457 群青新薬を貰いに ※別視点
<ガーディ視点>
イナリさんのお洋服をお借りした私たちは、昼の暖かな日差しを浴びながら、錬金術ギルドへ向かいました。
道中、もちまるさんが屋台や公園など、色々なものに興味を示していましたから、今度ゆっくりお散歩でもしてみましょうかね。
「もちまるちゃん、大丈夫ですかっ? 体に違和感とか、あります?」
『いいえ』
キモノの上からさらに上着を羽織ったもちまるちゃんが、文字盤を叩きながらややぎこちない動作で首を振ると、透き通った銀色の髪が揺れます。比喩ではなく、本当に少しだけ透けています。
「もちまる、どうして歩けてるんだろう。歩き方とか教わったりした?」
『みて おぼえた』
「ほえぇ、すごい吸収力だねぇ。この特性もスライム由来なのかな?」
『わからない』
もちまるちゃんのことを観察するついでに、ハイドラさんとの橋渡しをして下さるとのことで、リズさんも一緒に着いてきて下さっています。ハイドラさん側からしてみれば、いきなり知らない神官にポーションを要求されたら、怖いですしね……。
というわけで、早速リズさんがハイドラさんの研究室の戸を叩きます。
「――ハイドラちゃん、起きてるー?」
「――はーい! 今行くねー!」
呼びかけたリズさんの言葉に、中からハイドラさんのものと思しき返事が返ってきます。
「ハイドラちゃん、結構変な時間に寝てることも多くて。寝てたら出直さないといけないから、今日はツイてるね」
「そ、そうなんですね」
神官は人々に教えを説く立場として、常に規則正しい生活を送るべきと教わっていますが……職業が変われば、生活習慣も全然違うんですね。
感心しつつ待っていると、扉が開き、中から茶色いウサギの少女が現れました。
「お待たせリズちゃん! 今日はどうしたの? って、わ、また新しい獣人の子?」
ハイドラさんはもちまるちゃんを目にすると、ピンと耳を立てて声を上げました。この街は最近になって少しだけ獣人が増えましたが、それでも珍しいのは確かです。
「ええと、紹介するね。まずこっちがガーディさん。エリス姉さんと同じ、神官さん」
「初めまして。よろしくお願いしますっ!」
「神官さんですか。こちらこそよろしくお願いします!」
リズさんの紹介に合わせて、元気に挨拶をしておきます。第一印象は大事ですからねっ! 私とハイドラさんが握手を交わす傍ら、リズさんが紹介を続けます。
「で、そっちの狐獣人の子が、スライムのもちまる」
『よろしく』
「うん、よろしく……うん?」
文字盤を掲げたもちまるちゃんを見て、ハイドラさんはぴしりと硬直します。
「えっと、これはどういう……? スライムのもちまるとは別の方?」
「いや、スライムのもちまるだよ。よくわからないんだけど、イナリちゃんを複製できるようになったんだって」
「確かにイナリちゃんに似てるとは思ったけどね? それってよくわからないで済ませていいことなの……?」
「まあ、イナリちゃんって何でもアリみたいなところ、あるし」
「それもそっか」
……イナリさんって普段、そういう扱いなんですね……。
「それで、今日はどうしたの?」
「あ、リズじゃなくてガーディさんが用事があるって。ここからは本人に説明してもらった方がいいよね?」
「あ、それでしたら、狭いですけど中でお話しましょう! どうぞ入ってください! ……あ、その辺触ると大変なことになるので、気を付けてくださいね」
「は、はい……」
な、何だか、入っていいのかダメなのか、わかりづらいですね……。
「――というわけで、イナリさんのために『群青新薬』を少しお譲り頂きたいのです」
「なるほど、わかりました! 少し在庫があるので、お帰りの際にお渡ししますね!」
……思いのほかあっさり快諾して頂けて、あっけなく用事が済んでしまいました。きっとリズさんがついてきて下さったおかげですね。
「それにしても……イナリちゃんが聖女様を気絶させた以上にビックリすることがあるとは思わなかったなぁ」
ハイドラさんが、私の隣で人形のように座っているもちまるちゃんを見て呟きます。スライムが人の形になるという話は聞いたことがありませんが、冒険者や錬金術師ですら同じ反応をするとなると、本当に前例がないことなのかもしれません。
「リズとしては、もちまるの学習能力の高さに可能性を感じてるよ。その吸収力、魔術研究に活かしてみない? 魔術が使えると、楽しいよ!」
『あるじ やくにたつ?』
「もちろん! それに、できる事が増えれば世界が広がるよ! 護身にも最適だし!」
手を広げてもちまるちゃんに魔術の良さをアピールしているリズさんは、とても楽しそうです。私は聖魔法以外の才能はからきしで、魔術方面のことは全然わかりませんが……。
「リズさん。もちまるちゃんは魔法を使えるんですか?」
私が尋ねると、リズさんが杖先を弄りながら首を傾げます。
「……多分? 魔法を使うスライムは見たことないけど、空気中のマナを吸収して、魔力を多くもつスライムは結構多いんだよねぇ。倒した時に爆発するスライムとか、そういう感じの」
「あー、たまにそれで治療を受けに来る方がいらっしゃいますね」
私は回復術師ではないのであっても遠目に見るくらいですが、結構な重傷を負われていることもしばしばあるイメージです。
「……もちまるちゃんは自爆なんて、しませんよねっ?」
『しない あるじがくれた いのち だいじ』
「そうですよね。よかったー……」
もちまるちゃんはもう、私の友達と言っても過言ではない存在です。そんな子が自爆するところなんて、見たくないですからね。
「で、どう? リズと一緒に魔法の練習、してみない?」
『きょうみ あり』
「いいね! ガーディさん。この後、少しもちまるを借りてもいいですか? 魔術が使えるか検証をしたくて……多分、二時間くらいで終わるはず」
「はい、大丈夫ですよっ!」
「それなら、私も見学させてもらおうかな? 錬金術が何かの役に立つかも!」
「ふふふ。魔術が使えるとわかったら、もちまるを地上最強のスライムにしてあげるよ」
『たのしみ』
「私も応援していますよっ! もちまるちゃんが強くなったら、親衛隊の戦力が大幅に増強されますからねっ!」
「うんうん……うん? 親衛隊……?」
私の言葉に、二人が怪訝な表情を浮かべました。そういえば、親衛隊のことは誰にも話していませんでしたね。
「説明しましょう。親衛隊とは、イナリさんとエリス様の素晴らしい関係を護り、尊ぶ会ですっ!」
「えーっと……それ、メンバーはたくさんいるの?」
「いえ、私一人で……あ、今はもちまるちゃんも居るので、二人ですねっ! お二人も入会しませんか?」
「あっ、リズはそういうの、大丈夫です」
「わ、私も間に合ってますかねー……」
「お、お二人とも? どうして急に他人行儀になっちゃったんですかっ……!?」
もちまるちゃんという共通の話題で、少しは仲良くなれたかと思っていたのですが……急に心の距離が遠くなった気がしましたし、心なしか、視線に冷たさが含まれているような?
「やっぱり神官って、こんな人ばっかりなんだ……」
誰かの口からそんな呟きが聞こえてきましたが、何か変なことを言ったでしょうか? うーん、よくわかりませんね……。




