タトゥー・バジリスク(仮)
「ボスかな」
「そうだと思う。ぶ厚い扉の向こうに強い反応がある……Dランク相当。でも、この階層は地上より魔力濃度が高いから、トレントより強い可能性があるよ」
影山は前回のトレント戦を思い返す。
あの時は、ただ必死だった。
ステータスが足りず、力負けし、床破壊という偶然に救われた。
あれを勝利と呼んでいいのか。
胸の奥に、わずかな悔しさが残っている。
「あとね、扉の手前を曲がったところにもフロアがある」
「そこには?」
「床にスイッチ。高密度の魔力が一点に集まってる。反応パターンからして……Dランクモンスターを一体ずつ生成する罠だと思う」
『押したら敵が出るやつ』
『危険度高いな』
『これは撤退かな』
『でも、ここまで来て帰るのは惜しい』
影山は短く息を吸い、決断した。
「罠フロアに行こう。Dランクなら戦える」
「気をつけてね。地上の個体より強いはずだから」
「うん」
『マジで行くのか』
『考えているニキ様の横顔、素敵♥』
『正面も好きっ』
『解析できるの便利やなぁ』
『未開エリアだと、かなり助かるね』
通路を進むと、朝日の言った通り、巨大な石壁が静かに佇んでいた。
右へ折れ、薄暗い通路を抜けると、丸いフロアが広がる。
どことなく、空気が重く感じた。
「……お」
がこん、と右足の下が沈んだ。
直後、フロア奥に赤い魔法陣が浮かび上がる。
魔力が弾け、その姿が現れた。
「シャアアアァァ!」
体長2メートルほどの、爬虫類系モンスター……バジリスクであった。足が6本ある、トカゲに似た外見である。
皮膚の色は灰色だ。
特徴的なのは、背中にタトゥーのような、青い模様が刻まれているところ。
バジリスクは6本の足を力強く踏み込み――前へ飛び出た。
そして距離を素早くつめると、バジリスクの口から紫色の毒性の液体が吐き出される。
「また毒か」
影山は後方へ跳び、ギリギリで回避。
ドロリとした液体が床に落ち――ジュウウウウゥッ!!
白い霧が立ち上がり、石床が削れる。
『こっわ』
『毒の色がヤバい』
バジリスクが肉薄する。
影山は一回、また二回と最小限の動きで回避。
大振りになった瞬間――前へと踏み込む。
「透視スキル、起動」
瞳が青く光る。
バジリスクのアゴの下――首筋に“線”と“点”が見えた。
大ダメージ付与。
影山はウォールブレイカーを素早く一閃し、その“線”を斬った。
「シャッ!?」
斬撃が走り、バジリスクの体が跳ね上がる。
次の瞬間、崩れ落ちて、魔石へと変わっていった。
『お見事』
『動きが洗練されてる』
『達人や』
『戦っている姿、素敵すぎて濡れちゃいます♥』
『下ネタやめれ』
『にしても、見たことない見た目のバジリスク』
『未発見モンスターっぽいな』
「データベースと照合しましたが、該当なし。未発見モンスターです」
影山は魔石を回収したあと、キョロキョロと辺りを見渡しながら、落ち着きなく歩きまわる。
『ニキ、どうした』
『無言で歩き回るの草』
『ニキ様?』
「あった」
がこん。
ためらいなく、スイッチを踏む。
バジリスクが一体出現。
さらに影山は――もう一度、スイッチを踏んだ。
「「シャアアアアアア!!!」」
2体同時出現。
『は!?!?!?』
『なんで押した!?』
『2体はアカンて!!』
影山はウォールブレイカーを構え、静かに言った。
「押せばモンスターが出る。好きなだけ戦える。……ここは、ボーナスフロアだ」
その声音には、恐れよりも――成長を求める意志が宿っていた。




