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豊穣神イナリの受難  作者: 岬 葉
一般人イナリの受難

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457/463

456 2Pカラー ※別視点あり

<イナリ視点>


「それで……どうするんですか?」


「どうする、とは?」


 ガーディの言葉にエリスが首を傾げる。


「いえ。中身がもちまるちゃんとはいえ、イナリさんが出歩いていたらおかしいですよね?」


「そうですね……もちまるの変化って、イナリさん以外だとどうなりますか? 例えば私とか、どうです?」


 エリスが自身を指さして問いかけると、もちまるは毛布の中に潜り込み――三十秒ほどすると、髪や毛が銀色になり、目が青くなったイナリがぴょこりと現れた。服もイナリが着ているそれと全く同じである。


「色だけエリス様になりましたね」


『かたち わからない これ げんかい』


「それでも十分すごいですよっ!」


 文字盤で告げたもちまるに対し、ガーディは拍手して讃えた。


「とはいえ、服は別で用意しないといけなさそうですね?」


「それなら、我の家にエリスが買ったものがたくさんあるのじゃ。それを使うとよかろう」


「確かに、それが一番よさそうですね。エリス様はどう思われますか?……エリス様?」


 ガーディがエリスの方を見ると、彼女は何やら興奮した様子で顔を抑えていた。……あれは多分、変なことを考えて思考がどこかへ飛んで行ってしまっている時の挙動だ。


 エリスがこのようになるのは、大体の場合、行き過ぎた心配性か、イナリ関連の妄想が働いた時――今回は言わずもがな、後者だろう。


「ガーディ、エリスは放っておくのじゃ。すまぬが、もちまると共に行ってきてくれぬか?」


「はいっ、大丈夫で……あっでも、外に出るにはどうしたら――」


「スライムの姿で連れていけばよいのじゃ。変身自体はどこでもできよう。そうであろ?」


『はい』


 無表情ながら、どこか自信ありげに文字盤を叩いたもちまるに、イナリは微笑んだ。


「もちまるも動けるようになれば、色々動けることも増えよう。すまぬが、色々教えてやってくれたもれ」


「任されましたっ! それじゃもちまるちゃん、一緒に行きましょう!」


 ガーディが告げると、もちまるは再び毛布に潜り、スライムの姿に戻った。しつけを忠実に守る、実に健気なスライムである。……イナリを窒息させたことだけは、もう少し考えてほしかったが。


「あ、従魔用のタグと、文字盤もお借りしますね」


「うむ。気を付けるのじゃぞ。もちまるも、迷惑をかけぬようにな」


 タグともちまるを抱えたガーディを、イナリはおもむろに手を振って見送った。


 何となく、子を見送る親の心情とはこういうものなのだろうか、などと考える。きっと、もちまるが成長したら喜べる日も来ることだろう。


「さて。エリスよ、そろそろ戻ってくるのじゃ。我は喉が渇いた。水をくれぬか?」


「……え? あっ、大丈夫ですよ。って、もちまるとガーディさんは?」


「お主が妄想を膨らませている間に、出かけたのじゃ」


 イナリは水差しから注がれる水をちびちびと飲みつつ返した。




<ガーディ視点>


「――よし、無事に抜けられましたねっ」


 私はもちまるちゃんを抱え、街を歩いていました。聖騎士様の近くを歩くときは少し怖かったですが、エリス様から聞いたような事態は特に起こりませんでした。


「それじゃ、どこかで変身しましょうか。それか、もう少しこのままの方がいいですか?」


『あるきたい』


 もちまるちゃんはとてもお利口で、文字盤に体をぺたぺたと伸ばして会話してくれるのがとても可愛らしいです。イナリさんとエリス様の鑑賞に次いで癒しを与えてくれるので、ここ最近、割と本格的にスライム飼育を考えてしまっています。


 ひとまず適当な路地裏に入り、もちまるちゃんを地面に下ろし……周囲に人目はありませんが、念のため覆いかぶさるように立って……。


「はい、大丈夫ですよっ」


 私が合図すると、もちまるちゃんがもごもごと膨らみ、さっきも見た、銀髪蒼眼の狐少女の形になりました――ただし、服なしの状態で。


「ちょ、ちょっと!? 服! 服はどうしたんですか!? さっきは着てたじゃないですかっ!」


『ふくは べつ よういする いった』


「確かに言いました……言いましたけどっ! とりあえず、さっきの服を纏ってくださいっ!」


 私が訴えると、もちまるちゃんはどこか不服そうな様子になりながら、体に服を生やしました。イナリさんが言っていた「色々教えてやってくれ」って、こういうのも含めてのことだったんですね……!


「もちまるちゃん。基本的に、どんな時でも服は着ていなきゃダメですっ。いいですか? わかりましたか??」


『はい』


「はあ、ビックリしちゃいました。それじゃ、錬金術ギルドに行く……前に、服を調達しておかないといけませんね」


 危うく、路地裏で少女を襲ったと思われて人生が終わるところでした。


 あるいは、従魔のスライムだから大丈夫と言えば無罪に――いや、普段お世話している子に変身させているというのも、傍から見ればかなり変態的な所業なのでは……?


