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鬼の宴 - ENN -  作者: 星夜 燈凛
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底無しの男








 とある居酒屋で、増田篤謙は戸惑っていた。






「……でさぁ、その時さぁ、

 萬羽さんがそいつの腕を取ってぇ……って、おい!


 あつかねぇっ!聞いてるかぁ?!」




「あ、うん。聞いてる、聞いてる。」



 半べそをかきながら熱く泣き言を語っている雄太に篤謙は棒読みの返事をする。




 なぜなら篤謙にとっての今の問題は雄太の絡み酒ではないからだ。





 この男……


 酒の消費量とスピードが半端ない。





 ビールはピッチャーをあおっておかわりするものだったか。


 はたしてワインはデキャンタから直接水を飲むように飲むものだったか。



 もし、篤謙のようにお酒は嗜む程度の普通の人間が同じ速度で飲み進めれば、間違いなく今頃病院のベットの上だ。




 凄まじいスピードでグラスもといピッチャーが空いていくが、それをたいらげている目の前の男の顔色はほとんど変わらない。


 なんだか日本酒とおちょこを片手にちびちび飲んでいる自分が馬鹿らしくなってきた。




「あいつ、萬羽さんのなんなのかなぁ~。

 やっぱり彼氏なのかなぁ……。


 はぁあぁ~……。



 って、あれぇ。もうお酒がないや……。


 すいませーん!!」



 雄太が元気よく店員さんに追加の注文をする度に、この店の店長のものだろうか厨房の奥から中年の男性のすすり泣く声が聞こえてくる。定額の飲み放題でこれだけ飲める客が現れるなんて店側も想像していなかったのだろう。



 そんな嘆きを全く想像もしていない雄太はハイボールのピッチャーを店員さんに要求している。




 結局、2時間の飲み放題は雄太だけでしっかりと篤謙の分まで元を取り、前代未聞の事態に騒然とする店内を後にしたのだった。










「あぁ~……。流石に飲みすぎた……」



 とぼとぼと歩きながら雄太は先に立たない後悔の真っ最中であった。



 お酒を飲んだ後に自転車を飲酒運転する訳にはいかないので、篤謙は電車、最終のバスの時刻はとうに過ぎた雄太は徒歩で各々の帰路についた。



 先程から続く長い登り坂がアルコールが回った身体を更に火照らせる。



 やっとの思いで坂を登りきると、その場に立ち止まり、両膝に手をついて上がりきった息を整える。



 ドクンドクンと暴れる鼓動が自分の鼓膜を突き破ってしまいそうだった。



 さわさわと吹く夜風がとても心地いい。



 顔を上げると、坂の上の両脇の森に縁取られるようにして見える街の夜景が、キラキラと輝いて美しかった。




 小学生の頃、友人達とこの坂を登り、冒険と称してこの坂の上の森でよく遊んでいた。


 右手にある石畳の階段を登ると神社があって、そこの一角から街が一望出来るのだ。


 大冒険の末に見つけた『自分達だけの秘密の場所』というくすぐったい気持ちと、普段なかなか見下ろすことのない街の景色にワクワクしたものだ。



 普段は自転車で素通りしてしまうので、大人になってから立ち寄ったことはなかった。





 久しぶりに立ち寄ってみようか。




 幸いな事に立ち止まって夜風にあたっていたおかげか、ちょうど良くお酒も抜けてきて気分が良い。


 雄太は昔懐かしい気持ちに心を躍らせながら石畳を登り始めたのだった。












 ひゅ────

 りぃっ────……



 しんっと静まり返った森に澄んだ篠笛(しのぶえ)の音色が響く。



 月夜に照らされた神社の屋根の上で、一人の男があぐらをかいて笛を奏でている。



 ひゅ────

 りぃっ────……



 篠笛の名手と言う言葉は彼のためにあると言うほど、彼の奏でる音色は透明で美しく、それでいてどこか寂しげだった。



 ひゅ──

 りっ…………



 突然笛の音が止む。




「誰か、来る……。」




 よく耳をすませると、少し調子の外れた男の叫ぶような歌声が聞こえてくる。


 声の主はこの神社の階段を登ってこちらに向かってきているようだ。





 こんな時刻に明かりもない薄暗い森の神社にやってくるとは……。




 道に迷った酔っ払いだろうか。それかよほどの物好きか。






「異界の入口に迷い込んでしまっては大変だ。」




 ちりんっ




 男が小声で呟くと、鈴の音がして男の隣に紅白のしめ縄のようなリボンと鈴の飾りを首につけた三毛猫が現れる。



 猫はゴロゴロと喉を鳴らして差し出された男の手にすり寄ってよしよしとなでられている。




「みりん…………頼んだよ。」




 にゃぁんっ




 分かってか分からずか短くひと声鳴くと、みりんと呼ばれた猫は屋根伝いに地上に舞い降りる。






 猫が地上から屋根の上を振り返る頃には、そこに居た男は既に夜の闇に溶けて消えていたのだった。


















 おまけ

 とある居酒屋の店主のどーでもの宴。




 どうも……。

 わたくし、しがない居酒屋をやって20年の店主です……。


 あぁ、なんでこんなにどんよりしゃべるのかって?




 いや、聞いてくれよぉ〜!



 俺は今日まで真っ当に真っ当に、早い安い美味いを貫いてきた。大学も近いからか若いお客さんで溢れかえって、お店もそこそこ繁盛して、楽じゃあねぇけど、お客さんが居てくれるってだけで、そりゃあ恵まれていると思うよ。


 でもよぉ?あの兄ちゃん、春日とか言ったか?

 あいつ、一日の営業で使うはずの酒、全部開けちまったんだよぉ!!ありえねぇだろぉ〜?!


 えー、なになに?ここでどーでも情報……。

 『春日雄太は刺青が現れてから、日本酒10升は飲める。』


 …………。


 常人の100倍じゃねぇかよ!!

 あの兄ちゃん頭おかしいだろっ!!

 普通1升超えたら死ぬからっ!!


 まぁ、若い奴が元気なのは良い事だからな。

 でも、お前らは真似するんじゃねぇぞ?

 わかったか?


「店長、そろそろ閉店時間です。」


 おぉ、もうそんな時間か。

 ったく、日本酒は1合をちびちび飲むのがうめぇんだよ。

 じゃ、また次の話でも読んでくれよ。


 あっ、お客さんお帰りですか。

 ありがとうございやした〜!


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