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豊穣神イナリの受難  作者: 岬 葉
一般人イナリの受難

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460 壁に耳あり障子に目あり

「――なるほどね、そんなことになってたんだ。それは私が殺されかけるのも無理ないね」


 イナリから事情を聞かされたラズベリーがうんうんと頷く。全体的に感情の起伏が感じられない様子は、どことなくスティレを想起させる。


「そういうことなら、私も協力してあげる」


「む?」


「今のところ、聖騎士が一番怪しいんでしょ。内緒話してないか、探ってきてあげる。もちろんそれ以外のことも、ね」


 ラズベリーの言葉に、イナリはエリスと目配せをした。ここからさらにイナリ陣営が増えるのはありがたくはあるが、ラズベリーを信頼できるかどうかはまた別の問題である。


「我に協力して、お主に利はあるのかや?」


「当然、ある」


 探りを入れたイナリの言葉にラズベリーは頷く。


「雇い主にとって貴方が死ぬのは都合が悪い。直々に伝えないといけない伝言ってことは、内容も相当重要なこと。それを伝えられなかったとなれば、信用問題になる」


「つまり、イナリさんのためというよりは、雇い主のためということですね」


「そう。だから、この手錠、外して?」


「急に猫なで声を出し始めるでない……」


 両手を前に出して「きゅるるん」とでも擬音が鳴りそうな角度で首を傾げるラズベリーに、イナリは困惑した。


「エリスよ、どうするかの?」


「最終決定はイナリさんに委ねますが……フルーティさんの知り合いというだけでは、信用するには少々弱いかと。そもそもフルーティさんのこと自体、自信を持って信用できると言えるほど深く知りませんし――」


「なら、一日頂戴。結果で示す」


 イナリの相談に応えていたエリスの言葉にラズベリーが割って入る。


「結果で、とな?」


「そう。この教会や外の怪しい動きをざっと確認して、教えてあげる。真偽はそっちで判断してもらって、それで信用できないならそれまで。どう? 判断の材料は多いに越したことはないでしょ」


「ふむ……では、そのようにしてもらうとするかの」


 ラズベリーが刺客の類とは思っていないが、何事も警戒するに越したことはない。それに、現状はイナリもエリスも教会内部にばかり目を向けていたので、外からの情報が手に入るのは有難い――もちろん、それが虚偽情報でない前提ではあるが。


「とりあえず明日、人がいないタイミングを狙って来るから。それまで死なないでおいてね」


「うむ。お主も、次はベッド下に潜り込むのは止すのじゃぞ」


「そうする。まだ死にたくないからね」


 ラズベリーはそう言い残すと、目の前でまるで霧のようにふっと姿を消した。なんとも面妖な術が使えるらしい。


「イナリさん、先ほどはすみませんでした。不意を突かないといけなかったので、仕方なく……」


「まあ、そうじゃな……もう少し優しくしてもらえるとありがたくはあるがの」


「シーツなどの交換は後にして、まずは朝食にしましょうか。群青新薬もお出ししますね」


「うむ」


 ベッドの下から現れた非日常が去り、またイナリの部屋には穏やかな時間が流れ始めた。


「……というかあやつ、手錠かけたまま行ってしまったが、大丈夫なのかの?」


「まあ、大丈夫なんじゃないですか?」


 ……余談だが、後で訪れたガーディにシーツの交換を頼んだら、イナリが()()をしたのかと誤解されて一悶着あったりもしたが……それはまた別の話である。




 翌朝――イナリが目覚めると、まずエリスと目が合った。彼女はふっと笑みを浮かべ、イナリの頭を撫でる。察するに、先に起きてイナリの寝顔を眺めていたとか、そんなところだろう。


