スライム
スライムは目と鼻がないので、どこが前面かわからないが、影山の存在に気づく。
大きく弾みながら、素早く距離を詰めていった。
「っ! さっきより、速い」
ウロウロしていた時とは違う、良い動きであった。影山はナイフを右手で持ち、戦闘態勢へ。だが、ステータス補正があるといえど、所詮は戦闘の素人なので、明らかに隙のある構えであった。スライムは勢いよく弾み、影山の胸を突き飛ばす。
「っ、あぁっ!?」
ギシっ、と骨がきしむほどの衝撃。まるでガタイの良い男にタックルされたかのようだ。
ふわり、と。体の浮遊感と共に、硬い地面へ背中から落ちていく。
背面に強烈な衝撃が走り、地面の上を転がる。
背中をタイヤにするかのごとく、後ろへ二回転もした。そのたびに視界が弾け、白く揺れる。
勢いが止まると、すぐ後ろにある硬い岩が視界に入る。
ゾッとした。あの転がった勢いで、もしも後頭部を岩にゴツンとぶつけていたら……。
ステータス補正によって体が頑丈になっているとはいえ、生き物としての本能が恐怖を与えた。
しかも彼はまだ、低レベル。まだ並の感覚で十分だ。
そして、ボーッとしている暇はない。
怖さで手が震える。それを止めるように、ナイフを握りしめ立ち上がった。
再び迫りくるスライム。だが、右へ勢いよく飛び出して、回避した。
「うああああああ!」
久々に大きな声が出る。
攻撃を外したスライムは、岩へ勢いよくぶつかった。そういうのもきちんと痛みを感じるのか、スライムはその場でポヨンポヨンして、悶えている。
「っ!? これは、チャンスか……?」
勇気をふり絞る。
影山は足を前へ運び、ナイフを振り下ろした。
ややへっぴり腰な上、素人の動きだがステータス補正もあり、十分に力強い一振り。
ナイフの刃はスライムの体をそぎ落とした。青い液体が血のように、辺りへびちゃりと飛び散った。
「当たった……!」
初の攻撃に嬉しくなるが、戦闘は終わらない。
スライムが再び弾んで飛び出してくる。
もうあんなのに当たって転がりたくないと思った影山は、右へ飛んで攻撃をギリギリに回避。
「よし、大丈夫だ。体が軽い」
ナイフを構えて、スライムと相対する。
互いはにらみ合いながら、ジリジリと動いた。
張り詰める空気。不思議な感覚だ。
タックルを食らった時は痛くて、本気で怖かった。
こんなに危ないのに、軽い座学だけで終わらせた協会は適当だとも思った。
だけど今、気分がとても良い。
楽しいのだ。
敵と立ち向かう危険な状況が、生きているという高揚感になった。
「……きた!」
先に動いたのは、スライムだ。
体を変形させ、勢いよく飛び出す。
瞬時に短く、右へズレて攻撃を回避。
その動作は上手かったが、右足が運悪く小石にひっかかり、バランスを崩した。
しかしなんとか踏みとどまり、スキル“透視”を発動。
強化される視界。スライムのてっぺんに、青白い”線”が現れた。
「そこだ!」
ナイフを”線”めがけて、思いっきり振り下ろす。
刃が見事に当たった瞬間――ずるんっ! とバターのごとく、スライムが縦へ切れた。
びちゃっ! びちゃ! という音を立てながら、スライムが地面へ落ちる。
その液体は青い光となって、どこかへ消えていった。
影山は肩で息をしながら、その様子を眺める。
これが彼の初戦闘にして、初の勝利であった。




