素手でスライム倒したら、視聴者が少し増えてきた
しばらくダンジョン内を移動すると、3匹目に遭遇した。
『素手は本来であれば無謀なので、無理しないでくださいね』
「……どうも」
視聴者のコメントに、短いながらもあいづちを打つ。
実際、素手は無謀だ。
格闘はガントレットと呼ばれる武器をつける。
そういう“縛り”でない限り、やる必要はない。
影山は跳ねるスライムへ向けて、駆けていった。
スライムが体を変形させ、勢いよくこちらへ体当たりしてくる。
「っ!」
よく動きを見ながら、そして先ほどよりも出来るだけスマートに動くよう、意識する。
そうしてスライムの早い体当たりを、1回、2回、3回と回避。
そしてすれ違いざま――ここでいけると思った影山は、“透視”を発動。
瞳が青く光り、両目がじんわりと熱くなる。
スライムの真ん中に、丸くて青白い点が浮かび出された。
(打撃だと、形が変わった!)
点は拳サイズでとても小さい。
けれど、なんとかそこへ当ててやると意気込み――影山は右腕でポイントめがけパンチを放つ。
いかにもケンカすらしたことのないような、大振りで無駄の多いパンチ。
しかしその右拳は運良く“透視”が教えてくれたポイントに当たる。
「っ、いたっ……!」
スライムは見た目よりもしっかりと硬く、拳がズキッと痛くなった。
手応えだけなら、あまり攻撃できた感覚はない。むしろこちらにダメージがある。しかしスライムはびくっ!!! と、全身をブルブル震わせた。
そしてそのまま地面へぐて~~~と伸びて、その体が光となって溶けていき――魔石となった。
「やった……!」
影山は思わず、喜ぶ。
今度は、スライムを一撃で倒すことができた。
コメント欄も湧く。いつの間にか、人が増えていた。
『おおおおっ!』
『え? 今この人、素手でスライム倒した?』
『しかもワンパンじゃね?』
『なんであんな素人丸出しのパンチが通用するんだ?』
『高レベルの人?』
『配信のタイトル初心者マークついているから、それはないはず』
配信初心者は、タイトルに自動で若葉マークがつく仕様だ。
『そもそも高レベルでわざわざスライム狩る必要ないだろ』
『固定コメ見たけど、どういうこと? 素手で力を発揮するスキルってこと?』
『だとしたら、どんな苦行スキルだよ。ガントレットすらつけちゃダメなのか?』
『てか、どんなスキルだとしても、攻撃力のない素手でワンパンは異常すぎる。駆け出しがスライムに時間かかるのは、あるあるだぞ』
アプリで接続数を見たら、8人になっていた。
まだまだ少ない方だが、影山は驚いている。
駆け出し無名探索者の、しかもしゃべりが上手いわけではない男1人の配信なのだ。
8人も集まるとは、思ってもいなかった。
(えっと。視聴者が増えた時って、たしかあいさつをするんだよな)
好きな「あさひチャンネル」を思い出しつつ、声を出した。
「初見さん、コメントありがとうございます……」(ボソボソ)
ものすごく小さな声であった。
『なんて?』
『声ちっさ(笑)』
『この人、コミュ障だろ(笑)』
『逆に好感持てるわ』
『しかしこの男、素手でスライムワンパンである』
『えっ、なにそれ。普通に気になるんだけど』
『まあ、配信に関しては強制ですし。珍しいですが、しゃべるのが嫌々な人もいるんでしょう』
配信に憧れて探索者になる者は多い。影山のように、放送でしゃべるのが好きじゃなさそうな男は、新鮮であったようだ。
影山は壁を背にして座り、状況整理がてらコメントを返そうと考えた。




