初のコメントがつく
スライムが消えた後には、ドロップアイテムとして掌サイズの丸い魔石が現れる。残念ながらスライムの魔石は1個100円しか値がつかないのだが、銭でも拾っていきたいところ。スキルでしっかりと回収しつつ、ふう、と息を吐いてその場に座り込んだ。
「疲れた……」
心臓はまだドクドクと高鳴り、呼吸は乱れている。
恐怖と楽しさと疲労が入り混じった興奮状態だ。
正直なところ。スライムは初心者向けモンスターだと、甘くみていた。
しかしきちんと気を引き締めないと、十分に危険な相手である。
(でもやってみると、案外、面白いもんだ)
戦いへ意識を集中させ、生を実感するのは気持ち良い。
社畜時代では感じられなかったことだ。
脳から分泌されるアドレナリンがたまらない。
全身へ気持ち良く、水のように染み渡っていた。
『初見です。はじめまして。見たところ初心者さんなのに、たった2回の斬撃でスライムを撃破。すごいです、初期ステの攻撃力が高いんですか?』
スピーカーを内蔵したドローンが、コメントを無機質な音声で読み上げた。
文面から察するに、AIではなく人間の視聴者のようだ。
収納スキルでアイテムボックスに入れた携帯を取り出す。
アプリを確認。接続数は“2”となっていた。
増えている。信じられない。影山は驚いた。
「攻撃力は1です」
すぐさま『え?』と返ってきた。
『かなり低い攻撃力なのに、短時間でスライムを撃破したということですか!?』
「……そう、なりますね」
あれは短時間だったのだろうかと、影山は疑問であった。
本人としては、しっかり手間がかかった気分だ。
『私の初心者時代の話いいですか』
「……どうぞ」
『3人でスライム狩ってました。あいつらって初心者向けなのに、耐久が高いです。何回も、何回も殴らないと、倒せなかった。攻撃力1のソロなら、もっと時間と手間がかかるはずですよ!』
「そうなんですか」
『しかもスライムって、HPが低くなると逃げ出すんですよ。油断すると全てが無駄になるので、苦労しました。それをソロであっさりはありえない。強力なスキルでもあるんですか?』
(この人、コメント打つの早いなぁ)
タイピングが普通ぐらいの影山は、そんなことをぼんやり思った。
「スキルを使ったら、刃が入りましたね」
『なるほど。なんのスキルですか?』
「透視っていう、ユニークスキルです。敵の脆い部分が見えます」
しばらくの間、コメントが無言で静まる。
『モンスターによっては弱い部位とか、弱点はあります。ですが、脆い部分なんて初めて聞きましたし、少なくともスライムにはなにもないはず』
「え。でも、そういうスキルなので……」
『信じがたい。でも、スライムを早く倒したのは事実ですもんね。フォローします。この強さのカラクリが気になります』
どうやら“脆い部分”なんてものは、本来の戦いには存在しないようだ。
しかしなんとなく、事前情報でそんな気はしていた。
協会のアプリでモンスターのデータを見ることができる。一部モンスターに欠点の部位はあっても、“脆い部分”という記載はどこにもなかったのだ。
(本来は存在しないものが見え、なおかつ効果がある。あの“線”はスキルが作り出した、弱点付与ということか?)
そして影山の攻撃力は最弱の1。でも、線に当てれば耐久力の高いスライムを短時間で倒せた。
ステータスの低さをカバーできるのだ。
期待できるスキルなのかもしれない。
(探索者、面白いかも。少なくとも、前の仕事よりはワクワクする)
まだ始めたばかりなので、断言はできない。だが、初戦闘の興奮と、透視スキルへの大きな期待が今後のモチベーションにつながっていった。
「勉強になります……」
『いえいえ。配信、見させてもらいます。ちなみに、録画って大丈夫でしょうか?』
「えっと、ご自由に」
(なぜ録画……? 男1人の地味な絵面なのに)
影山は疑問であったが、ナイフをにぎり、よいしょと立ち上がる。
スライムを狩るべく、移動開始だ。




