床破壊を再び試みる
影山はウォーミングアップがてら、道中のワイルドボアを狩りながら、進んでいった。
1週間ぶりのダンジョンだというのに、体が軽い。
そしてワイルドボアとの戦闘に慣れているせいか、“線”を斬りぬくのがスムーズであった。
4体に襲われた時も、問題なく透視スキルによって敵を倒していく。
スキルで倒し損ねた敵も、ギリギリまで引き寄せて、ショットガンマガジンで撃ち抜いていった。
短時間でワイルドボアを倒していく爽快な映像に、コメントがいつも以上に流れていく。
その速度は人が増えていったのを実感させるものであった。
『これよ、これ!』
『相変わらずの別ゲーっぷりである』
『二キ様、素敵♥』
『まーた動き良くなっているなぁ……』
『1週間特訓しただけある』
「どうも……ん?」
ワイルドボアを2時間ほど狩っていると、システムがレベルアップを告げた。
『――影山 光のLVが10へ上昇しました。HP+17 MP+8 攻撃+9 防御+10 魔力+9 精神+10 俊敏+14』
影山 光 LV9→10
HP 87→104
MP 35→43
攻撃 25→34
防御 32→42
魔力 26→35
精神 30→40
俊敏 74→88
『上昇値が高い!』
『最初は2とか3だったもんなぁ……』
『隠し通路には行くの?』
「あぁ、はい。実は、ポイントに向かいながら狩りしてました」
スマホを取り出し、しばらく移動すると朝日がポイント到着を告げた。
「二キさん、ポイントへ到着です」
「うん……」
ウォールブレイカーを構える。
この辺りでトレントとギリギリの戦いをし、そして隠された毒沼がここにあった。
中は調べていないので、通路があるかどうかはわからない。
ただの毒沼で終わりの可能性もある。
「透視スキル――起動」
ベーシックマガジンを撃ち込む。
直後、地鳴りと爆音が響き、床が大きく崩落した。
『きた』
『当たり前のようにダンジョン破壊する男』
『トレントくんの墓場』
崩れた穴の底には、毒沼が広がっていた。
朝日がドローンを操作し、慎重に下降させる。
「私が降りるから、なにかないか見てくるね」
「気をつけて」
「うん。映像、メインに出しますね」
朝日が配信用に、もう1台のドローンの映像を大きくした。
サブの方は、普段右下に小さく映し出されているのだ。
ドローンが静かに降りていく。
土には赤黒い、血管のような線が根のように張り巡らされている。
「魔力濃度は上昇してるけど……ギリギリ、Dランクの範囲内です」
『こうして見ると、やっぱダンジョンの土って地上のとは違うんだな』
『この赤い線はなんだろ』
『ダンジョンの血だよ。オドって言われている』
『ダンジョン専用の魔力みたいなものかな』
『へえ』
『知らんかった』
「勉強になります」
『二キ、そういや社畜上がりの新人だったなぁ……』
その時だった。
土壁の奥で、赤い脈動がひときわ強く跳ねた。
次の瞬間――ぬるり。
赤黒い触手が、肉を裂くような音とともに這い出してきた。
一本。
だが、その一本が“生物”ではなく、ダンジョンの神経そのものであるような、異様さがあった。
触手の先端が開く。
内部の器官が露出し、赤い光が輝いた。
――バチンッ!!
空気が弾け、赤い針が射出。
ドローンのレンズに赤い残光が走ったかと思うと、背後の岩壁が爆ぜるようにえぐれた。
「っ……!」
朝日の反射的な操作しにより、ドローンは紙一重で回避。
針が通過した空間に、白い毒霧がふわりと漂う。
遅れて、岩壁の一部がジュウウ……と音を立てて溶け始めた。
『岩が溶けてないか!?』
『こっわ』
『殺意高すぎる』
『さらにトラップつきかよ』
影山は映像を見つめながら、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
一本の触手。
侵入者を排除するための生体兵器であることは明らかだ。
朝日が震える声で言う。
「二キさん、あれ、本気で危ないです」
影山はゆっくりと立ち上がる。
たしかに、威力が高いので怖い。
だが、それ以上に――胸の奥で静かに燃えるものがあった。
この通路は影山にしか切り開けぬもので、故にこのトラップも彼だけが発見したもの。
「だからこそ、進む価値がある」
視線はまっすぐ、崩れた床の奥へ。
この一週間で準備してもらった新装備のお披露目だと、考えた。




