったらまずいのだろうか。蛙化現象とかよく言うよな。うーん、でもどうしたらいいのかよくわからない。俺が喋ってもつまんないんじゃないだろうか)
頭の中でグルグルと考えが回ってしまう。
女の子とデートするのは初めてだ。
そして相手がいきなり、自分にとっての推しなのだから、動揺してしまうのも無理はない。
「影山さん、フォロワーがついに100万人突破してたね~。この間のホラーエリアが好評だったみたい! 勢い止まらないね!」
「え? ああ、そうだな……」
「視聴者さんにお礼言わないとね~。あ、この間趣味ないって言ってたけど、見つかった?」
「配信見ることかな……ハマってることは……」
この間見つけたVtuberのアーカイブを片っ端から漁っていた。
もうこの子の更新がないと思うと、心底がっかりもしている。
なぜ自分の推しは早くにして引退するのだろうかと、そんなことを思ってしまった。
そしてなにかを察したのか、朝日はむ~、と頬を膨らませる。
「また夜遅くまで見てるんだ……」
よくわからない圧力を感じて、影山は首を横に振る。
「そ、そんなことはない」
「ふ~~~~~ん」
ぷいっ、と朝日はそっぽを向く。
だけどすぐに、別の話題を口にした。
「あ、そういえば。ユーマさん、まだエクストラ・モンスターと出会えてないって。影山さん、見ている?」
「うん。もういなかったりしてね……」
「それはありえそう~。この間見たけど、全然でなくて、視聴者さんに“やっぱもってないな”“うーん、これは元キング”なんて言われてたよ」
「書かれてたね」
「でも、視聴者さんと距離近いのが、ユーマさんの良い所なのかもね~」
そんな会話をしている間に、エビピラフが運ばれる。
バターとスパイスの良い香りが食欲を刺激した。
「いただきます」
「私のオススメですっ」
ぱくりと食べると、パラパラしたライスの食感とエビのプリプリ、そして野菜の旨味が口の中で広がっていった。
お米にしっかりとコクのある風味が染みていて、スプーンを動かす手が止まらない。
「たしかに美味しいね。通いたくなる」
「でしょー!」
(今日も太陽のように眩しすぎる推しの笑顔……尊い……)
影山は今も、朝日に救われていた。
(良い恰好しようと思ったけど。色々考えすぎなのかも)
配信などで一緒にいる時間が多い仲だ。
いつも通りな感じでいようと思った。




