その陰キャ、職員を守りヒーローになる
3体のブラックドックとの対峙は、戦いの練習として良い刺激となった。
戦いの視野を広げ、多くの思考を重ね、1体1体処理をしていく。
3体に襲われるのはやはり脅威だが、力まず、冷静に立ち振るまえばそこまで苦戦しなかった。
ガンブレードでの、透視スキルの精度は斬撃ならば7、8割程度の確率で当てられる。
毎回急所とまではいかないが、その場合は柔軟に他の部位を狙ったりしていた。
射撃に関してはまだ自信がないので、集団戦では使用頻度は少ない。
透視スキルではなく、牽制や間合いをとられた時に撃っている程度だ。
だが、全体としては非常に調子が良い。
『サクサク敵倒せるな……』
『魔物は硬いから、もうちょっとグダるはずなんだけどね……』
『普通は前衛がひきつけて、後衛が魔法ぶち込むからね』
『やっぱり面白い!』
『爽快感あるなぁ』
『敵がモブキャラのようだ……』
「ふう。なんか、目が疲れます……」
『大丈夫?』
『まあ、戦い方的にそうなっちゃうだろうね』
透視スキルの影響なのか、“線”と“点”を注視するからか……原因ははっきりとわからないが、目がものすごく疲れた。デスクワークの後のようだ。
夕方の5時を迎え、影山はダンジョンの出口へと向かった。
そして配信アプリを切ろうと携帯を取り出す。
「今日はここまでにします」
『おつ』
『またね』
『次回も楽しみにしてます!』
最終的に、接続数は4230となっていた。
回を重ねるごとに増えている。
(うーん。不思議だ……)
影山の好きなあさひチャンネルは同接30、40ぐらいだ。
完全に過疎配信である。
彼にとっては、この差が不思議でしょうがない。
☆
「はああああっ!? なんであーしらが免許停止なわけ?」
受付でトラブルが発生し、揉めている。
誰かと思えばあの時の、迷惑系配信者4人組であった。さすがにトランクス男は、服を着ている。
対応しているのは影山も会ったことがある、あの髭のイケオジだ。
「以前にも迷惑行為に対して、警告をしました。それにも関わず、また迷惑行為をし、さらには他の探索者を危険な目にあわせた」
「あーしらは配信邪魔されたんだけど! 獲物の横取りされたのはこっち!」
「いいえ。映像の解析から、あなた達のパーティーの迷惑行為と判断しました。納得がいかないようでしたら、裁判で争いますか?」
「……」
裁判という言葉に、怯んだかに見えた。
しかし実際は、そうではない。
ギャルは腕を組み、後ろの3人組へ目くばせ。
瞬間、3人組の男達はアイテムボックスから――剣、槍、ガントレットと各々の武器を取り出し、それを机へ向けて振り下ろした。
ずどおおおおおんっ!!! という音と共に、受付の机が歪む。
辺りに戦慄が走った。
「きゃああああ!」
「な、なんだ!?」
「探索者が暴れだしたぞ!」
職員達は慌てふためき、パニック状態へ。
危険な状況。イケオジも腰を抜かし、尻もちをついた。
職員達は一応ステータス持ちだが、基本的にはダンジョンへ潜ったことがない者達で構成されている。
よって、武器も持っていない。
戦闘経験もほぼゼロだ。
「ひゃっはー!」
「オラオラぁ、調子に乗ってんじゃねーぞ! こっちのバックには〇〇組がいんだよ!」
「わからせてやるぜぇ!」
「パクられるぐらいでビビるタマじゃねーんだよ!」
「まずはテメーからだ、オッサン! 歩けねぇ体にしてやるぜ!」
男達が下品に中指を立てながら、受付の中へ乗り込もうとする。
(短絡的すぎるだろ……)
DQNの罪はどんどん重くなっていく。
もう人生は詰んだだろう。
しかし興奮のあまり、人を殺しかねない勢い。
ケガ人――否。最悪は、死者が出てしまう。
(職員達を守らないと!)
