国が隠す切り札だと勘違いされる
社員時代の貯蓄を使い、協会が経営するショップで武器の購入をしようと思い立った。装備品は探索者にとって、とても重要なものだ。
剣、棍棒、ガントレット、斧、槍──欲しいのはこの五つ。
ナイフは透視スキルとの相性が良くなかったので、候補から外れている。
ショップの隣には、協会が誇る特殊トレーニングルームが常設されていた。
ゴルフの打ちっぱなしのようなレイアウトである。受付を済ませると、青い仕切りで区切られた広い屋外スペースが広がっていた。
その一角に入り、影山は深呼吸する。
「色々試そう……」
剣、棍棒、ガントレット、槍──順番に振るい、設置されている毛皮の標的へ打ち込む。
バンッ、バンッ、と衝撃音が響いた。体が熱くなり、汗が額を伝う。
脳内で戦闘をイメージし、“線"をなぞる透視の感覚も意識。
充実感があった。武器を振るうだけで、少しずつ手に馴染んでいくのが面白い。
いつまでも続けていたいほどだ。
だが、手応えがなかった。
「どれも違う気がする」
ナイフと同じだ。
自分に合う、という確信がない。
今のところは、ガントレットが一番マシという印象なだけだ。
「じゃあ……斧か」
最後の1本、全長150センチの斧を手に取る。
銀色の柄、黒い刃。先端が白く光るスタンダードなデザイン。
両手で握ると、どっしりとした重量感がある。特に前の方へ、重心が寄った。
ブンッ、と素振りした瞬間、これまでにない印象を受けた。
(……気持ちいい)
独特なクセがあり、強烈な遠心力が生まれる。
だが、その重さが逆に自分の力を、正確に伝えてくれるような感覚があった。
影山は標的へ向けて斧を振り下ろす。
バンッ! バンッ! バンッ!
悪くない。
「斧、いいかもな」
試しに透視スキルを発動する。
頑丈な毛皮の標的に、青白い線が浮かび上がった。右肩のあたりだ。
影山は迷わず斧を振り下ろす。
──すぱぁぁぁんっ!
毛皮の人形が、バターのように柔らかく、胸の中央まで斧が食い込む。
どさり、と右腕がブラブラぶら下がった。
「あっ」
間抜けな声がもれた。
その陰キャ、店の毛皮人形をうっかり壊したのである。
影山は小声で店員に謝ったが──この出来事は、裏でちょっとした騒動を引き起こすことになった。
☆
店じまいの後に店長は、監視カメラの映像を何度も巻き戻し、見ていた。
「店長、戸締り終わりです」
入社一か月目の新人が報告。店長はちょいちょい、と手招きした。
「見てみろ。とんでもないぞ」
流れる映像は、影山が人形を壊した瞬間だ。
斧で深い切れ込みを入れた後、影山がキョロキョロしているが、そこはどうでもいいらしい。
「……ありえない」
店長はつぶやいた。
「たしかに探索者はステータス補正で強い。が、こんな簡単に、あの人形を斬れるわけがない」
「優秀な探索者ってことですか?」
「優秀? いや、そんな次元の話じゃない」
ただならぬ話の気配に、新人がごくりと唾を飲む。
「ま、マジですか」
「この店の人形は特別なものを仕入れている。あれは国内に五人しかいない、レベル100越えの化け物探索者の攻撃に、100回も耐えたという実績があるんだ」
「えっ!? で、でも、例えば、古い個体だったのでは……?」
「残念だが、今日入荷したピカピカの新品だ」
「っ!?」
「探索者は配信が義務だ。俺は彼らのファンで、かなり詳しい。マイナーな新人もチェックしているが……あんな怪物、見たことがないし、話題にも上がっていない。何者なんだ、あの青年は」
「や、ヤバいですね……あの自分、普通に接客しちゃいましたよ……?」
「次からはVIP扱いだ……もしかしたら、国が隠している危険な“切り札”なのかもしれん!」
「ひいいいっ! 怖いっ!」
男二人は勝手に勘違いして震え上がり、翌朝には従業員全員へ、この勘違いを共有させた。
『彼はおそらく、国家レベルの重要人物だ。失礼のないように!』
そして朝。
影山が回復アイテムを買いに来ると──店員全員がカタカタ震えていた。
(……さてはみんな疲れてるのか。社会人は大変だ)
影山はそんなことを思いながら、会計後に店を後にした。
本作の閲覧ありがとうございます。
もし内容がよろしければ、★★★★★評価・ブックマークをいただけると、とても助かります。
何卒、よろしくお願いします!




