ドクハリネズミ
「ニキさん。ここを右へ曲がった先に、モンスターの反応が3つあるよ」
「了解」
影山の返事の後に、ユーマが己の右拳で左手をパン、と鳴らした。
「ついにか。未開エリアのモンスター……どんなのが来るか、楽しみだぜ」
マモルとリディアの表情にも緊張が走る。
一行は張り詰めた空気感のまま、四角いフロアへと出た。
例によって壁と天井はトゲ。
そしてそこにいた3体のモンスターもまた、トゲであった。
紫色の体に、紫色の鋭い針。
全長は2メートルほどの、見た目はハリネズミに近いものであった。
毒々しい色ではあるものの、その顔立ちは愛くるしいものがある。
『可愛い』
『ずいぶんとトゲトゲしてるダンジョンだなぁ……』
『なんか毒ありそう』
『怖いな』
『ニードルマウスってモンスターはいるけど、全然違うな』
『色も違うし、こんなハリネズミみたいな、可愛い顔してない』
ハリネズミは全身に紫色の魔力を帯びると、ふわり、と空中に浮いた。
そしてその場でくるりと体を丸め、大きな針のボールとなった瞬間、影山達めがけて飛んでいく。
「キュウ~~~」
爆発ピヨピヨとは違って、あざとい感じの可愛らしい鳴き声だ。
しかし飛んでくるのは、大砲のような勢いの強さである。
しっかりとした殺気が感じられた。
可愛らしさで癒されている場合ではなく、これは命のやりとりなのだ。
2体はマモルと影山が引きつける。
最後の1体は、ユーマが相手した。
リディアは3人の様子を見つつ、後退していく。
空中でジグザクと飛行しながら、ハリネズミは距離を詰めてくる。
マモルは盾で、ユーマは氷の壁で攻撃をガードした。
影山は飛んで攻撃を回避しつつ、ハリネズミの様子を見る。
「キュ!!!」
鳴き声と共に、飛びながら針を発射。
影山は後ろに飛んで回避するも、床に刺さった針からはじゅううう、と湯気が発生する。
『やっぱり毒もちか』
『鳴き声可愛いね』
『攻撃はエゲつないけどな……』
ハリネズミが真っ直ぐに飛んでくる。
影山はセブンス・シールドを起動して、針によるトゲトゲタックルをガード。
ガギン、と金属音を立てぶつかり合う針と魔力の盾。
そして影山は左腕を振り、シールドバッシュを行った。
ハリネズミは衝撃で背中が伸び、可愛らしい顔が見えた。
透視スキルを起動すると、鼻に“線”と“点”が現れる。
「キュ、キュウゥ~~~♥」
なにかを察したハリネズミがなにやら、甘い声を出す。
クリクリの瞳は影山をじっと見つめていた。
まるで捨てられた子猫である。
「ダメです」
散々毒針を飛ばしたり、体当たりしておいて命乞いは通用しない。
ここはダンジョンだ。
しかも率先して先手を打ったのは、ハリネズミの方である。
影山は素早い一閃でもって“線”を斬る。
ハリネズミは一撃で倒れ、魔石へと変わった。
そしてハイパーブーストでマモルのところへ素早く移動。
マモルは影山が来たのを見て、スキルを発動させた。
「――スタンシールド」
バチバチ、と攻撃したハリネズミの体に電撃が走り、動かなくなる。
影山は透視スキルを発動した状態のまま、ハリネズミの“線”を斬った。
2体目の撃破。
そして3体目は、ユーマが自力で撃破していた。
だが、被弾したようで、左足と左手から血が出ている。
じゅううう、と生々しい音と共に湯気が発生していて、毒も効いていた。
「いてて、クソ、当たっちまったぜ」
「ユーマさん!」
リディアが駆けつけ、膝をつくユーマへ回復魔法をかける。
伸ばした両手から、癒しの光が飛んでいく。
傷口は徐々に塞がっていった。
「ふぅ~。サンキュー、リディアちゃん」
『針見づらいから回避しづらいね……』
『飛ばす時の動作もなかったな』
『うーん、厄介』
『ニキよく目で見て反応してたな』
『最後の命乞いはなんだったんだ?』
『容赦ないニキ様もかっこいい♥』
『なんでもメロつく女さん達』
影山とマモルもユーマのところへ行く。
「大丈夫かい?」
マモルの言葉に、ユーマは頷く。
「まあ、なんとかな。突っ込んでくるのをしっかり守って、カウンターにするのが良さそうだな。針飛ばして来るのが厄介だぜ」
「4体だったら危ないかも……」
影山が呟く。
ハリネズミに限った話ではないが、4体からが後衛のリディアへ敵が漏れる危険性が高まる。
事前情報があればリディアで対応できるか、時間が稼げるか吟味できるが、未開エリアだとそうもいかない。
リディアは回復魔法をやりつつ、口を開いた。
「影山さんやユーマさんのように倒すのは難しいですが、時間は稼げると思います」
『リディアちゃんのネオファン製の杖、簡易結界作れるしね』
『ハリネズミくん火力はないし、守りを固めれば時間稼げそう』
話し合いをしつつ手当てが終わると、ユーマは立ち上がった。
「おし。じゃあ、先へ行くか」