葛藤もなしに、影山はすぐに動いた。
走りつつ、透視スキルを起動。青く光った瞳で、3人の“点”を見た。
大ダメージ付与は避ける。殺さず、生け捕りが理想だ。
【後頭部】 全身をコントロールする司令塔。スタン付与。
(よし。無力化できる、これを狙おう)
運が良いことに、影山との位置関係的にも、彼らはちょうど背中を向けている。
高い俊敏を活かし、3人へ近づく。正確な動きで、1人ずつ後頭部へチョップした。
力はそんなに入っていない攻撃。
だが、その効果は絶大であった。
「がはっ!?」
「ぐふっ!?」
どすん、と直接脳を掴み、揺さぶられるような衝撃。
3人共、その場でがっくりと膝を崩した。
両手の感覚も薄くなり、金属音を立てながら武器を床へ落とす。
一瞬にして、戦闘不能だ。
「てんめっ、あの時の陰キャ……!」
「俺達になにしやがった! う、うごけねぇ」
「なにが起きているんだよ、これ!?」
ギャルがポカンと口をあける。あまりに早い展開に、ついていけていない。
影山がじっと睨む。するとようやく危機を察知し、両手を上げた。
本当は小心者なのか、それとも仲間がいないとなんにも出来ないタイプなのか、その体はカタカタと震えている。
「ヤバ……こ、こーさん、します」
「少しでも動いたら、彼らと同じことをします。一歩も動かないでください」
「は、はい。す、すいません」
ギャルは涙声だ。そして実際にしくしくと、涙を流し始める。
「で、でも、あーし、武器出してないから。こ、ここまでするつもりは、あーしはなかったし。ご、ごめんなさい」
(泣けば許してもらえると思ってそうだな……)
実際、そうなのだろう。見た目は可愛らしいのだから。
影山は無視して、職員へ向き直る。
「彼らはしばらく動けないので、安心してください……」(ボソボソ)
小さな声。だが、関係ない。職員には影山がヒーローに見えた。
なにせ一瞬にして、騒動を鎮圧させたのだ。
おお、やった、ありがとう、と様々な歓声が上がる。
影山は、腰が抜けたイケオジに手を伸ばした。
イケオジはその手を取り、震える足で立ち上がる。
「助かりました。本当に、助かりました」
「いえ」
(なんとかなってよかった……)
影山はふう、とため息をついた。
職員達も「ありがとうございます!」と改めて礼を言ってくれる。
すごい量の感謝だ。胸が大きく高鳴る。
(お、俺がみんなを助けたんだよな……危険なのに。こんな思い切ったこと、出来るようになったのか)
自分でも驚きの行動だ。
そしてイケオジは怒った様子で、動けなくなった男3人と、降参するギャルを睨む。
「君達は警察へ突き出す! 業界に二度と戻れると思うな!」
その怒声に、四人は何も言えず、ただ頭を垂れた。
業界というか、二度と社会へ戻ってほしくない人種だ。
☆
探索者速報掲示板
50 名前:名無しさん
【速報】壁破壊二キ、暴れたDQNを素手で無力化【お手柄】
こいつ強すぎるだろ。本当にレベル3で、ステータス平均以下か?
〇〇〇.WP7
51:名無しさん
これ支部の監視カメラ映像じゃね? なんで流出してんの?
52:名無しさん
職員のリークだろ
53:名無しさん
DQNざまぁ。刑務所行ってこい
54:名無しさん
武器を出してなかったからとはいえ、ギャル逃れてんの腹立つ
絶対この女、捕まってから「あたしは止めようとした」とか言うだろ
55:名無しさん
>>54
めっちゃ泣きながら言ってそう。想像つく。
56:名無しさん
>>54
カメラに対して背を向けているから推測だけど、手上げている時、泣いていると思う。
57:名無しさん
女だから泣けば許してもらえる、って思ってそう
58:名無しさん
>>57
こいつら他にも迷惑行為しているから、ギャルはそっち方面で詰めていこう
配信だとこいつ主導なんだよね
59:名無しさん
許せない。協会は全力でこいつらを訴えていこう
60:名無しさん
デバフ付与できるようになったから、無力化も余裕
61:名無しさん
お見事。ファンになったわ
62:名無しさん
壁破壊ニキ、ヒーローすぎる
63:名無しさん
職員めっちゃ感謝してるだろうな
64:名無しさん
次の配信も楽しみ
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