フォロワー1万人を突破する
次の日。影山はシクシクと、枕を涙でぬらした。
「ううっ……嘘だ……信じない……」
突然の推し引退は、この世の終わりのごとく重くのしかかった。
しかも最後の配信に参加できなかった。
さらにアーカイブを見る限り、本当に引退をするようだ。
『――探索者との両立が難しくなっちゃったんだ~。本業の方でね、やりたいことができたの。実は私ね、アイテムや装備品の開発に携わってるんだ。だからこれからは探索者をサポートしたり、支える仕事を頑張るの!』
前々から本業がある、というのは聞いていた。
「寂しすぎる……。まさかこんな突然、辞めるだなんて」
会社員時代の支えが、思わぬ形で消えてしまった。
ドジなところも可愛い、とても良い女の子だった。
辛い時期は、彼女が希望だった。
アーカイブにお礼のコメントは書いておいたが、リアルタイムで届けたかった。
それくらいに感謝の気持ちがある。
「……今は、俺が配信者か」
しかしふて寝をしても、明日は来る。
推しとの別れも、いつかは起きるものだ。
そしてそれは仕方のないことである。
昼。ベットから降り、スーパーで買った唐揚げ弁当と冷凍ブルーベリーを食べつつ、配信アプリを確かめた。
フォロワー10080。
涙を流している間に、10000人を突破したようだ。
「明日から頑張るか……こんな俺でも、誰かの励みになっているかも」
そして改めて探索者スレなどを見ると、DQNを成敗した映像やら、色んな書き込みを発見する。
自分がバズっているという事実を、少しずつ実感し始めた。
☆
配信6回目。
昨日の休みを経て、今日から活動再開だ。
『待ってた』
『休みの時は告知してほしい』
『それは壁破壊二キの自由じゃね』
『好きにしてええんやで』
「昨日は推しの引退に涙していたので、休みました」
『草』
『それは悲しい出来事だったね……』
『推しいるのね』
「まあ、同じ探索者で」
『お?』
『そうだったのか』
『誰?』
「それは……本人に迷惑がかかったら嫌なので、伏せておきます」
今日のスタートは、接続数7510。
自分の発言に影響力が出てしまうという自覚は、持とうとした。
『気になるなぁ』
『壁破壊二キが認めた探索者とはいかに』
『まあ、引退や休止はよくある話だから』
『元気だして』
『桃猫 桜だったりして』
『オ〇パコで炎上した女じゃん』
『他の配信者の名前出すのはやめよう』
微妙にコメント欄が荒れはじめたので、影山は先へ進むことにした。
接続数が増えると、影響力が増えたり、荒れたりすることもあるのだろう。
気をつけようと思った。
「あと、フォロワー10000人突破ありがとうございます」
『おめ!』
『おー』
『次は接続数10000突破ですね!』
『まあ、すぐ達成するだろうね』
『さすがです!』
突破記念ということで、またしてもスーパーチャットが打たれていく。
あっという間に4000円分が投げ込まれて、歩きながら軽く頭を下げた。
「ありがとうございます……というか、いいんですか」
『もちろん』
『少なくてごめんな』
「いや、多いと思いますけど……」
会社員時代からすれば、人から金を投げ込まれるなんて、考えられないことであった。
しかもフォロワー10000で投げられるのだから、接続数も同じ現象が起きるのではないだろうか。
「今日はボスフロアの近くまで行きます。このEランクダンジョン踏破へ向けて、動き出そうと思います」