 ともあれ、今のもちまるちゃんの服装は外歩きに適しているとは言えません。先にパーティハウスへ向かい、服をお借りすることが先決でしょう。


 私はもちまるちゃんの手を引いて再び街道に戻りました。




「――ええと、確かこの辺でしたっけ?」


 私たちは冒険者ギルド管轄のパーティハウスが立ち並ぶ区画へ足を運びました。ところどころ、大工さんが作業をされているみたいですが、大規模な改装でもしているのでしょうか。


 ともかく、目的の「虹色旅団」の表札が掲げられた建物を見つけると、私は早速戸を叩いてみます。


「ごめんくださいっ! どなたかいらっしゃいますか?」


「――はーい! 今行きます!」


 ぱたぱたと足音を立てて現れたのは、赤髪の女の子でした。確か、「虹色旅団」の火力担当の魔術師、リズさんですね。


「お昼時にお邪魔してしまい申し訳ございません。私、アルト教会メルモート支部所属の神官、ガーディと申します」


「うげっ、神官さん……また何かあったんですか?」


 露骨に顔を顰めるのは、先日のイナリさんと「時詠みの聖女」様の間でのトラブルの件で、「虹色旅団」の皆さんにも色々と影響があったからでしょう。


「いえ、今回は例の件とは関係はないんですっ。その……この子のお洋服を、お借りしたく」


『おかり したい』


 私の言葉に続くように、もちまるちゃんも文字盤を掲げて訴えます。しかし、リズさんはぽかんとしています。


「えーっとぉ……すみません、この子はどちら様ですか? すごくイナリちゃんにそっくりですけど……」


「ええと、私もあんまりよくわかっていないんですけど……もちまるちゃん、です……」


「はい??」


 まあ、そうなりますよねっ! 初めてもちまるちゃんの人化した姿を見た私も、多分こんな反応だったんでしょうね……。


「んー……とりあえず一旦、入ります?」


「すみません、お邪魔します……」


『ただいま する』


 もちまるちゃんからしたら帰宅なんですね。何だかややこしいですね……。




 リビングに通されると、他のパーティメンバー、ディルさんとエリックさんも来て下さいました。そこで、イナリさんの近況もご存じないようでしたので、併せて説明し――紆余曲折を経て、無事、服をお貸し頂けることになりました。


 そんなわけで、今はリズさんに寝室まで通して頂いています。


「ここ、右側がリズで、左側がエリス姉さんとイナリちゃんの場所になってます」


「ここが……」


 ここが、私が大好きなお二人が暮らしている部屋。ベッドが一つということは、いつもここで仲睦まじく過ごされていたということで――。


「――おーい、ガーディさん?」


「はいぃっ!?」


 逸れていた思考が、リズさんの声で引き戻されました。いけません。今はあくまで、もちまるちゃんに教育する立場なのですっ。


 それに、私が大きな声で返してしまったせいか、リズさんまで困惑させてしまいました。気をつけないと……!


「ここ、エリス姉さんが管理してるクローゼットです」


「ありがとうございますっ!」


 お二人のことを考えていると変になりそうなので、目の前のクローゼットに意識を集中させることにします。


「もちまるちゃん、どんな服がいいですかっ?」


『わからない』


「ふふっ、そうですよね。一緒に見てみましょうっ! 例えばこれとか――」


 私は適当にクローゼットに掛けられた服を手に取り、取り出しました。


 ――それは、フリフリとした装飾が過剰についたメイド服でした。


「あっ、間違えちゃいましたねっ! こっちはどうですか??」


 多分今のは、見なかったことにした方がいいものです。私は咄嗟の判断で、別の服と取り替えました。


 ……こっちはこっちで、もこもこした羊のお洋服、明らかにパジャマです。なるほど、イナリさんに可愛い物を着せたい気持ちがよく伝わってきます。わかります。とはいえ、外を歩くための服としては不適切です。


 私が服をクローゼットに戻していると、もちまるちゃんが私の服の裾を引っ張り、文字盤を叩きます。


『がーで わがはい これがいい』


「ん、どれですか?」


 私が尋ねると、もちまるちゃんがある衣服を指さしました。それは何だか不思議な構造の、どこか洗練された雰囲気の服……というか、布のようなものでした。


「これは……?」


「あっそれ、キモノっていうやつです。前にイナリちゃんが教えてくれました」


『これなら まね できる』


 リズさんが補足してくださる傍ら、もちまるちゃんは文字盤を置くともごもごと動き、薄緑色の着物を体に纏いました。本来は特殊な着付けが必要そうですが、体を変えるだけなのでその点の問題は無さそうです。


「おぉー……確かにイナリちゃんがよく着てるし、見慣れてるもんねぇ」


「確かに素敵だとは思いますが、目立ちませんかね?」


「まあ、そこそこ目立つかも? でも、イナリちゃんはそれ以外の要素でも目立ってるからなあ……」


 私の質問に、リズさんが首を傾げつつ返してくれました。


「そういうことでしたら、追加で羽織るものも着せてあげましょう。お着替えの仕方も教えてあげたいので、普通のお洋服もお借りしますね」


 私はクローゼットから「普通の」服をいくつか見繕って回収しました。その間、ちょくちょく目に留まった「普通でない」服については……忘れられたら、いいんですけど……。

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