「おはようございます。体調はどうですか? 昨晩の時点でかなり良くなっていたと思いますが」


「そうじゃな……」


 確かに、体の怠さや暑苦しさが失せたし、睡眠の質も悪くなかった。


「体が動かんのは変わらずじゃが、熱は収まったと思ってよかろ。まさか風邪というのがあんなにも辛いものとは思わなかったのじゃ。人間、すごいのじゃ……」


 イナリは仰向けになり、ぷるぷると腕を上げて動かしながら返した。


 その流れでもちまるの方に目をやると、その体に昨日も見た一枚の小さな紙に加え、封筒が刺さっていた。


「……お主、何だかいいように使われておらぬか?」


『はい かも』


「イナリさんが寝ている間に、ランティス様とラズベリーさんが来られたんです。起こさないようにと気を利かせて、今回も手紙にしてくださいました」


「そうか。今度礼を言わねばの」


 イナリは呟きつつ、郵便受けと化しているもちまるの体から、ランティスのものと思しき手紙を取った。


『今日もお休みのようでしたので、確認しておきました。結果、変化なし。体調がよくなったと伺いました。引き続き、体調を注視してお過ごしください』


「ふむ。まあ、無難な感じじゃな」


 ランティスからの手紙をエリスに回し、続けて封筒を取り、逆さにして中身を取り出す。顔面に落下した紙を広げると、そこには何やら色々と書かれている。




==========


 約束通り、思いつく範囲で色々探った。

 こちらで大まかに確認した情報は以下の通り。一部、昨日より前の情報も含まれている。


 ・聖騎士について


 イナリに対して不満の声が上がっている。

 内容は聖女に関連。「独占している」「脅迫している」との噂や「どうして聖女が獣人ばかり気にかけるのか」といった内容。

 嫌がらせを画策する者もいるが、制止する者もいるので歯止めがかかっている。直ちに何かが起こる可能性は低い。

 とはいえ一日でこんなに簡単にわかるあたり、相当恨まれてそう。何したの?


 ・神官からのイナリに対する評価


 同情、心配が多数を占めている。

 時々ドロッとした人間関係の香りを感じたけど、大丈夫?


 ・聖女について


 聖女ランティスに不審な様子は見られなかった。

 聖女アリシアが魔の森への遠征から帰還した際、何度か遠方からイナリの病室を眺めていた。

 心配している割には少し思い詰めているようにも見えた。何か心当たりはある?


 ・「協力者」について


 神官ガーディに不審な様子は見られなかった。神官エリスには不審な様子が見られたが、スキンシップの一環と判断。全部は見てないから、安心してね。


 ・冒険者について


 以前、ロビーでエリック他パーティメンバーに対し、イナリの穴埋め要員として「虹色旅団」へ入れないか頼み込む冒険者がいたらしい。

 暗殺者を雇うとか、そこまで露骨なのは無いと思いたいけれど、逆恨みは警戒したほうがいいかも。


 ・その他


 魔の森で活動していた「世界庭園創造会」の残党メンバーが街の中に潜り込んでいる可能性があるとのこと。

 全員分の手配書があるわけでもない現状、誰が残党かの判断は困難。

 連中は思考回路がおかしいから、イナリを狙いに教会に忍び込む可能性も高い。要警戒。


 以上、報告する。

 返事とか聞きたいことがあるなら、手紙に書いてスライムに差しておいて。


==========




「……すごいのう。一日でこんなに情報が集まるものなのかや?」


 所々に挟まれている報告書の体裁を無視したラズベリーの言葉は一旦置いておくとして、報告内容自体は、非常に有益と言って差し支えない。


 何より、冒険者や「世界庭園創造会」についての情報は初耳だし、教会に籠っているだけでは絶対に手に入らない情報である。


 これはエリスも目を通しておくべきだろうと、イナリはエリスに報告書を手渡した。彼女は上から順番に目を通し――わなわなと手を震えさせながら、愕然と呟く。


「何ですか、これ……」


「どうしたのじゃ?」


「どうして、私が不審者扱いされているのですか?」


「……はて、なぜじゃろうな」


 ここ最近は寝つきが悪かったので、イナリが眠っていると思っているエリスが、時々イナリの前で挙動不審になっていたことを実は知っているのだが……そういうことは言わないでおくのも、優しさである。

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